NHL屈指のGK、バシレフスキー負傷離脱!ライトニング、どう克服する?

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はじめに

 プレシーズンマッチも本格的にスタートし、各チーム期待の新戦力が活躍し、ファンも胸をワクワクさせているところです。その一方で「ウチは無事にシーズン82試合を終えられるのだろうか…」と、不安な気持ちに悩まされているチームもあります。

 その一つが、タンパベイ・ライトニングと言っていいでしょう。NHL屈指のGK、アンドレイ・ヴァシレフスキーが背中の手術のため、戦線離脱が確定…。攻撃的チームのイメージが強いタンパベイですが、それもヴァシレフスキーが守護神として君臨していたからこそです。

 チームに若手もいるにはいますし、FA市場もまだ開いてはいます(かなりベテランばかりですが)。育成か、補強か。GMがどう判断するか、今後の動向に要注目です。

讃岐猫
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引用元:NHL.com「Vasilevskiy injury will be difficult for Lightning to overcome

2ヶ月を長いと感じるか、短いと感じるか

 9月28日(木曜日)、タンパベイ・ライトニングは最初の大敗1を喫したとはいえ、シーズンはまだ始まっていません。

 木曜日の朝、世界レベルのゴールキーパーであるアンドレイ・ヴァシレフスキーは、腰椎椎間板ヘルニアに対処するために微小椎間板切除術2を受け、レギュラーシーズンの最初から2ヶ月ほどを欠場することになりました。

 ゼネラルマネージャーのジュリアン・ブリズボワ3は「彼が完全に回復し、元の姿に戻ることをとても期待している」と述べています。「時間がかかりそうですが」。

 ヴァシレフスキーはライトニングの最も重要な選手です。時間は彼らの味方でなく、アトランティック・ディビジョンの競争相手でもありません。

 スタンレーカップのプレーオフへ進出するための正当な候補と思われるチームは、ディビジョン内に7つもあります。

 バッファロー・セイバーズ、オタワ・セネタース、デトロイト・レッドウィングスが台頭し、昨シーズンに成功したトロント・メープルリーフス、ボストン・ブルーインズ、フロリダ・パンサーズ、そしてライトニングが加わっています。

控えGK層はあまり厚くない

 昨シーズン、パンサーズはイースタン・カンファレンス2位のワイルドカードとして勝ち点92を獲得しました。バッファローは91で、ピッツバーグ・ペンギンズも同じです。オタワは86でした。

 シーズン序盤に失われたポイントを後で見つけるのは信じられないほど難しく、シーズン開始まで2週間を切った時点で、ライトニングに不利をもたらすのは次の2点です。1)ヴァシレフスキーがいません;2)彼以外の控えの選手層はNHLで最も薄い部類に入ります。

 ヴァシレフスキーは、2016-17シーズン以降の通算勝利数(245)でNHL1位、出場試合数(385)で2位となっています。

 タンパベイの現在の選手層チャートを見ると、ヴァシレフスキーに次ぐ存在の3人のゴールキーパー、ヨナス・ヨハンソン4ウーゴ・アルネフェルト5マット・トムキンス6は、NHLの試合出場数が合計36となっています。

 28歳のヨハンソンは、昨シーズンのコロラド・アバランチでの3試合を含め、35試合でプレーしています。

 22歳のアルネフェルトは、2021-22シーズン、タンパベイでプレーした経験(1試合のみ)を持つ有望株です。29歳のトムキンスは、過去2シーズン、スウェーデンでプレーし、それ以前、アメリカン・ホッケー・リーグとECHLでプレーしていました。NHL経験はありません。

讃岐猫
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FA市場を利用する手もあるが

 「当分の間、チームは、ここにいる人たちと一緒に戦って行くつもりだ」とブリズボワは述べました。「まだプレシーズンの試合が5試合あるので、残りのゴールキーパーに練習をさせる時間はあるさ。

 彼らにさらにチーム戦術に慣れ親しんでもらい、彼らはプレーを読むことができるように、キーパーの目の前でプレーしている選手に慣れてもらうしかない。そうすれば、先のプレーを予測し、高いレベルでパフォーマンスを発揮できるだろ」。

 ヴァシレフスキーなしで今回のことを乗り切るため、フリーエージェント市場において、それを利用する選択肢が、ライトニングに残されています。

 昨シーズン、ニューヨーク・レンジャーズのバックアップだったヤロスラフ・ハラク7が出場可能です。過去2シーズン、ヴァシレフスキーのバックアップを務めたブライアン・エリオット(昨シーズンまでタンパベイに在籍、38歳)も市場に出回っています。

 NHLで16シーズンにわたりプレーし、昨シーズン、コロンバス・ブルージャケッツでプレーしたマイケル・ハッチンソン8、昨シーズン、サンノゼ・シャークスで4試合プレーしたアーロン・デル(34歳。ブルージャケッツとトライアウト契約済?)もいます。

サラリーキャップ問題、またも登場!

 ライトニングはNHLのサラリーキャップに真っ向から逆らっているチームですが、レギュラーシーズンの初日である10月10日、ヴァシレフスキーを長期負傷者リストに入れることで短期的な救済を受けられます。

 それにより、950万ドル(日本円で約14億円)のキャップチャージを日割りで計算し、(他の選手獲得用の)キャップ・スペースを拡大することができます。

 ヴァシレフスキーにプレーする準備ができたら、LTIR(long-term injured reserve)から彼を削除するため、キャップスペースを用意しておく必要がありますが、その穴を埋めるため、誰かと契約することは止められないでしょう。

 「彼は世界最高のゴールテンダーであり、短期的に彼と比較できるくらいのゴールテンダーを獲得するつもりはない」とブリセボワは述べました。「しかし、ここにいるゴールキーパーは仕事をこなし、(ヴァシレフスキー欠場の)負担を背負うことができると考えている。

 だからといって、今後、他の選択肢を探らないとか、今現在、他の選択肢を探っていないという意味じゃないよ」と述べています。

 それ(ヴァシレフスキー欠場)は重要なことではないのでしょうか。現時点で、ヴァシレフスキーがいなくても、2か月間、ライトニングがレースに残れるかどうかと疑問視するのは、公平で正しいことです。

讃岐猫
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ヴァシレフスキーの成績

 これは、スティーブン・スタムコス(センター、33歳)やニキータ・クチェロフ(右ウィング、30歳)のようなエリートであっても、スケーターを失うこととワケが違うのです。

 これらの選手が長期の負傷でダウンした場合との違いは、ライトニングにまだヴァシレフスキーがいたことです。

 2020年のスタンレー・カップは、基本的に、カップ決勝で数回の出番にとどまったスタムコス抜きでの優勝でした。しかし、ヴァシレフスキーは18勝7敗、平均失点1.90、セーブ率.927を記録し、プレーオフの最優秀選手としてコン・スマイス・トロフィーを獲得しています。

 2020-21レギュラーシーズン、クチェロフ抜きの56試合で(チームは)36-17-3を記録しましたが、これはヴァシレフスキーが非常に優秀で、GAA(平均失点)2.21、セーブ率.925、(ヴァシレフスキー個人で)31-10-1を記録したことが大きかったのです。

 そのシーズン、ヴァシレフスキーは、NHL最優秀GKとしてベジーナ・トロフィーの次点でした。彼は2018-19シーズンの同トロフィーを獲得しています。

多くの選手が移籍したが、ヴァシレフスキーの代わりはいない!

 ライトニングはここ数シーズン、優勝チームから多くの主力選手を失っており、直近ではフォワードのアレックス・キローン(センター、34歳。今シーズンからアナハイム・ダックス所属)、パット・マルーン(左ウィング、35歳。今シーズンからミネソタ・ワイルド所属)、ロス・コルトン(センター、27歳。今シーズンからコロラド・アバランチ所属)、

その前にはディフェンスマンのライアン・マクドナー(34歳。昨シーズンからナッシュビル・プレデターズ所属)、そしてフォワードのタイラー・ジョンソン(センター、30歳。一昨シーズンからシカゴ・ブラックホークス所属)、バークレイ・グッドロー(センター、33歳。一昨シーズンからニューヨーク・レンジャーズ所属)、ブレイク・コールマン(センター、31歳。一昨シーズンからカルガリー・フレームス所属)がいました。

 チームは、それらのポジションに新しい選手を置き換えることによって、ここまで続けてきました。ヴァシレフスキーに代わる存在はありません。

 2016-17シーズン以降、NHLの全シーズンで少なくとも50試合に出場しています。

 昨シーズンは60試合、その前のシーズンは63試合、COVIDで短縮された2020-21シーズンは56試合中42試合、コロナウィルスの大流行でシーズンが中断する前(2019-20シーズン)は、70試合中52試合に出場していました。

 今、彼は12月まで、あるいはそれ以降も「お蔵入り」となっており、タンパベイの優勝争いを続けていた時代は終わりの危機に瀕しているのです。

まとめ

 徹底したベテラン整理、的確なドラフト戦略を展開してきたタンパベイは、ここ数シーズン、必ず優勝候補の一角として、名前を挙げられてきました。ただ、こうして退団選手の名前を列記してみると、ちょっとベテランを放出し過ぎな感じもします。

 そこにサラリーキャップの問題があって、このチームが同制度反対の急先鋒であることを考えると、選手放出はNHLに対するメッセージなのかもしれません。その選手管理のバランスのちょっとしたズレが、もしかしたら、今回のGK問題を生み出したと言えるかもしれません。

 若手の急成長を望んでいるようなGMの言葉、理想通りになれば、全てが丸く収まるんですかね。

讃岐猫
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【註釈】

  1. 9月26日(火曜日)、カロライナ・ハリケーンズとのプレシーズン・マッチ、5−2で敗戦。先発GKはヒューゴ・アルネフェルト、その後、エヴァン・フィッツパトリック(25歳。本記事中に名前無し)が出場。アルネフェルトの防御率は.792。

    ↩︎
  2. 椎間板切除術は椎間板ヘルニアを全部摘出するか、一部を切除して、締め付けられた脊髄や神経の圧迫を取り除く手術のこと。
    ↩︎
  3. カナダ、ケベック州グリーンフィールドパーク出身、46歳。下部組織チームであるシラキュース・クランチ(AHL)GMも兼任。モントリオール大学法学部を卒業し、前職はスポーツ関係の弁護士。カナディアンズの下部組織チームを優勝させた経験を持つ。
    ↩︎
  4. スウェーデン、イェブレ出身。2014年ドラフトで、バッファロー・セイバーズから全体61位指名。NHLではコロラド、フロリダ、そしてスウェーデンのリーグでもプレーした、いわゆるジャーニー・マン。2023年7月、タンパベイと2年155万ドルの契約を締結。
    ↩︎
  5. スウェーデン、ダンデリード出身。2019年ドラフトで、タンパベイから全体71位指名。2021年12月30日、フロリダ・パンサーズ戦・第3ピリオド、リリーフで出場したのがNHLデビュー。10本のシュートで3ゴールを許している(タンパベイは9-3で敗戦)。
    ↩︎
  6. カナダ、アルバータ州エドモントン出身。2012年ドラフトで、シカゴ・ブラックホークスから全体199位指名。2022年の北京オリンピック、IIHF世界選手権にカナダ代表として参加。両大会で4試合に出場して、2勝2敗。
    ↩︎
  7. チェコスロバキア、ブラチスラバ出身、38歳。2003年ドラフトで、モントリオール・カナディアンズから全体271位指名。愛称「ジャロ」。彼もジャーニーマンで、NHLでは7チームを渡り歩く。

     セイバーズにも在籍したが、ユニを着ることなく、さらにトレードされており、それを含めると8チーム。各チームから獲得オファーの多いことから、実力は折り紙付きである。

    ↩︎
  8. カナダ、オンタリオ州バリー出身、33歳。2008年ドラフトで、ボストン・ブルーインズから全体77位指名。2010年代後半、ウィニペグ・ジェッツ時代は1シーズン30試合出場していたが、ここ数年は出場機会激減。
    ↩︎
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