はじめに
2025年のNHLフリーエージェント市場は一見地味でしたが、掘り出し物の契約が続出。年俸以上の価値を生むベテランや若手が注目を集めました。
日本のプロ野球以上に、NHLのFA戦線は予測不能でユニーク。その魅力が詰まった今季の契約を、実例とともに振り返ります🧊🏒
参照記事:The Hockey Writers「8 Best Contracts Signed in NHL Free Agency 2025」
NHLの2025年フリーエージェント市場を振り返る🧹✨
NHLの2025年フリーエージェント市場が一段落しましたが、全体的には少し期待外れだったかもしれません。まだ数人の選手が契約を結ばずに残っており1、長引くほどに安値で契約される可能性もありますが、それでも、トップクラスの選手たちは次々と新しいチームと契約を結び、注目すべき契約がいくつか誕生しました。
今から、これまでに成立した中で特に良かった契約をピックアップして紹介していきます!
ジョナサン・ドルーエン(コロラド・アバランチ→ニューヨーク・アイランダーズ)
まず注目したいのは、ニューヨーク・アイランダースが獲得したジョナサン・ドゥルーエン。アイランダーズは、興味深いオフシーズンを過ごしています。
ノア・ドブソンをモントリオール・カナディアンズにトレードしたのを皮切りに、2025年のドラフト1巡目でマシュー・シェーファー(全体1位)、ヴィクター・エクルンド(全体16位)、カショーン・エイチェソン(全体17位)を指名しました。
フリーエージェンシーでは比較的静かな動きでしたが、ドゥルーエンと年俸400万ドル(約5億8000万円)の2年契約を結びました。彼はケガで今季はわずか43試合の出場だったものの、それでもシーズン換算で71ポイントのペースを記録するほどの実力派。
彼はコロラド・アバランチで最も効率的な5対5スコアラー2の一人であり、過去2シーズンでキャリアを再生させたようにも見えます。この成績がネイサン・マキノンの影響だったかどうかは今後分かることですが(実力ではなく、同じラインを組んだ選手が良かった?)、仮にそうだったとしても、アイランダーズは十分な価値を得られるはずです。
たとえドゥルーエンが40〜50ポイント程度に落ち着いたとしても、オフェンス力が少し控えめなアイランダースにとって、年俸400万ドルの価値は保てる、コスパ良しの補強です💪フリーエージェンシーで獲得できた中ではトップ6(第1〜第2ライン)ウィンガーとして良質な選手の一人であり、予想よりも安く契約できたのはアイランダーズにとって大きな収穫です。
このFA移籍は、他の情報サイトでもおしなべて評価高いです。このオフのアイランダーズ、一番くじ引いて以降、かなり本気です。
ウィル・クーリー(ニューヨーク・レンジャーズと再契約)
次に、オファーシート3のリスクがあったからかもしれませんが、ニューヨーク・レンジャーズが素早くサインしたウィル・クーリー。2年で780万ドル(約11億3,000万円)のブリッジ契約4で、今季、レンジャーズにとって不本意なシーズンの中、クーリーは数少ない明るい材料の一つであり、82試合で20ゴール・45ポイントと輝きを放ちました。
クーリーはフィジカルなプレースタイルを持ちながら、シュート能力と得点感覚も兼ね備えています。身長6フィート3インチ(約190cm)、体重210ポンド(約95kg)というサイズながら、スケーティングも比較的良く、まだ発展途上のポテンシャルを持っています。今後数シーズンで、レンジャーズがさらにその能力を引き出せるかもしれません。
まるで「マシュー・ナイズ(トロント・メープルリーフス)のライト版」とも言える選手です。もしこの2年間の契約期間中に、25ゴール・50ポイント以上を記録できるような選手に成長すれば、レンジャーズにとって非常にコストパフォーマンスの高い契約になりそうですね⚡
マット・ドゥシェイン(ダラス・スターズと再契約)
さらにダラス・スターズのマット・ドゥシェイン。契約期間の長さに若干の不安はありますが、今後4年間、年俸450万ドル(約6億5000万円)というキャップヒットは非常に価値のあるものになりそうです。彼は今季、衰えを感じさせる様子は一切なく、82試合で30ゴール・82ポイントと大活躍。さらに、多くの指標がこの成績を今後も維持できる可能性を示しています。
彼は今季、NHLでも屈指のプレーメーカーであり、スターズにおいて5対5の効率的なスコアラーでもありました。1試合あたり60分換算で2.55ポイント5という成績を残しています。
ディフェンス面ではややパフォーマンスが落ちてきており、今後も毎年80ポイント前後を記録し続けるかどうかは未知数ですが、プレーを主導する力は健在で、スケーティング能力も依然として高い水準にあるため、少なくとも450万ドルの価値は十分あると言えます👍極端に成績が落ちて40ポイントすら取れなくならない限り、この契約はお買い得といえるでしょう。
意外な掘り出し物も!?注目の中堅選手たち🔍✨
ピウス・ズーター(バンクーバー・カナックス→セントルイス・ブルース)
セントルイス・ブルースが狙ったのは、バンクーバー・カナックスで25ゴール・46ポイントを記録し、昇給が見込まれていたピウス・ズーター。実際に彼がサインした契約金額には驚かされました。
センターの層を厚くしたいと考えていたセントルイス・ブルースは、ズーターと2年契約、年俸400万ドルで合意したと発表しました。 今季の成績を考慮すると、ブルースは市場価格よりもやや安く彼を獲得したといえるでしょう。
とはいえ、ズーターの契約にはいくつか懸念点もあります。2024-25シーズンはキャリアハイだったこともあり、シュート成功率6が18.1%と高かったことを考えると、来シーズンは成績が落ちるかもしれません。
仮に成績が落ちたとしても、彼が400万ドルのキャップヒットに見合う選手であり続ける可能性は高いでしょう。ズーターは優れたホッケーセンスを持っており、リーグでも屈指の守備的フォワードの一人です。仮に35〜40ポイントの選手に戻ったとしても、ブルースが彼の契約で価値を見出せなかったとは言えないはずです😊
この移籍にはちょっとビックリ。昨シーズンもそうだったけど、ブルースは渋い人選で、着々と戦力補強してるイメージ。
エフゲニー・ダドノフ(ダラス・スターズ→ニュージャージー・デビルズ)
一方、ニュージャージー・デビルズは、2024-25シーズンにおいて、下位ライン(第3〜第4)の得点力がほとんど皆無だったことから、その強化を目的に年俸わずか100万ドル(約1億4,450万円)の1年契約(+成果に応じたボーナス7あり)でエフゲニー・ダドノフを獲得。
今季は20ゴール・40ポイントと安定した成績を残しており、かなりのバリュー契約です。ダドノフは依然としてスケーティング能力が高く、5対5での得点力も健在です。昨シーズンの5対5での得点ペースは60分あたり0.8ゴールで、これはデビルズのロースター内でも上位5人に入る数字でした。
今季のフリーエージェント市場における“お買い得候補”の一人であり、デビルズはこの機会を利用して下位ラインの得点力をしっかりと補強したのです🏒✨
ジョン・タバレス(トロント・メープルリーフスと再契約)
また、トロント・メープルリーフスのジョン・タバレスは“故郷割引”とも言える契約で、まさにその極みとも言える内容、4年438万ドル(約6億3600万円)の再契約を決めました。彼はトロント出身で、幼少期からメープルリーフスのファンでした。それが、7年前にチームと契約した理由であり、今回、ディスカウント価格で再契約した理由でもあります。
誤解してはなりません。市場に出ていたら700~800万ドル(約10億1500万円〜11億6000万円)は稼げたはずですし、今季38ゴール・74ポイントの好成績もあり、マット・ドゥシェインがスターズと再契約していなければ、彼と最も優秀なUFAセンターの座を争っていたはずです。
しかし、彼はあえて地元に残ることを選択、そして、それを責められる人はいないでしょう。なぜなら、メープルリーフスはNHL屈指の強豪チームだからです。
たとえ今後、タバレスの成績が40ゴール・75ポイントといったハイペースから落ちることがあっても、年俸438万ドルという契約は、メープルリーフスにとって非常に大きな価値をもたらすでしょう。これは今オフに結ばれた契約の中でも、ドゥシェインのものに次いで最も優れたものといえます。そして、両者の契約内容が似ているのも偶然ではありません🎉
ベテランの価値を再確認!バーンズとマクラウドの契約✨🔥
ブレント・バーンズ(カロライナ・ハリケーンズ→コロラド・アバランチ)
カロライナ・ハリケーンズ以外のユニフォームを着たブレント・バーンズを見るのは違和感があるかもしれませんが、コロラド・アバランチが今オフに結んだ中で、最もお買い得な契約の一つかもしれません。
今季はやや衰えが見えたものの、ブレント・バーンズは82試合で29ポイントを記録し、基礎的な指標の多くは安定していました。守備面ではトップペアの厳しい役割をこなしており、その中での数字は評価できます。ダドノフと同様、コロラド・アバランチは彼に1年100万ドルの契約を用意。
バーンズの守備面での影響力は今季やや低下していましたが、それは彼がヤコブ・スレイヴィンとともに、非常にタフなトップペアとしてのミニッツをこなしていたためでもあります。そのような役割はアバランチでは与えられない見込みで、守備の厳しいマッチアップはケイル・マカーが担うことになるため、バーンズはセカンドまたはサードペアで起用される可能性が高くなります。
キャリア晩年のバーンズにはぴったりの環境と言えそうで、パフォーマンスボーナスも多く、年俸100万ドルの契約としてはアバランチにとって理想的な補強となるでしょう💼👍

バーンズはフル出場してることもあり、引退するにはもったいないし、かといって、トップラインで起用するにはやや厳しいという難しいポジションにいる選手なんだにゃ。おまけに、お客を呼べるスター性もある。「お試し契約」っぽいけど、フィットすれば、更に契約のレベルが上がるって条項も入ってるんじゃないかな。
ライアン・マクラウド(バッファロー・セイバーズと再契約)
一方、バッファロー・セイバーズでブレイクアウトの年を迎えたライアン・マクラウドは、79試合で20ゴール・53ポイントとブレイクを果たしました。シュート成功率は今季20%超(20.6%)と高かったため、来季は数字が落ちる可能性もありますが、彼はシュート数の少ないタイプでもあります。
それでも3〜4年で年500万ドル(約7億2500万円)はコスパ抜群、キャップが上昇し続ける時代において非常に価値のある動きかもしれません。
今後数年でサラリーキャップの上限が1億1500万〜1億2000万ドル(約166億7700万円〜174億円)に達すれば、マクラウドの500万ドルというキャップヒットは実質的に350万ドル(5億800万円)程度の価値になるはずです。それを考慮すれば、彼は十分にその金額に見合う選手だと言えるでしょう。
たとえ彼が10〜15ゴール、35〜40ポイントの選手に“後退”したとしても、マクラウドはNHLでもトップクラスのサードラインセンターの1人です。守備やペナルティキル、フェイスオフの強さも光ります。
セイバーズにはまだ多くの課題がありますが、GMのケヴィン・アダムズ8は将来を見据えた良い契約を結びましたね⛸️🔥
今シーズンの契約から学ぶNHLチームの賢さ📚💡
今回のフリーエージェント市場では、ビクター・オロフソン(ベガス・ゴールデンナイツ→フリー)やジャック・ロスロヴィック(カロライナ・ハリケーンズ→フリー)のような未契約の選手も、時間が経てばお得な契約になる可能性はありますが、今オフのフリーエージェント市場において「最高の契約」と評価される可能性は低いのです。
ただ、今季の契約で「最高の掘り出し物」と呼べるのは、やはりジョン・タバレスやマット・ドゥシェインの契約でしょう。
彼らは当初、多くの人から「リスクが高い」と見なされていたのに、蓋を開けてみればチームにとって非常に価値ある契約となりました。これこそが、NHLチームが以前よりもずっと賢く、効率的な補強を目指すようになった証拠です。今回の市場はその変化を感じさせる、興味深いものでしたね👍✨
まとめ
高額契約だけが正解ではない今のNHL。チームの戦略眼や選手の適応力が、契約の「良し悪し」を大きく左右しています。数字だけでは見えない価値をどう見抜くか――今後のFA市場も、その目線が試されそうです👀🏒

ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 7月7日現在のフリーエージェント市場については、こちらを参照のこと→☆。
↩︎ - パワープレーなどの特殊状況ではなく、通常の5対5のプレーで得点を効率よく生み出す選手を指す。60分あたりの得点(Points/60)、期待ゴールに対する実際のゴール数(xG対比)、シュート成功率などから評価され、短いアイスタイムでもインパクトを残す選手が多いのが特徴。
↩︎ - 他のチームが制限付きフリーエージェント(RFA)の選手に提示する契約のこと。RFAとは、元のチームがある程度の交渉権を保持している選手である。
仕組みはシンプル。
(1)あるチームがRFA選手に契約(オファーシート)を提示し、選手がそれにサイン。
(2)元のチームは7日以内に、その契約に「マッチ」(同じ条件で契約)するかどうかを決める。
(3)マッチした場合:選手は元のチームに残る。
(4)マッチしない場合:選手はオファーシートを提示したチームへ移籍し、元のチームはドラフト指名権を補償として受け取る。
オファーシートは、才能ある選手を獲得するチャンスだが、元のチームは選手を維持するために高額な契約を受け入れるか、貴重な選手を失うかという難しい選択を迫られる。そのため、NHLでは比較的珍しい戦略とされている。
↩︎ - 選手の価値を見極めるのが難しいとき、RFA(制限付きフリーエージェント)選手には「ブリッジ契約」が一般的な選択肢となる。これは短期間の契約で、チームが選手の成長や実力を見極める時間を確保しつつ、次の契約に向けてキャップスペース確保のための猶予を与えるメリットがある。選手にとっても、自分の実力を示すチャンスとなる。
↩︎ - NHLにおける一流選手のポイント基準は、1試合あたりの平均ポイント(PPG)が1.0を超えること、または60分あたりのポイント(P/60)がフォワードで2.0以上、特に2.5を超えるとリーグトップクラスと評価される。P/60は、出場時間に関わらず選手の効率的な得点能力を示す指標として重要。
↩︎ - NHLのシュート成功率(S%)で一流とされるのは、フォワードの場合、継続的に15%以上を維持できる選手となる。これは、単にシュートの巧さだけでなく、質の高いシュートチャンスを選ぶ判断力も示している。
↩︎ - NHLの選手ボーナスは、主にルーキー契約やベテラン選手向けの契約ボーナスと、プレーオフの成績に応じたプレーオフ賞金プールからの分配の2種類がある。契約ボーナスは、ゴール数やアシスト数、オールスター選出などの個人成績に応じて支払われ、プレーオフ賞金はチームの勝ち上がりに応じて分配される。
↩︎ - 1974年生まれのアメリカ人元プロアイスホッケー選手で、現在はバッファロー・セイバーズのGMを務めている。選手としては1996〜2008年までNHLでプレーし、2005-06シーズンにはカロライナ・ハリケーンズでスタンレーカップを獲得。引退後はコーチを経て、2020年にセイバーズのGMに就任した。 ↩︎