AHLから見るフロリダとバンクーバーのNHL育成戦略とは

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はじめに

 長年の苦難を乗り越え、NHLの強豪へと変貌を遂げたフロリダ・パンサーズと、いまだ頂点を目指し続けるバンクーバー・カナックス。両チームがたどってきた波乱万丈の道のりを、育成リーグであるAHLでの歴史に焦点を当てて深掘りします。

 なぜ彼らはこれまでAHLの最高タイトルであるカルダー・カップを獲得できなかったのか? そして今、その歴史を変えようとしている両チームの新たな戦略とは? ホッケーファンならずとも必見の、知られざる舞台裏に迫ります。

参照記事:Lake Cowichan Gazette1Florida Panthers, Vancouver Canucks Finding Long-Term AHL Success

フロリダ・パンサーズとバンクーバー・カナックスの長い道のり🏒✨

 フロリダ・パンサーズが火曜日の夜、エドモントン・オイラーズを破り、スタンレーカップを2年連続で制覇し(球団史上2度目の優勝)、NHL界に大きな話題を呼んでいますね!🎉

 しかし、そんなパンサーズも1993年に拡張チームとしてNHL入りして以来、3シーズン目に2スタンレーカップファイナルに進出しましたが、その後ほぼ30年近くリーグの下位をさまよい続けました。そんな苦難の時期を乗り越え、やっと今のような強力なチームができあがり、新たな王朝を築きつつあります。

 一方でバンクーバー・カナックスも、球団創設から55年の歴史を経過しましたが、ホッケー界最高の栄誉にあと一歩届かない歴史が続いています。

 1982年にはニューヨーク・アイランダースの黄金期に阻まれ、1994年にはニューヨーク・レンジャーズと激闘の末7ゲームまでもつれ込み、スタンレーカップ史上最も記憶に残るシリーズ3のひとつを演じました。そして2011年にもボストン・ブルーインズと7ゲームの大接戦を繰り広げ、残念ながら敗れています。

 しかし、両チームともにカルダー・カップ(AHLの最高タイトル)をまだ獲得していません。これは、彼らのマイナーリーグでの苦難の歴史を象徴しています。

 この状況は、アボッツフォード・カナックスとシャーロット・チェッカーズによる現在の対決で、来週中にも変わる見込みです。シリーズ第4戦は今夜、アボッツフォード・センターで行われます。第3戦でアボッツフォードは6対1と圧勝し、シリーズを2勝1敗とリードしています。

【追記】シリーズ第4戦は6月19日(日本時間では翌日)に終了しており、3-2でアボッツフォード・カナックスが勝利。3勝1敗でAHL制覇に王手をかけている。

第4戦のハイライト映像はこちら!

 バンクーバーの有望選手たちは、AHL制覇に最も近づいている存在です。以前のAHL提携チームであるユーティカ・コメッツは2015年にカルダー・カップファイナルへ進出しましたが、惜しくも優勝は逃しました。マニトバ・ムースも2009年に挑戦しましたが敗退。

 そして1988年には、ケベック・ノルディクスとの二重提携4でフレデリクトン・エクスプレスに、バンクーバーの若手選手が所属していた際、カルダー・カップ・プレーオフ史上唯一となる12戦全勝を記録したハーシー・ベアーズと対戦し敗れました。

長く続いた提携チームとの“旅”🚗💨

 バンクーバー・カナックスとフロリダ・パンサーズの両NHLチームは、長い間それぞれのトップアフィリエイト(育成チーム)探しの長く複雑な旅を続けてきました。

 バンクーバーがNHLに加盟した1970年当時、最初にAHLのロチェスター・アメリカンズと提携。しかし、新たなロゴ5が不評だったことや成績不振も重なり、その関係はわずか2年で終了。80年代にはフレデリクトン(・カナディアンズ)との関係がある程度機能しましたが、その後は国際ホッケーリーグ(IHL)6のミルウォーキー・アドミラルズへと移りました。

 1990年代から2000年代にかけて、1992年には再びAHLへと戻り、ハミルトン・カナックスを設立しましたが、これも2シーズンで終了。その後はシラキュース・クランチとして2000年まで活動し、IHLのカンザスシティ(・ブレイズ)に1年だけ拠点を移しましたが、IHL自体が消滅したため、バンクーバーは再びAHLへと復帰します。

 今度はマニトバ・ムースとの提携で、これが比較的うまくいきましたが、2011年にウィニペグ・ジェッツがNHLに復帰したことでムースは移転7し、提携関係も終わりました。急遽、バンクーバーはシカゴ・ウルブズと提携し、2013年にはユーティカと提携してようやく安定した関係を築いていきます。

 一方フロリダも1993年にIHLのシンシナティ・サイクロンズと提携したものの、2年で終了。1990年代半ばには、多くのチームが育成重視のAHLへ移行する中で、フロリダもノースカロライナ州グリーンズボロのカロライナ・モナークスと提携しました。

 この体制は機能する可能性がありましたが、1997年にカロライナ・ハリケーンズが同州に移転してきたことで、モナークスの存続8が危ぶまれ、短期間とはいえ、ハリケーンズとの二重提携を強いられた苦しい時期となります。結局、モナークスはニューヘイブン・ビーストに移ることとなりました。

 この関係も長続きせず、フロリダはケンタッキー州ルイビルへと移転しましたが、ここでも失敗に終わり、常に変動するフロリダのフロントオフィスは、有望選手の育成拠点を安定して確保するという、長く曲がりくねった旅を続けることになっていきます。

 どちらのチームも地理的な問題やチームの成績、地域のファン層など、さまざまな困難に直面しながら、自分たちの育成環境を模索し続けたのです。

地理の壁と育成の難しさ🌍✈️

 フレデリクトン、オンタリオ州、ニューヨーク州のいずれであっても、あるいはシカゴであっても、地理的な問題9は常にバンクーバーの障壁となっていました。本拠地から遠く離れた場所に育成チームがあると、プロスペクト(若手有望選手)の動向を細かくチェックしたり、日々の指導を行うのが大変だったんです。

 バンクーバー本隊との選手の行き来を頻繁に行うには、最大で3つのタイムゾーンをまたぐ距離が常に障害となっていて、選手の召喚や戻しも一苦労でした。

 フロリダもまた、サンアントニオ・ランペイジの後(2002〜2005)、ロチェスターではバッファロー・セイバーズと1シーズンだけロチェスター・アメリカンズを二重提携し、その後フロリダ単独で5シーズン運営しています。しかし、地元で人気があり地理的にも便利なセイバーズとの提携の後釜として、フロリダは歓迎されませんでした。

 2011年からは再びサンアントニオに戻り4シーズン過ごした後、2015–16シーズンの1年間だけポートランド・パイレーツと提携。その後、パイレーツがマサチューセッツ州スプリングフィールドに移転し、サンダーバーズとしてフロリダのプロスペクトを4シーズンにわたって受け入れました。

 こうした移動のたびに、フロリダのフロントオフィスは安定した育成環境を求めて苦労を重ねていきます。もちろん、フロリダが当時、有望な若手や高水準のベテランをあまり輩出できなかったことも、状況を悪くする要因となりました。

 モナークスは2シーズンともプレーオフを逃し、ニューヘイブンは1年目で1回戦敗退、翌年は不出場。ルイビルも同様でした。サンアントニオではプレーオフ初戦敗退のあと、2年連続で進出を逃し、ロチェスターではバッファローとの二重提携時に2005–06シーズンに不出場、単独運営になってからの5シーズンでも3度の不出場と、プレーオフ1回戦すら突破できていません。

 実際、フロリダの単独提携チームが初めてカルダー・カップ・プレーオフの1回戦を突破したのは2012年のことでした(サンアントニオ・ランペイジ)。その後の2シーズンはサンアントニオで不出場、2015年のランペイジと2016年のパイレーツではいずれも1回戦敗退。サンダーバーズ時代には、一度もプレーオフ進出すら果たせませんでした。

2021年がもたらした転機🎉

 長い間続いた苦労の末、2021年がフロリダとバンクーバー両チームにとって大きな変化の年となります。

 2020-21年の(パンデミックのため)短縮シーズン中、フロリダはタンパベイ・ライトニングのプロスペクトと共にシラキュース・クランチに選手を送り込む決断をしました。一方、バンクーバーはユーティカとの提携を継続。しかし、その年は新型コロナの影響で国境の制限があり、遠隔地での育成は一層難しくなりました。

 そんな状況を避けるため、バンクーバーはディフェンスのギヨーム・ブリズボワをラヴァル・ロケット(モントリオール・カナディアンズ傘下)に、ゴールテンダーのアルトゥールス・シロフスはマニトバ・ムース(ウィニペグ・ジェッツ傘下)に派遣します。これにより、選手たちの移動や育成がスムーズになりました。

 一方、バンクーバーから東に1時間の場所にあるアボッツフォードのアリーナは空き家状態。かつてはカルガリー・フレームスの提携チームが本拠地としていたものの(2009〜2014。アボッツフォード・ヒート)、地元ファンにライバルの選手を応援してもらうのは難しいという問題があって、撤退していたのです。

 そこで、バンクーバーは2021年5月、自身のAHL提携チームをアボッツフォードに移す決断を下しました。これは、バンクーバーのAHLアフィリエイトがブリティッシュコロンビア州内に拠点を構える初めてのケースとなります(やっとトップチームとアフィリエイトが同州内に存在)。

アボッツフォードでの新しいスタート✈️✨

 アボッツフォードに育成チームを置くことで、バンクーバーは多くのメリットを手に入れました。アボッツフォードのチームはすべてのアウェイ戦に飛行機で移動しなければなりませんが、それでも利便性は高いと言えます。バンクーバーからはカルガリーやウィニペグ、カリフォルニア、そして他のAHLの都市にも直行便、もしくは近隣までの便が利用可能です。

 また、バンクーバーの運営スタッフや育成担当者には、ダニエルとヘンリク・セディン兄弟10も含まれており、兄弟も気軽にアボッツフォードを訪れて選手の様子を見たり指導したりできるようになりました。これが選手の育成に大きなプラスになっています。

 マーケティング面でも、地元同士の連携が強まったため、ファンとのつながりも深まっています。やっぱり地元でチームを応援できるのは嬉しいですよね!🎉

讃岐猫
讃岐猫

フロリダの理想のパートナー、シャーロット・チェッカーズ🏒💪

 一方、フロリダ・パンサーズも提携チームの選択に成功しています。パンデミックの最中にスプリングフィールドとの提携を終えた後、彼らはシャーロット・チェッカーズと手を組みました。チェッカーズはちょうどハリケーンズとの関係を終えたばかりだったのです。

 シャーロットは主要な航空ハブであり、南フロリダとの間に便が頻繁に飛んでいます。これにより選手の移動が楽になり、フロリダ側の運営も現地の状況を把握しやすくなりました。

 また、チェッカーズは強力なフロントオフィスを持っていて、フロリダの若手選手たちが日々しっかりと育てられる環境が整っています。フロリダとチェッカーズは互いに協力し合い、競争力のある経験豊富なロースターを作り上げています。

 ただ、近年のフロリダはNHLの強豪チームであるため、AHLのプロスペクトの数は減少傾向にあります(成績上位チームは、ドラフトで下位指名となるため)。

 そこで昨年夏、セカンドAHLオールスターのトレバー・キャリック(2012年NHLドラフト全体115位、カロライナ・ハリケーンズ)や36ゴールを決めたジョン・レナード(2018年NHLドラフト全体182位、サンノゼ・シャークス)、そして使い勝手の良いフォワードのカイル・クリスクオロ(ドラフト外。NHLではシャークスやバッファロー・セイバーズ等でプレー)らをチェッカーズに迎えました。

 さらに、NHLトレード期限には140試合のNHL経験を持つゴールテンダー、カーポ・カホネンも獲得(ウィニペグ・ジェッツから)。チェッカーズの優勝への道を後押ししています。

第3戦のハイライト映像はこちら!トップ・チームで活躍していた選手も出場しているので、下部組織とはいえ、レベルは高いです!

もうすぐ変わるカルダー・カップの歴史🏆🔥

 フロリダやバンクーバーに加え、アナハイム・ダックス、サンノゼ・シャークス、シアトル・クラーケン、ラスベガス・ゴールデンナイツ、そしてユタ・マンモスの下部組織チームはまだカルダー・カップを手にしていません。

 アナハイム、サンノゼ、ユタを除く他のチームは少なくともカルダー・カップのファイナルには進出していますが、フロリダとバンクーバーはその栄冠にまだ手が届いていません。ユタ・マンモスはNHLデビューからまだ1シーズン目なので、今後の挑戦が楽しみですね。

 しかし、フロリダやバンクーバーにとって、その状況はもうすぐ変わるでしょう。今シーズン、両チームの若手育成が実を結び、カルダー・カップの新たな歴史が生まれる瞬間が近づいています。

 未来への期待が膨らむ中、今後の活躍から目が離せませんね!⚡️🏒

まとめ

 NHLの強豪フロリダ・パンサーズと、頂点を目指すバンクーバー・カナックス。両チームは、AHLでの育成に長年苦戦してきました。地理的障壁や不安定な提携に直面するも、ついに独自の育成拠点を確立。

 2021年以降、フロリダはシャーロット、バンクーバーはアボッツフォードと提携し、若手育成が飛躍的に向上しました。カルダー・カップ獲得への期待が高まり、このAHLでの成功がNHLでの躍進に直結するでしょう。両チームと育成チームの今後の活躍に注目です!

讃岐猫
讃岐猫

【註釈】

  1. ブリティッシュコロンビア州レイク・コウィチャンとその周辺コミュニティの生活を詳細にカバーする地域情報紙。電子版にも対応し、広告、求人、訃報、地元行事など様々な情報を週刊で提供している。発行元はBlack Pressで、地域での社会的評価も高く、地域メディアとして確実に定着。
    ↩︎
  2. 1996年、コロラド・アバランチとファイナルで対戦したが、4戦ストレート負け。翌年、カンファレンス準々決勝、3年後の2000年にも同じく進出しているが、両年合わせて1勝8敗と勝負になっていない。その後、10年間プレーオフに進出していない。
    ↩︎
  3. このシリーズでは、かつてのカナックスのチームメイトだった2人のアシスタントコーチ、レンジャーズのコリン・キャンベルとカナックスのスタン・スマイル(当時キャプテン)が再会。さらに、レンジャーズのマーク・メシエは、異なる2チームでキャプテンとしてスタンレーカップ優勝を目指した2年連続の元オイラーズ主将となった。

     レンジャーズは1990年のオイラーズから7人が在籍し、決勝経験のある選手も多く、カナックスより優位に立っていた。さらに、両チーム間のレギュラーシーズンの勝ち点差(27)は1982年以来最大だった。

     第3戦はバンクーバーでの初戦でカナックスが先制するも、パヴェル・ブーレの反則で退場。レンジャーズがその後5–1として圧勝。第4戦もカナックスが2–0で先行したが、レンジャーズのリヒターとリーチが活躍し、4–2で逆転勝利。レンジャーズがシリーズ3勝1敗とリード。この時点で勝負ありと思われていた。

     しかし、第5戦、第6戦は逆にカナックスが圧倒的力で勝利。3勝3敗で迎えた第7戦、2-2の対スコアに追いつかれたレンジャーズが何とか逃げ切りカップを掲げることとなった。
    ↩︎
  4. 1つのAHLチームが同時に2つのNHLチームと提携し、両チームの選手を受け入れて育成・出場させる形態のこと。通常は1対1の提携が基本だが、NHLチーム側の事情(提携先未定など)により一時的に実施されることがある。

     一方のフロリダの有望株たちは、今年までAHLのカンファレンス・ファイナルにすら進んだことがありません。
    ↩︎
  5. 1971-72シーズンのみ、現在も使用されているロゴとは全く違うデザインのもの(伝統的に使われている、大きく描かれた「Americans」の文字が無い)を採用している。おそらくそれを指しているものと思われる。詳しくはこちら→
    ↩︎
  6. International Hockey Leagueは、1945〜2001年に存在した北米のプロホッケーリーグ。AHLと並ぶ実力を持ち、一部NHLチームの育成先として機能していたが、経営難により2001年に解散。主要チームの多くはAHLに編入された。
    ↩︎
  7. 2011年、NHLのアトランタ・スラッシャーズがウィニペグへ移転したことに伴い(現在のウィニペグ・ジェッツ)、マニトバ・ムースはセントジョンズへ移転。ムースの名称は使われず(巨大なムースによる致命的な交通事故が多発していた歴史的背景から)、「セントジョンズ・アイスキャップス」に改名された。

     これにより、ムースの提携先はバンクーバー・カナックスからウィニペグ・ジェッツへ変更された。
    ↩︎
  8. カロライナ・モナークスは、AHLに所属していた短命のアイスホッケーチームである。ノースカロライナ州グリーンズボロのグリーンズボロ・コロシアムを本拠地とし、以前同地に存在していたECHLのグリーンズボロ・モナークスに代わって設立。一部のオーナーがAHLからの拡張提案を受け入れ、1995–96シーズンから参入した。

     しかしそのわずか2シーズン後、NHLのハートフォード・ホエーラーズが、恒久的な本拠地となるローリーのアリーナ建設を待つ間、1997–98および1998–99シーズンに「カロライナ・ハリケーンズ」としてグリーンズボロ・コロシアムでプレーすることを発表。

     その際、NHLがカロライナ・モナークスを買収し、フランチャイズをコネチカット州ニューヘイブンへ移転。チームは「ビースト・オブ・ニューヘイブン」として再出発した。
    ↩︎
  9. バンクーバーは北米でも最西端に位置し、東海岸の都市との間には最大3時間の時差がある。そのため、NHLでは最も移動距離が長く、時差の影響を受けやすいチームの1つとされている。
    ↩︎
  10. バンクーバー・カナックスで活躍したスウェーデン出身の双子のスター選手。1999年のドラフトでカナックスに入団し、2018年に揃って引退するまでチームを牽引した。

    ダニエル・セディン
    左ウィング。2010-11シーズンにアート・ロス記念賞(最多ポイント選手)とテッド・リンゼイ賞を受賞。カナックス歴代ポイント2位。
    ヘンリク・セディン
    センター。2009-10シーズンにアート・ロス記念賞とハート記念賞(シーズンMVP)を受賞。2010年からはキャプテンを務め、カナックス歴代ポイント1位。

    共通の功績
    双子ならではの「テレパシー」のような連携で知られ、NHL史上唯一兄弟で連続してアート・ロス記念賞を受賞した。2011年にはカナックスをスタンレーカップ決勝に導き、2022年には二人揃ってホッケーの殿堂入り。 ↩︎
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