はじめに
いよいよNHLオールスターのイベントもスタートし、レギュラー・シーズンの激闘を一時忘れて、選手もファンも楽しんでもらいたいものです。フォワードとゴールテンダーが中心に選ばれているので、ディフェンス・ファンの方々には少し不満かもしれませんが…。
お祭りの裏側で、後半戦に向けて、各チームが戦力点検をしているのも常です。当然、移籍市場活性化のムードも漂ってくるのですが、市場に向けて、早くも大砲をぶちかましたチームが出ています。バンクーバー・カナックスとカルガリー・フレームズがそれです。
しかも、オールスター出場選手が、その出場中に移籍決定というのも、何とも米国らしいというべきか…。首位を行くバンクーバーが弱点を補い、更に盤石の態勢にするべく、早めに一手を打った感じ。逆にカルガリーは得したって風に見えないのですが。
日本ではあまり急転直下の移籍決定というのは少ないし、
何かスキャンダラスなニオイをさせるんだよにゃ。
そんなのは欧米でもあるとはいえ、日本と比べたら、
ドライに淡々と進めていく感が強いかな。
引用元:ESPN.com「Vancouver trades for Calgary All-Star center Elias Lindholm」
移籍市場に、ドーンと来たのはバンクーバー
1月31日・水曜日の初め、カルガリー・フレームズには、チームを代表して、エリアス・リンドホルム(センター、29歳)というオールスターゲームに出場する選手が1人所属していました。結局、バンクーバー・カナックスに移籍させた後、カルガリーは何も手にすることはできなかったのです。
シーズン終了後、リンドホルムは制限なしフリーエージェントになる予定だったため、フレームズでの将来は疑問視されていました。
そのため、今シーズン49試合で9ゴール・32ポイントを記録しているリンドホルムは、3月8日のNHLトレード期限を前に、最も注目されている選手の1人と見なされていたのです。
リンドホルムをバンクーバーに連れてくるため、カナックスはフォワードのアンドリュー・クズメンコ(左ウィング、27歳)と決別し、ハンター・ブルズステビッチ(19歳)とジョニ・ユルモ(21歳)という将来有望なディフェンスマン、2024年の1巡目指名権、2024年の条件付き4巡目指名権をトレードに出したのです。
バンクーバーの丸儲け?
リンドホルムを獲得することで、カナックスはいくつかのことを成し遂げました。
チームは、自分自身やチームメイトのために創造的なプレーのできる既存のセンター、J.T.ミラー(センター、30歳)とエリアス・ペターソン(センター、25歳)に加え、もう1人のトップ6(ファースト&セカンド・ライン)レベルセンターを獲得したことになります。
彼はまた、得点源としても脅威的な存在です。29歳のリンドホルムは、キャリアの中で20ゴールに4回到達し、40アシストの大台を3回超えています。
さらに、いくつかの守備的状況(例えば、カナックスのペナルティ・キルは水曜日時点で15位)で起用できるため、信頼できるツーウェイ(攻守両面で貢献できる)・センターとして、リンドホルムは自らの存在をカナックスへアピールできます。
ショートハンドの際の氷上プレー時間において、リンドホルムはフレームズの全フォワードのトップに立っており、NHLで4番目の成功率(守備的に不利な状況を克服できる割合)84.4パーセントを誇るペナルティ・キルを支えていました。
今後の展開を考えた場合、かなりの長丁場になるし、
攻守両面で力を発揮できるリンドホルムは、
久しぶりにプレーオフへ出る(であろう)バンクーバーにとって的確な補強だと思うにゃ。
しかし、がっちり大物をゲットするあたり、今季のバンクーバーは神がかっている。
バンクーバーGM、ディフェンス整備に勤しむ
カナックスがゼネラルマネージャーのパトリック・アルビン1との契約延長を発表した日、フランチャイズ(チーム)は、この12カ月で変貌を遂げた彼の最新の動向を見ていました。
チームの将来について、カナックスが質問に答えなければならなかったのは、1年前の今頃でした。彼らはブルース・ブードロー監督と袂を分かったばかりの時期です。
※ブードローについては、このブログでも以前触れている。詳細はこちら↓。
ブードロー監督は就任後57試合で32勝を挙げた2021-22シーズンの後、昨シーズンに入るや、18勝25敗3延長負けの成績で、12月にはプレーオフ争いから脱落していたため、解雇されたのです。
アルビンは、昨シーズン(途中から)、36試合中20勝を挙げた元コヨーテズ監督のリック・トチェット2を、正式に監督として雇いました。
その後、キャプテンのボー・ホーバット(センター、28歳)をニューヨーク・アイランダーズにトレードし、その取引の一つの条件として1巡目指名権を獲得しましたが、その指名権をデトロイト・レッドウィングスに譲り、ディフェンスマンのフィリップ・フロネク(26歳)を獲得しています。
そこから、アルビンは翌年(2024)のオフシーズンとレギュラーシーズンの一部を使って、キャプテンのクイン・ヒューズ(ディフェンス、24歳)が率いるディフェンスを刷新し、NHLでも屈指の強力なユニットに成長させました。
これには、今シーズン初め、フレームズとカナックスの間で、ニキータ・ザドロフ(ディフェンス、28歳)がバンクーバーに行くという契約が含まれていたのです。
リンドホルム獲得はいいことばかりじゃない
その成果により、カナックスは12勝3敗1延長負けのスタートを切り、NHL最高のチームの1つとして話題に上り続けながら、トロントで開催されるNHLオールスターゲームに5人の選手とトチェットを送り込むまでになりました。
リンドホルムのおかげで、オールスター出場選手の数字は6人に増えましたが、同時にカナックスが今シーズンどこまでやれるのか、そして4シーズン連続でプレーオフ進出を逃した後、スタンレーカップ・ファイナルに進出して1年を終えることができるのか、という疑問も投げかけられています。
すでに新契約への見通しが立ったのではないか?との噂が出ているペターソンのように、カナックスとアルビンはリンドホルムとの新契約についても同じようなことをするでしょう。
ペターソンは保留中の制限付きフリーエージェントであり、つまり、2026年に彼が(無制限の)フリーエージェントになるまで、カナックスがチームの主導権を握ることになっています。しかし、リンドホルムは今シーズン終了後に退団する可能性があります。
またかい、制限付きフリーエージェント選手を巡る、面倒くさい駆け引きが出たにゃ!
今シーズン終了時、「制限なしFA」に切り替わるのはそのままなんで、
バンクーバーとしては、チームに馴染むと判断した時点で、速攻で契約延長を切り出すと思う。
カルガリー、今回の移籍で改革に着手か
リンドホルムの移籍は、プレーオフ圏内への挑戦と、フランチャイズが大きく変わるかもしれないという現実との狭間で立ち往生しているフレームズというチームにとって、(これから始まるであろう)一連の移籍劇の最初の一歩となることが予想されます。
リンドホルムはフレームズのロスターに登録されている数人のUFA申請中の選手の一人で、(彼との契約が進まないため、)フランチャイズがどのような方向に進むのか疑問視されていました。
混乱した状況と相まって、ずっと(新たな)オフェンス選手を見つけられないフレームズは、最後のウェスタン・カンファレンスのワイルドカード枠から5ポイント及ばず、前半戦を終了し、水曜日を迎えています。
リンドホルムの退団は、トレード期限前に、フレームズが他の選手の退団の可能性を引き起こそうとしているのではないか、という疑問を投げかけるものでもあります。
チームにはUFA申請中の選手が7人いて、その大部分はディフェンスの選手となっており、契約申請中の7人のうち5人がブルーライナー(ディフェンス)で契約最終年です。ノア・ハニフィン(ディフェンス、27歳)やクリストファー・タネフ(34歳)などが、そのグループに属しています。
今回のトレードで、カルガリーの「利益」を検証
フレームズがカナックスから受け取った「賞金」は、現在、そして将来的に彼らを助けることになるかもしれません。カナックスを離れることで、昨シーズン、クズメンコはカナックスのベストプレーヤーの一人となった調子を取り戻せるかもしれないからです。
無制限フリーエージェントの彼は、KHLのSKAサンクトペテルブルクで活躍後3、カナックスと契約しました。
クズメンコは39ゴール・74ポイントを記録し、その後カナックスはクズメンコと年額550万ドルの2年契約を結びましたが、43試合でわずか8ゴール・21ポイントにとどまっています。また、何度か健康上の理由(試合中の負傷によるもの)で欠場したこともありました。
フレームズは現在、今年のドラフトで1巡目指名権を2つ獲得しており、合計8つの指名権を持っています。また、チームには、今後数年間、ロースター再編成に役立つ可能性のあるディフェンスマンがさらに2人います。
ブズステヴィッチは2023年3巡目指名で、OHLのキッチナー・レンジャーズで98ポイントを獲得するペースで活躍しています。昨シーズン、6ゴール・57ポイントを、今シーズンは47試合に出場して、6ゴール・69ポイントをそれぞれ記録しています。
2020年3巡目指名のユルモは、フィンランド1部リーグ「リーガ」でプレーしており、イルヴェスとクークーで35試合に出場し、1ゴール・4ポイントを記録しています。
まとめ
この記事の冒頭、「カルガリーは何も手にすることはできなかった」と言っている割には、最後になると、カルガリーに明るい展望があるような書きぶりになっています。おそらく、「未知数の選手の才能が開花したら」という前提条件付きで言っていると思われます。
それはともかく、2024年のドラフト指名権8つはかなり大きいです。カルガリーは今の順位のままで行くと、ドラフト指名順は真ん中よりちょっと前?くらいか。そうなると、即戦力は無理でも、2〜3年の育成後、エントリー契約結べるくらいの選手は数名確保できます。
カルガリーで問題なのは、記事に名前の出たフリーエージェント組以外にも、やや期待外れの中堅、レギュラー・クラスの選手が多いこと。プレーオフの望みが完全に絶たれた訳ではないため、ポテンシャルがありそうな?彼らを切りたくても切れない。
(徒労に終わるかもしれませんが、)今後もカルガリーが何枚か「カード(ドラフト指名権を含む)」を切って、トレード市場をかき回す予感はしますね。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- スウェーデン、レクサンド出身、49歳。スウェーデンの1部リーグや米国の下部組織リーグでプレーしたが、NHLは未経験。ピッツバーグ・ペンギンズのフロントで16年働いた後、2022年1月、アルビンはNHL初のスウェーデン人ゼネラルマネージャーとなる。
↩︎ - ピッツバーグ・ペンギンズでのアシスタント・コーチ時代、2度スタンレーカップを掲げているが(2016、2017年)、監督ではアリゾナ時代にプレーオフへ1度進出しているのみである(2020年)。
苦汁をなめ、成長したトチェット船長によって快進撃を続けるバンクーバーが、このままスタンレーカップまで行き着くのだろうか。
↩︎ - 在籍4年間で209試合に出場、64ゴール・90アシスト、154ポイントを記録している。後半の2年間はプレーオフでも大活躍している。バンクーバー入りは、ドラフト外のフリーエージェントによるもの。 ↩︎