はじめに
前回の記事、シアトル・クラーケンのプレーオフ進出なるか否かを巡る内容は、単なる憶測だけでなく、様々な角度から試合内容を分析し、はじき出された数字をベースにしたものでした。このブログ開始以降、NHLに関する分析力の凄さに舌を巻きっぱなしです。
今回はその記事にもちらっと出てきた、フロリダ・パンサーズについてです。昨シーズンのスタンレーカップ・ファイナリストであり、一昨シーズンはプレジデンツ・トロフィー(年間最多勝チームへ贈られる)受賞チームでもある、強豪中の強豪。
今シーズンはスタートでつまずき気味だったものの、あっという間に盛り返し、所属するアトランティック・ディビジョンで、ボストン・ブルーインズとトップ争いを演じています。今回は、その強さの秘密と、意外な弱点についてお届けしましょう。
フロリダは実績充分で、もっと注目されてもいいのに、
その上を行く強さを昨シーズンから維持しているボストンが、
これまた話題をさらっていくんだにゃ。
ボストンには勝ち点1を取れる延長負けが10もあって、
これが2チームの分かれ目になっている。
引用元: tsn.ca「Panthers look like the NHL’s most dangerous team」
エドモントンだけじゃなく、フロリダも見てくれ
ウェスタン・カンファレンスで、エドモントン・オイラーズが2ヶ月間、シーズンを盛り返す猛烈な追い上げを見せる中、見落とされていたのは、イースタン・カンファレンスのディフェンディング・チャンピオンが驚異的な復活を遂げたことです。
もしかしたら、彼らは決して(優勝争いから)立ち去っていなかったのかもしれません1。しかし、フロリダ・パンサーズは、現在のところ、ナショナル・ホッケー・リーグで最も危険なチームかもしれません。
そして、アトランティック・ディビジョンの優勝候補たち(プレーオフ1回戦で対戦する可能性が最も高いトロント・メープルリーフスを含む)にとって、フロリダは大きな懸念材料になりつつあります。
サム・ラインハートの気の遠くなる程の数字である39ゴール(そしてその数は増え続けている)を除けば、パンサーズに関する報道は、これほど素晴らしい復活を果たしてきたチームにとって、少し軽いものでした。
フォワードもすごいが、守備もいい
週末の試合を終わったところで、フロリダはすでに4人のスケーター(前述のラインハートのほか、フォワードのマシュー・トカチュク、カーター・フェルハーゲ、アレックス・バルコフ)が50ポイントの基準点(合格点)を超えており、印象的な攻撃面での鍵を握っています。
しかし、私が注目しているのは、彼らの守備のパフォーマンスです。フロリダは、いつも同じような攻撃一辺倒のチームではありません。
フロリダは1試合あたりの失点数(2.5)でリーグ2位となっており、セルゲイ・ボブロフスキーとアンソニー・ストラーツは、守備態勢の改善により、ともに好成績を収めています。
ここ数週間、どこもエドモントンの連勝記録ばっかり取り上げていたからにゃ。
地味〜に勝って、地味〜にシーズン最多勝チームになって、
地味〜にスタンレーカップのファイナリストになっていたのが、最近のフロリダなのだ。
とにかく得点のチャンスが多い
これまでの試合において、驚くべき方法により、パンサーズはアイスリンク上での戦いに挑んでいます。
フロリダの得失点差(実績値=実際の得点と失点、予想値=得点あるいは失点になると予想される場合、の両方)はここ数カ月にわたって上昇しており、アトランティック・ディビジョンで同レベルの力を持った他のチームと比べても非常に優れています。
複数のゲーム状況において、フロリダが巨大な存在であると指摘することは重要です。
リンク上の両チームが同じ人数で戦った場合、1シーズンにおける予想得失点差(55.6%)で2位となっています(得点の予想値が、失点のそれより高いことを示す)。これは得失点差+18に相当し、ナショナルホッケーリーグ全体6位という良い成績を収めています。
彼らのプロフィール(HockeyViz2経由)は、事実上、壮大なスケールを持ったシューティング・ギャラリーであり、ロー・スロットとサークル間で3危険な得点チャンスを生み出すマシンです。
パワープレーのチャンスも逃さない
それだけでも十分怖いはずなのに、認めようとしないなら、彼らのパワープレーに関する一面を少し考えてみてください。
今シーズンのフロリダのマン・アドバンテージ(パワープレーの際、相手チームよりリンク上の人数が多いこと)は素晴らしく、プレー時間60分あたり平均9.3ゴール(NHLで8位)を記録しています。
しかし、注目すべきは、彼らがコナー・マクデイビッドのチーム(エドモントン・オイラーズ)に匹敵するほどの攻撃的プレッシャーを生み出していることです。
パンサーズとオイラーズは、パワープレーで60分あたり平均約11ゴールの予想ゴール数を記録しています。
フォワードの核となるグループ(トカチュク、ラインハルト、フェルハーゲ、バルコフ)は、ディフェンダーのブランドン・モントゥールまたはオリバー・エクマン=ラーションとのローテーションでプレーしています。
そして、彼らは息をのむほど危険で、あらゆる種類のペナルティ・キル構造に対して、迅速かつ正確にパックを動かします。
自チームがパワープレーの際、相手にゴール前を固められて、
意外と得点チャンスを作れないものなんだにゃ。
予想ゴールというのは、得点できなくても、
フロリダは絶えず相手に「危険信号」を送り続けられるチームだってこと。
主力級と控えのフォワード、格差問題
このチームに弱点が1つあるとすれば、分厚い選手層の中で、コア・グループ以外の選手のパフォーマンスにあります。リーグ全体を見て、他のチームの選手層と比較しても、フロリダの下位(サード&フォース・ライン)6人のフォワードにはまだ物足りなさが残っています。
今シーズン、4人のレギュラー・フォワード(イートゥ・ルオスタリネン、ケビン・ステンランド、ニック・カズンズ、スティーブン・ローレンツ)は、リンク上の選手数が相手と互角の場合、容赦なく負けています。
その主な理由は、彼らが氷上にいると攻撃が停止してしまうためです。
トレードで問題を打開できるか
この理由から、現在400万ドル弱のキャップスペースがあることと合わせて、パンサーズがトレード・デッドラインまでに積極的な買い手になると予想しています。
ピッツバーグのジェイク・ゲンツェルやアナハイムのアダム・エンリケのようなフォワードは夢のような補強であり、サラリーの僅かな増減に関するやり取りや、あるいはトレードで(フロリダから放出される選手の)年俸の一部を保持することによって容易になるでしょう。
とはいえ、以前の取引で、すでに将来への資産(特に2024年と2025年の1巡目指名権)を活用していることは、認めるに値します。
私たちの多くは、2021-22シーズン、フロリダのアトランティック完全制覇の躍進に驚きました。もう、誰も不意を突かれるべきではありません。
フロリダはリーグ最高のチームの1つであり、おそらく現在どのチームよりも最高のホッケーをしており、プレーオフ1回戦の組み合わせ抽選で、彼らと対戦することになったら、そのチームにとって悪夢のようなシナリオに他なりません。
まとめ
少し前の試合になりますが、2月10日、コロラド・アバランチ戦を4-0で完封するのなんか見ていても、「うむ、フロリダは強いな」と思わせてくれます。コロラドのような攻撃力の高いチーム相手でも、フロリダは変に引きすぎて守備的にならず、早いチェックが印象的。
ただ、フロリダの手元に今年のドラフト一巡目指名権のないことが、シーズン終了後、どう影響してくるか。出場するであろうプレーオフの結果次第、スタンレーカップ決勝以下だと、補強への力の入れ具合は変わってきますし、一巡目指名権はいろいろ使えるコマですから。
今後、なかなか落ちてこないディビジョン首位のボストンをどう攻略するか。向こうは経験豊富なベテランを中心とした試合巧者なんで、フロリダより経験値の高さで半歩リードといった感じ。勝ち点差は4、フロリダはしばらく「勝ち点ゼロ試合」を作らないことですかね。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 2023-2024シーズン、開幕2連敗と不穏なスタートの後、2023年11月初旬から中旬にかけての5連勝があったものの、どちらかと言えば、「勝ったり負けたり」の繰り返しが序盤戦の特徴だった。
それを一変させたのが、12月下旬から2024年1月初旬にかけての9連勝である。その後4連敗を喫したが、すぐさま8勝1敗と盛り返し、2月15日時点でボストンと勝ち点で並び、得失点差で遂に首位に立っている。
↩︎ - よりホッケーを理解するため、試合内容や選手のプレー・データをグラフ化し、視覚での理解力を高めると同時に、次戦への予測をも立てられるサイト。
↩︎ - スロットとは、ホッケーリンク上のフェイスオフサークル間のゴールテンダーの真正面にあり、フェイスオフサークルの上部まで広がるエリアのこと。「ロー」の場合、よりゴールテンダーに近い真正面の位置となる。 ↩︎