【讃岐猫😹の深堀りコラム(1)】「偶然の一撃」ではない――ドロフェエフのOT弾が“スター誕生の瞬間”と評された理由
パベル・ドロフェエフがアナハイムとの2026年プレーオフ第5戦で決めた延長戦ゴールは、日本のファンが映像で見る以上に北米で大きな反響を呼んだ。シリーズを優位にする決勝点ではなく、「ドロフェエフという選手の評価を一段階引き上げたゴール」として扱われたのである。
まず注目されたのは、そのゴールが生まれた状況である。
試合中、ドロフェエフは第2ピリオドにブロックショットを膝付近に受け、一度ロッカールームへ下がっている。NHL.comは「負傷して消えた選手が延長戦で英雄になった」と報じ、試合後のベガス陣営では“根性論”ではなく、プレーオフ特有の耐久力と勝負強さの象徴として語られた。
実際、彼は復帰後も動きに問題を見せず、延長4分10秒に決勝点を叩き込んでいる。
さらに興味深いのは、評論家たちがこのゴールを「幸運なリバウンド」ではなく、「得点感覚の結晶」と分析している点である。
リプレー映像を見ると、ジャック・アイケルのシュートが跳ね返った瞬間、ドロフェエフは誰よりも早く落下地点を察知している。通常、バウンドしたパックは回転や軌道が不規則になり、コントロールは極めて難しい。
しかし彼は空中で変化するパックに対し、ほぼ反射的にスティックを合わせてクロスバー下へ叩き込んだ。Redditの試合スレッドでも「跳ねるパックをあそこまで正確に打ち抜くのは久々に見た」という評価が多数を占めていた。
Sportsnetのエミリー・サドラー記者はさらに踏み込み、この試合を「レガシー(選手としての評価)を形成する試合」と表現した。彼女は負傷離脱の危機から戻り、チームを救う2得点を挙げた内容そのものが、単なるゴールスコアラーから“プレーオフで勝敗を決める選手”への転換点だったと論じている。
北米メディアではレギュラーシーズンの得点数よりも、プレーオフの大舞台で決めるクラッチゴールが選手の市場価値を押し上げる傾向が強い。ドロフェエフが今夏の大型契約候補として急浮上した背景にも、この試合のインパクトがあるのである。
また、AP通信系の記事やFOX Sportsは、このゴールを語る際に「得点能力」よりも「タフネス」を強調した。ドロフェエフといえば右サークルからのワンタイマーが代名詞であり、従来は技巧派スコアラーとして知られていた。
しかしプレーオフでは痛みを抱えながらプレーを続ける精神力も求められる。FOX Sportsは、膝への被弾から復帰して決勝点を挙げた事実を取り上げ、「彼はもはやパワープレー専門のシューターではない」と評価している。
そして何より象徴的だったのが、試合後の本人のコメントである。
NHL.comによれば、ドロフェエフは「正直、何が起きたのか自分でも分からない。ただパックが見えたからスティックを出しただけだ」と語った。スター選手が自らの超人的プレーを大げさに語ることは珍しくないが、彼はあくまで“仕事をしただけ”という姿勢を崩さなかった。
この飾らない態度こそが、現在のベガス首脳陣や北米メディアから高く評価されている理由でもある。
2026年6月現在、ドロフェエフは今夏のRFA市場における注目銘柄の一人となっている。しかし多くの評論家が指摘するように、彼の契約価値を押し上げているのは37ゴールという数字だけではない。
アナハイム戦の延長戦で見せたあの一撃によって、「重要な場面で勝敗を決められる選手」という新たな肩書きを手に入れたのである。プレーオフでは時に1本のゴールが選手のキャリアを変える。その意味で、この“火曜日の出来事”は、ドロフェエフのホッケー人生における歴史的な瞬間だったと言ってよいのである。
出典リスト
NHL.com, “Dorofeyev returns, delivers in OT for Golden Knights in Game 5”, 2026年5月13日
NHL.com, “Golden Knights edge Ducks in OT in Game 5, on verge of Western Conference Final”, 2026年5月13日
Sportsnet, “Takeaways: Dorofeyev’s legacy-building Game 5 gives Golden Knights series lead”, 2026年5月13日
FOX Sports, “Dorofeyev scores in OT to give Golden Knights 3-2 win over Ducks and 3-2 series lead”, 2026年5月13日
Reuters, “Pavel Dorofeyev’s OT goal gives Knights 3-2 series lead over Ducks”, 2026年5月13日
Reddit / r/hockey, “[ANA 2 – VGK (3)] OT Winner – Eichel makes the shot-pass but Dorofeyev is the OT hero”, 2026年5月13日
【讃岐猫😹の深堀りコラム(2)】NHL参戦に潜む“制度的・政治的壁”──ドロフェエフが乗り越えた現実的な障壁とは
パベル・ドロフェエフが2019年ドラフトで全体79位までスリップした背景には、当時の北米ホッケー界を支配していた「ロシア・ファクター」と呼ばれる特有の忌避傾向が強く影響している。
当時のドロフェエフは、名門マグニトゴルスク・メタルルグのユースで圧倒的なハンドリング技術と得点センスを披露し、本来であれば1巡目指名を受けてもおかしくない至宝と評価されていた。
しかし、KHLという巨大リーグの契約縛りは非常に強固であり、若手選手が北米へ移籍する際の法的な不確実性は常に各球団のゼネラルマネージャーを悩ませる最大の種であった。
特にベガス・ゴールデンナイツにとっては、鳴り物入りで獲得しながらわずか3試合でロシアへ逃亡するように帰国したヴァディム・シパチョフの苦い記憶が鮮明であり、ロシア人トッププロスペクトの獲得は実質的なタブーに近いリスクと見なされていたのである。
大手メディア『The Athletic』や『Elite Prospects』などのスカウト分析を振り返ると、当時の評論家陣はドロフェエフの才能を認めつつも、「守備意識の希薄さ」と「いつ北米に来るか分からない契約リスク」を同時に指摘していた。
事実、2021年に渡米した当初はAHLヘンダーソンでの過酷な下積みを強いられ、戦術的な細部への適応に苦しんだ。多くのロシア人天才肌の選手がこのマイナー落ちの段階でフラストレーションを溜め、KHLへ復帰する選択肢を選んできた歴史がある。
しかし、現在の2025-26シーズンにおけるドロフェエフは、前年の35ゴールに続き今季もレギュラーシーズン82試合で37ゴール、自己最多の64ポイントを叩き出し、ポストシーズンでもエースのジャック・アイケルと完璧なケミストリーを形成している。
北米のホッケー評論家は、「彼が当時敬遠されたのは能力の欠如ではなく、リーグ全体の過剰なリスク回避姿勢が原因だった」と断定しており、その不条理な低評価を実力で完全に覆したドロフェエフの精神的成熟度を高く評価している。
今夏に制限付きフリーエージェント(RFA)を迎える彼に対し、米メディア『The Hockey News』や地域メディアは、現在の年俸183万5千ドルからの数倍に及ぶ巨額の長期契約延長に向けた交渉が水面下で本格化していると報じており、かつて彼を敬遠した他チームは歴史的な大失態を悔やむことになっている。
出典(2026年6月時点)
Pro Hockey Rumors「NHL Suspends Agreement With KHL」2022年3月8日
Reddit「Dorofeyev has been stuck in the VHL…terminated contract and try his luck in NA」2021年1月25日
Puckpedia「Pavel Dorofeyev Contract, Cap Hit, Salary and Stats」2026年最新
【讃岐猫😹の深堀りコラム(3)】「アイケルの隣で点を取るだけ」の評価はもう古い――ドロフェエフが“完全体ウイング”へ進化した理由
パベル・ドロフェエフを巡る評価は、2025-26シーズンのプレーオフを境に大きく変化した。かつて北米メディアやアナリストの多くは、彼を「エリート級のシュートを持つが、主な価値は得点力に限られるウイング」と見なしていた。
しかし2026年スタンレーカップ・プレーオフでは、その評価が明確に覆されたのである。
その理由は単純な得点数ではない。評論家たちが注目しているのは、ドロフェエフが出場した時間帯における失点抑制能力である。
一般的に、ジャック・アイケルのウイングとしてプレーする選手は「アイケルに生かされている」と評価されやすい。実際、過去にもアイケルと組んだウイングは得点数を伸ばしてきた。しかし今季のドロフェエフに関しては逆である。
NHL.comや複数の分析記事では、彼のプレーオフでの成功は“便乗得点”ではなく、自身が試合の流れを支配する側に回った結果だと指摘されている。
プレーオフを通じて彼はリーグ最多タイの10ゴールを記録しただけでなく、高危険度エリア(High-Danger Area)からの得点でもリーグトップクラスの数字を残している。これは味方が作ったチャンスを決めるだけではなく、自ら危険地帯へ入り込み、守備網を崩している証拠である。
さらに興味深いのは守備面である。
近年の分析系メディアでは、ウイングの守備力を評価する際に単純なプラスマイナスではなく、「失点期待値(Expected Goals Against)」や「氷上失点率(Goals Against per 60)」が重視される。
ドロフェエフは2026年プレーオフで、スタンレーカップ決勝開幕時点において氷上失点率1.46という極めて優秀な数字を記録した。これはトップ6の攻撃型ウイングとしては異例のレベルであり、守備専門選手に近い水準である。
北米のアナリストたちは、この改善の背景として3つの要素を挙げている。第一にディフェンスゾーンでのポジショニング向上、第二にパックを失った直後のバックチェック速度、そして第三にボード際での競り合いの強さである。
特にジョン・トルトレラ体制のベガスでは、フォワードにも厳格な守備責任が求められる。得点力だけの選手なら出場時間は減らされるが、ドロフェエフは逆に重要な場面で起用され続けた。
これは首脳陣が彼を「攻撃専門選手」ではなく「信頼できる両面型フォワード」と見なしている証拠である。
実際、2026年プレーオフではアイケルとのコンビが相手エースラインと直接ぶつかる場面も増えていた。従来のワンディメンショナルなスコアラーなら守備負担を避けるためにマッチアップを調整される。しかしドロフェエフはその役割をこなしながら得点も量産した。
ロイターやNHL.comが繰り返し報じているように、彼は重要局面での得点だけでなく、終盤のリード時や接戦の場面でも信頼される存在になっている。
だからこそ、2026年夏の契約交渉でベガスが頭を悩ませているのである。37ゴールの得点力だけなら高額契約候補は珍しくない。しかし現在のドロフェエフは、得点力と守備力を兼ね備えた25歳のトップラインウイングとして市場評価を急上昇させている。
Pro Hockey Rumorsでも、彼がベガスのオフシーズン最大の契約課題であると分析されており、リーグ内ではオファーシート候補としても名前が挙がり始めている。「アイケルの隣の得点屋」ならここまでの評価にはならない。
2026年のドロフェエフは、ゴールスコアラーからゲーム全体を支配するフォワードへと進化したのである。
出典リスト
NHL.com, “Dorofeyev becoming ‘high-stakes player’ for Golden Knights”, 2026-05-29
NHL.com, “NHL EDGE stats: Avalanche-Golden Knights series in 2026 Stanley Cup Playoffs”, 2026-05-20
NHL.com, “NHL EDGE stats behind Golden Knights’ success under Tortorella”, 2026-05
Pro Hockey Rumors, “Vegas’ Projected Offseason Crossroads”, 2026-05-13
Reuters, “Golden Knights put Avalanche in 0-2 hole with third-period rally”, 2026-05-23
Reuters, “Pavel Dorofeyev’s OT goal gives Knights 3-2 series lead over Ducks”, 2026-05-13

