はじめに
いよいよ3月、レギュラー・シーズンも大詰めを迎えようとしていると同時に、8日にトレード期限を迎えます。いろんな噂がシーズン中に飛び交っているものの、なかなか実現しないのは、サラリーキャップの壁が立ちはだかっているからです。
そのシステムをフルに活用して、ビッグな移籍を実現させるのがGMの腕の見せ所。カルガリー・フレームズGMがその腕を振るい、若返り策の一環として、チーム一のベテラン人気選手クリス・タネフをダラス・スターズへトレードに出しました。
「見返りにドラフト1巡目指名権を取らなかったのはなぜ?」など、いろんな疑問が湧いてはいますが…。今回は、そのトレード劇の内幕と、果たしてGMの仕事は良かったのか悪かったのかを検証しています。
記事にも出てくるけど、タネフはやや故障がちな選手で、
現場の監督としては使いづらい選手ではあるんだにゃ。
でも、出れば出たで、ハッスル・プレーで多くのファンを惹きつけてくれる。
チーム・フロントも苦渋の決断だったんじゃないかな。
引用元:sportsnet.ca「Why Flames felt Tanev trade with Stars ‘was the right deal for us’」
GM、遂に決断!
GMとしての在任初期の忍耐強さが評価されたクレイグ・コンロイは、十分長く待ったと判断しました。
※クレイグ・コンロイについては、以前ブログで触れている。
ミイカ・キプルソフ1のジャージ引退(永久欠番になること)に影を落としたくないにもかかわらず、コンロイは怪我のリスクを感じ、ダラスが提示したパッケージ(契約内容)と相まって、この決断をはっきりとさせたのです。
ついにクリス・タネフをトレードする時が来ました。
※タネフのトレードを伝えるニュース映像。背番号8がタネフ(移籍先のダラス・スターズでは背番号3)。
「いつが適切な時期かは分からないが、残り9日という状況でも、これは我々にとって正しい契約だと感じた」とコンロイは、チームで最も愛されているディフェンダーの1人を、水曜日の夜、3チーム間の交換でスターズに送り出した後、電話でこう語っています。
なぜ人気選手をトレードしたのか?
「君はいつも怪我を心配している2」。
「何が起こるかわからないさ。我々は一度もタネフを欠場させようと考えたことはない。
人々の中に、このトレードの理由を疑問に思った人もいるだろうが、タネフはそれ(トレード)以外の方法を望んでいなかっただろうし、トレード以外の方法を採っていたら、チームに間違ったメッセージを送ることになっていたかもしれない」。
メッセージングについては、後ほど詳しく説明します。
【付記】(映像のお二人は、多分こう言っていると思います…)
少なくとも、この2人の有識者は今回のコンロイの判断を支持しているようである。後述するアルテム・グルシニコフも競争力のある、強いスケーターだと意外にも評価している。
フレームズは、グルシニコフ以外にも若手のいいディフェンダーを有しており、コンロイはブルーライナー全体を見ているとこれまた評価高し。
また、タネフの移籍先、ダラスはプレーオフに向けていい買い物をしていて、必ずタネフがプレーオフを勝ち進む上で鍵になるとしている。逆に取り逃がしたトロント・メープルリーフスの守備は苦しくなると予想。
YouTubeでも、いろんな有識者(有名な方も一般人?も含めて)の皆さんによって、
タネフ移籍のニュースはガンガンに取り上げられているにゃ。
賛否両論だと思うけど、タネフの年齢と故障グセを考えると、このトレードは仕方ないかな。
ダラスはベテラン・ディフェンダー好きだね。
1巡目指名権を取らず、獲得した若手ロシア人選手
人々が本当に知りたいのは、この34歳でありながら超人気選手獲得に向け、他チームによる入札合戦の重要な要素になると予想されていた1巡目指名権について、なぜフレームズがそれを手中に収めるべく、もっと粘らなかったのかということです。
タネフのトレードは、最初の段階から常に2巡目指名権を巡ってのものでしたが、フレームズがこの取引で獲得したディフェンスの若手有望株への評価は、その上を行くもの(2巡目指名権以上のもの)だったのです。
保留中のUFA(無制限フリーエージェント)をダラスに送り、給与450万ドルの半分を支払うことと引き換えに、フレームズは20歳のディフェンダー、アルテム・グルシニコフを獲得し、
スターズが今年のプレーオフ決勝に進出した場合に限り、2026年に2巡目指名権と条件付き3巡目指名権を譲渡することになりました。
身長6フィート2(約188センチ)、体重194ポンド(88キロ)の左利きのディフェンダーで、タネフと同様のディフェンスをこなすグルシニコフは、フィジカルを備えたロシア生まれの有望株で、
ウクライナ戦争の影響でドラフト指名されるかどうかが不透明なため、ドラフト・イヤーから北米にとどまっています。
もっといい選手が取れたのでは?
「誰もが1巡目指名権獲得というアイデアを好んでいるのは分かっているが、それはまたグループに何を加えることができるかを見極め、その上で指名権を1つ、もしかしたら2つ追加できるかどうかを検討することも重要じゃないかな」とコンロイは語りました。
「気に入った若い選手がいれば、それこそが大事になってくるんだ」。
「もちろん、クリスのような選手には多くのチームが興味を持っていましたが、プロセスの一環として、私は(相手チームに)余裕があるかどうかを確認するため、何度も提示された契約内容を見直しました。結果、多くのチームには余裕がなかったのです(トロントのこと?)」。
今年の(トレード)デッドライン・ダービーで、最も大きなトレーディング・チップ(交換要員)の2人、タネフとノア・ハニフィン(ディフェンス、27歳)をコンロイは保有しているため、
巷の議論は、もっと我慢していれば、誰かがもっと上の条件を出してきたのではないか、という点を中心に展開することになるでしょう。
我々には決して分からないのですが、グルシニコフの「魅力」とやらを見ていると、今回と違うものが生み出せたのではないか(つまり、もっといい条件を引き出せた)、と思えましたので…。
2021年、スターズから2巡目で指名されたグルシニコフの攻撃面でのスタッツは微々たるものでしたので、
この留守がちなディフェンスマンのプレー(ほとんどチームプレーに参加しない、いわゆる「消えている」)を見たことがない、地元で安楽椅子に座る資本家達から批判の集中砲火にさらされることは、コンロイにとって避けられるものではありません。
グルシニコフはすぐにカルガリー・ラングラーズ3に加わり、間違いなくシーズン終了までにビッグクラブ(NHLのフレームズ)で過ごすことになるでしょうから、資本家達はすぐに批判するチャンスを得ることになります。
「彼はいいシーズンを送っているし、数字ってものは、人を欺くものだ」と、AHLのテキサス・スターズ4で44試合に出場し1ゴール・4アシストを記録したブルーライナーについて、コンロイは語りました。
YouTubeでの有識者達の意見によると、
カルガリーには若手ディフェンダーが揃っているので、彼らとの組み合わせによって、
グルシニコフは魅力を発揮するのではないか、って事だにゃ。
まあ、それって「何者か分からない」という意味なんじゃないの?
コンロイ、若手選手をベタ褒め
「グルシニコフはペナルティを決め、スティックさばきが上手で、素晴らしいスケーターであり、シンプルにパックを扱うことができる。彼は自分が何者であるかを分かっている」。
「身元調査に関しても、我々が得ているあらゆる情報から判断すると、彼は質の高い人物であり、いつかNHLへ出場するために必要なことは何でもするでしょう」。
「若い頃は(ロシアで)タクシーを運転し、家族のために小遣いを稼いでいたようだ。それは多くのことを物語っているね」。
「グルシニコフの英語は素晴らしく、彼はカルガリーに来るのを楽しみにしているよ。そして、この機会を得たことに興奮しているようだ」。
カルガリーのチーム方針には合ってるかもしれない…
彼はクリス・タネフではありません。
決してそうではないかもしれません。
しかし、このトレードが目先のことにとらわれ過ぎと考えていた人は、情報不足でした。
このチームは再編成を明確にしており、若手中心のムーブメントでそれを進めています。この若手選手の活躍は、このところプレーオフ進出争いに加わりつつある現在のロースターに、大いに役立っています。
その一連のムーブメントの中で、若手の選手たちが大きな役割を果たしました。
この動きがチームにどう受け止められるか尋ねられたコンロイは、「誰もがホッケーのビジネスを理解しているし、チームのみんなも理解している」と語っています。
「誰もがクリスを恋しく思うだろうが、私以上に彼を思っている人はいないだろう」。
「しかし、フレームズにいる選手たちはプロフェッショナルであり、お互いを信じており、私は彼らが前進し続けることを期待しているよ」。
「チームは素晴らしいプレーをしているし、私が求められるのはそれだけだ。とても誇りに思っているよ。私が観戦するどの試合でも、彼らは持てる力をすべて出し尽くしており、私の願っているのは、まさにそれなんだ(前述メッセージングってこれか?)」。
コンロイGMとしては、今回のトレードを通して、
「ウチは完全に若手切り替えに舵を切ったんだ」とメッセージ発信したんだと思うにゃ。
うーん、若手をまとめてくれる精神的支柱って必要なんだけどなぁ。
たとえ故障がちでも、チームにいてくれるだけで違う。
タネフとは円満に別れた
コンロイはプロセス全体を通じてタネフと連絡を取り合っており、タネフはこの一連の動向を完全に理解しており、トレードが行われることを以前から知っていました。
エリアス・リンドホルムと同じように、タネフに興味を持っているチームは、タネフの代理人に延長契約を結ぶ可能性について問い合わせることはなかったようです。
※リンドホルムについては、以前ブログで取り上げている。
(フレームズ以外の)チームは皆、プレーオフ進出のために、リーグで最も頼りになる無私無欲のディフェンダーの1人を求めていました。
「クリスはいつもとてもプロフェッショナルで、優秀で、チームを理解していた」とコンロイは語っています。
「私がクリスについてどう思っているか、彼は知っている。私は彼の成功を祈っているよ」。
ニュージャージー・デビルズもこのトレードに参加し、正ゴールキーパー候補のコール・ブレイディ(23歳)をまずタネフと交換でカルガリーに送り、その後、タネフの年俸の25%を保持して(支払うことにして)、タネフをダラスに送りました。
また、フレームズは契約でタネフの年俸の50%を保持し、スターズはカルガリーからブレイディを獲得し、デビルズはスターズから4巡目指名権を獲得しています。
トレード期限は3月8日に設定されており、今、コンロイがいつハニフィンをトレードに出すかが注目されています。
まとめ
NHL得意の三角トレード成立!フレームズGMの愛情の証?なのか、タネフの年俸50%を保持しているのがミソ。今後、タネフが他チーム移籍を希望する場合(年齢的に厳しいけど)、ダラスや次の移籍先のチームに条件提示ができるのです、しかも強めに。
さらに、ダラスがタネフを起用しなくなった場合、「使わないんなら返して」って言いやすくなるのです。細かい契約内容がどうなっているのか、にもよりますが、カルガリーとしては、チーム改革とタネフの商品価値を天秤にかけ、泣く泣く後者を切ったように思います。
今回、トロントもタネフ獲得に手を上げているし、ニュージャージーも1枚噛んできている訳で、それだけ彼のブロックショットの上手さは素晴らしいのです。さらに、万人を引きつける魅力的な選手なんで、ダラスでもうひと花咲かせてくれることでしょう。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 2013年9月9日、フレームズから正式に引退を発表したゴールキーパー。勝利数(305)、完封数(41)、試合数(576)はフレームズのゴールキーパーとして歴代トップ。23−24シーズン中、彼の背番号34が永久欠番となったことが発表された。
その祝うべきニュースと同時期に、チーム一の人気選手のトレードが公表されたことから、「影を落としたくないにもかかわらず」という表現を使ったのだろう。
↩︎ - ドラフト外でバンクーバー・カナックスに入団して以来、タネフは一度もフル出場しておらず、試合中の負傷によるフィジカル面での不安を絶えず言われている選手である。
それはカルガリー移籍後も変わらず、ブロックショットの回数はリーグ歴代34位と堅実な守備を見せる分に比例して、負傷も多い。今シーズンも上半身に怪我を抱えながらプレーしていた。
↩︎ - 元はストックトン・ヒートというチームで、2022年5月23日、カルガリー移転、カルガリー傘下のチームとなったのを機に改名して、AHLのパシフィック・ディビジョンに所属。改名後の最初のシーズンでディビジョン1位となった競合である。
↩︎ - AHLのセントラル・ディビジョンに所属。COVID-19のパンデミックによるキャンセル以外の12シーズンで、プレーオフ進出がなかったのは3シーズンのみの強豪。2014年にプレーオフ決勝で勝利し、カルダー・カップを獲得。 ↩︎