スラップ・ショットは絶滅寸前?選手達の証言から原因を探る【後編】

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はじめに

 豪快で、見る人を惹きつけずにはいられない大技・荒技?スラップ・ショットが、最近のNHLで少なくなってきている…についての続編です。
 前回の記事はこちら→スラップ・ショットは絶滅寸前?選手達の証言から原因を探る【前編】

 速いパス回しによって、ゴール前までパックを運ぶことに重きを置く今のNHL。持っていった後、ゴール前でちょっとスティックに当ててネットに放り込んだり、ゴチャゴチャやっている間に何か得点できてしまった!みたいな得点パターンが増えたように思います。

 それはそれで見応えありますし、ポジショニングの良さを堪能すべきなのでしょうけど、やはりいろんな得点パターンを見たいのが、ファン心理として当然あります。しかし、現代のサッカーがフォアチェックを重視するように、アイスホッケーもその傾向を持っています。

 これからお届けする現役選手達の証言は、フォアチェックの功罪を示していると同時に、コンパクトにまとまりつつあるNHLの攻撃スタイルへの警鐘のように思えるのですが…。

讃岐猫
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引用元:sports.yahoo.com「The slap shot is dying. NHL players explain what’s to blame」。

シュートの速さより、選手のポジショニングと素早い動き重視

 ショットの速度と精度の間には相関関係があるかもしれません。

 NHL Edge1のデータによると、今シーズン時速160マイル(時速約256キロ)を超えるショットを2本以上記録している選手は、フィラデルフィア・フライヤーズのディフェンスマン、トラビス・サンハイム(27歳)だけです。

サンハイムのショット映像。6年前の映像ですが、今も変わってないってことですね。

 この時代、シュートの速さよりも、シュートを打つ位置がより重視されていることは確かです。

 2010-11NHLシーズン中、フレームスのディフェンスマン、クリス・タネフ(34歳)はディフェンスのスペシャリストとしてリーグに登場し、今シーズン、800試合のマイルストーンに到達する可能性があります。

 タネフはブロック・ショット2において常にNHLのトップクラスにあり、ディフェンダーとしてシュート・レーン(シュートの進路・軌道)に入る重要性を理解しています。34歳の彼は、ゲームのスピード向上がショット選択の要因となっていることに同意しました。

 「その通りだと思うよ。選手たちは確実にスラップ・ショットを打たないようにしているね」とタネフはYahoo Sportsに語っています。

 「おそらく素早く動こうとしているせいだと思う。最近のディフェンスマンはみんなレーンに入るのがとても上手くて、(攻撃側の選手は)できるだけ早くシュートを打とうとしている。スラップ・ショットはいつも打つのに少し時間がかかるんだ」。

讃岐猫
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相手選手はすぐに目の前にやってくる!

 カナックスのディフェンスマン、タイラー・マイヤーズ(33歳)は2009-10シーズンにカルダー・トロフィー(最優秀新人賞)を獲得しましたが、その理由の大部分はスラップ・ショットの効果によるものです。

 受賞シーズン中、11ゴールのうち4ゴールは、彼の自慢のワインドアップ(大きく振りかぶったシュート)で決めました。しかし、タネフと同様、彼も近年の戦略の変化に気づいています。

 「最近の試合で大きな部分を占めているのは、パックをネットまで運ぶことだと思うよ。手首を使えば、より早くパックをネットまで持っていくことができる」とマイヤーズはYahoo Sportsに語りました。

 「相手チームの守備のやり方によっては、スラップ・ショットで得点するのは難しいし、相手選手たちはすぐに迫ってくるし、試合自体も速くなっている。

 選手の考え方の多くを占めているのはパックをネット前まで持っていくことであり、それを解決する手っ取り早い最善の方法は、おそらくもっと多くの選手がリストを使ってプレーすることなんじゃないかな」。

マイヤーズ、ジェッツ時代のスラップ・ショット映像。チームメイト、かなり痛そう。

現代のディフェンスマンはスラップ・ショットを避けている

 クイン・ヒューズ(24歳。バンクーバー・カナックス所属)は、多くの点で現代のディフェンスマンを体現しています。

 ヒューズは、10年前ならブルーライナーとして「典型的な小柄な選手」とみなされていたでしょうが、彼の全世界レベルのスケーティング能力と、横方向へ相手選手を追い込んでいく能力は、リーグの羨望の的となっています。

 ヒューズは現在、NHL最多ポイントランキングでトップタイの26ポイントを挙げ、2019-20シーズンにNHLの主力となってからは、スラップ・ショットでわずか7回しか得点を挙げていません

 「ただ、(シュート態勢に入る)準備をする時間がないだけだと思うよ。難しいからね」とヒューズはYahoo Sportsに語りました。

 「(シュートを打つために)ブルーラインから前へ出ると、守備位置から離れなければならないし、多くの選手がラインを越えてパックを取りに来るから、シュート態勢に入るための時間はあまりない」。

 バンクーバーのキャプテンは、その驚異的なスケーティング能力によって防御を攻撃に変えることができるため、常に攻撃的な脅威となるでしょう。

 また、スケートの刃の部分を使った動きが素晴らしく、(相手選手が)彼への接触プレーを誤ると、瞬時にリンク上は5対4になってしまうため(ペナルティで退場)、ボード(アイスリンクを囲っている壁)に押しつぶされることを心配する必要はありません。

 ノリスの最有力候補が対戦相手を圧倒しているのは、彼のスピードと視野の広さが、次にどのようなプレーをしていけばいいかを導き出すため、強力なフォワードに圧倒されることがないのです。

讃岐猫
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衰退していく伝統的な「技」

 ヒューズ、ケイル・マカー(25歳。コロラド・アバランチ所属)、アダム・フォックス(25歳。ニューヨーク・レンジャーズ所属)は、NHLの次世代ディフェンスマンのリーダー的存在であり、そのスピード、プレーメイキング、ディフェンスの意思決定が高く評価されています。

 NHLプレーヤーを目指す次世代の選手たちがスラップ・ショットを有効な選択肢と見なさなくなっているため、スラップ・ショットはやがて消滅するのでしょうか。

 データを見る限り、物事はその方向に進んでいるようです。芸術の形を守ることは、規模を縮小させていくスラップ・シューターたちの一群に委ねられ、そう遠くない将来、この技を持った巨匠たちは日没の中へと滑っていくことになるでしょう。

まとめ

 NHL.TVを見ていると、よく分かるのですが、大きくリンクを使ったパスで相手陣形を崩すよりも、細かいパスを繋いでゴール前にパックを持っていき、トリッキーなリスト・ショットで相手ディフェンダーやゴールテンダーを仕留める…そのパターンが多いのです。

 スローモーションの時に、そのトリッキーさがよく分かるのですが、通常速度だと、何かゴチャゴチャしている内に点が入っちゃった…ように見えてしまうのです。ここのところを見ている側がどう割り切れるか。現代アイスホッケーを好きになれるかどうかも、そこにかかっているように思います。

 アイスホッケーの面白さが画一化されるより、いろんな面白さが欲しいですよね。豪快なプレー、永遠なれ!

讃岐猫
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【註釈】

  1. パックと選手の動きを追跡・分析できる最新技術を用いて、2021-22シーズン以降のNHL全選手とクラブのグラフィックとデータ・ビジュアライゼーションを検索、並べ替え、フィルター、表示することができるサイト。2023年10月23日より正式運用開始。
    ↩︎
  2. 普通、ディフェンスの選手が相手のシュートを防ぐために行うプレー、つまり、ブロックのこと。アイスホッケーの場合、ゴール前でシュートを打たせないように、守備側のディフェンスマンがリンク上で身を挺してブロックする事の呼称となる。 ↩︎
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