はじめに
「嵐の7月1日(FA解禁日)」が過ぎても、NHLではトレードが活発に行われています。FAで大物を獲り損なって焦っているチーム、ユタのように、ガラッと生まれ変わろうとしているチーム、そして、どことは言いませんが、ボンヤリと市場を眺めているチーム…。
今回は、7月1日に動き回った10チームの成績表です。サラリーキャップの影響で、動きたくても動けなかったチームの多い中、ナッシュビル・プレデターズの電光石火の早業は群を抜いていました。どちらかというと、「地味な印象のチーム」なのに…。
その反面、シカゴ・ブラックホークスとかサンノゼ・シャークスは、若手を温存しながら、FA対象者やFA間近のベテランを放出し、他チームのFAには目もくれません。よって、今回の10チームは弱点補填をベテランでやろうとしている、と考えていいでしょう。
フィラデルフィア・フライヤーズは、ドラフト大失敗で傷心しているからか、
FA市場にもトレード合戦にも参加しないにゃ。
むしろ、ボコボコ選手が抜けているのを止めないと、
来シーズン闘えなくなるぞ!ミチコフだけで満足しているのかなぁ。
引用元:The Hockey News.com「NHL Free Agency: Grading 10 Teams for Their Off-Season Actions – or Lack Thereof」
「7月1日、FA補強」査定表
7月1日・月曜日、NHLフリーエージェンシーがキックオフされたとき、主要なUFA(無制限フリーエージェント)契約のほとんどが行われました。
これまでのオフシーズンで、どのチームが肯定的な評価に値するか、トレードやフリーエージェントの面で、どのチームがその進め方、あるいは選手を獲得できずに失敗しているのか、がすぐに明らかになりました。
この夏、これまでのNHL10チームの最高と最悪の成績について、筆者の選んだものは次のとおりです。
※本ブログでは10チーム中7チームを取り上げています。
「大成功」は3チーム!
ナッシュビル・プレデターズ
プレデターズのGMバリー・トロッツは、このオフシーズン、いい加減に過ごしていたわけではありませんでした。
まず、スターゴールキーパーのジューゼ・サロスに8年間の契約延長に同意させ、全盛期の彼をトレードの枠から遠ざけているのです。
その後、トロッツはフリーエージェンシーのスーパースターであり、スーパースターウィンガーのスティーブン・スタムコス、フォワードのジョナサン・マルケソーという2人のスタンレーカップ優勝者、
最高のディフェンスマンの1人である、元カロライナのブルーライナー、ブレイディ・スキーとバックアップ・ゴールキーパーのスコット・ウェッジウッドを獲得しました。
オフシーズンとしてこれ以上のものはないし、トロッツは彼のチームのハードルを上げました。その大胆とも言うべき行動は全面的に評価できるものです。
評価ランク:A+
ニュージャージー・デビルズ
デビルズは2023-24シーズンに最大の失望を味わったと言えるでしょうが(メトロポリタン・ディビジョン7位)、その中核となるタレントは平均を大きく上回っていました。
ニュージャージーのGMトム・フィッツジェラルドは、その後、競争の激しいメトロポリタン・ディビジョンのライバルに差をつけるため、ロスターを作り直した。
ゴールキーパーのジェイコブ・マークストローム(カルガリー・フレームスから)を獲得したのを皮切りに、ブレット・ペッシェ(カロライナ・ハリケーンズから)とブレンデン・ディロン(ウィニペグ・ジェッツから)という1人ではなく2人のベテランディフェンスを獲得しました。
そして最後に、ステファン・ノーセン(カロライナ・ハリケーンズから)という堅実な働き者のフォワードと契約しています。
どのような指標から見ても、素晴らしい収穫であり、デビルズにはまたしてもロスターの穴がほとんどありません。チームはメトロポリタン・ディビジョンの首位かその近くでフィニッシュすることが有力でしょう、フィッツジェラルドの今オフの活躍がその大きな理由です。
評価ランク:A
シアトル・クラーケン
クラーケンは、ブランドン・モントゥールというUFA市場でトップクラスのブルーライナーと、チャンドラー・スティーブンソンというトップクラスのセンターを獲得しました。
※詳細は、前述ナッシュビル・プレデターズの記事中にある、本ブログの別記事を参照のこと。
クラーケンの新加入選手2人は、合計1,360万ドルのキャップヒットを持っています。これは新しいコア・ピースとしては良い数字(それほど高くない)です。
シアトルは現在、フォワードと”D”のルックス(ディフェンス陣のこと)が改善されています。RFA(制限付きフリーエージェント)のフォワードであるマティ・ベニアーズとイーリ・トルバネンと再契約するためのキャップスペースには、まだ約910万ドルの余裕があります。
クラーケンGMロン・フランシスはチームに忍耐強く接してきましたが、これらの動きは期待を高め、シアトルは以上の要因のおかげで、来シーズンも繁栄するはずです。
評価ランク:A-
この2チームに、及第点をあげよう!
タンパベイ・ライトニング
確かに、UFA市場でキャプテンのスティーブン・スタムコスに、ユタとのトレードでディフェンスマンのミハイル・セルガチョフにそれぞれ別れを告げたのは、とても辛いことでした。
しかし、ライトニングGMジュリアン・ブリーズボアは、ライトニングのラインナップを作り直すのに非常にうまくいきました。
彼はスターウィンガーのジェイク・ギュンツェル(カロライナ・ハリケーンズから)、ベテランディフェンスマンのライアン・マクドナー1(ナッシュビル・プレデターズからトレード)、若手ブルーライナーのJ.J.モーザー(ユタからトレード)を加えました2。
ブリーズボアにはまだ585万5000ドルのキャップスペースがあり、モーザーと年数の延長と、低リスクで、低額の契約でベテランを数人加えることができます。
時々、チームは競争力を維持するために厳しい選択をしなければならず、ボルト(ライトニングの愛称)は今年の夏にそれを実行しました。アトランティック・ディビジョンでプレーオフ・チームを維持するのに十分でしょうか?私たちはそう考えています。
評価ランク:B+
トロント・メープルリーフス
夏になると、再びキャップの上限が窮屈になることをリーフスは知っていましたが、トロントGMブラッド・トレリビングはそれを最大限に活用しました。
彼は、ディフェンスのクリス・タネフ(ダラス・スターズから)、オリバー・エクマン=ラーソン(フロリダ・パンサーズから)、ヤニ・ハカンパー(ダラス・スターズから)、
そしてゴールテンダーのアンソニー・ストラーツ(フロリダ・パンサーズから)など、UFAの重要な選手達の獲得に貢献したのです。
メープルリーフスは、キャップの犠牲者である3タイラー・ベルトゥルッツィ(シカゴ・ブラックホークスへ移籍)に別れを告げなければなりませんでしたが、このチームには、彼のもたらしたオフェンス力と交換できるだけの内部資産があります。
トロントはディフェンスの改善という主な課題を特定し、プレーオフの経験が豊富なベテランを加えることで、それに対処するのがうまくいきました。
それをプレーオフの成功につなげなければならないというプレッシャーは、まだリーフスにありますが、トレリビングは来シーズン、より良いチャンスを与えるため、まるでチームにつかえるが如く献身的に仕事をしたのです。
評価ランク:B+
ライトニングもメープルリーフスも、しっかりと自身の弱点を把握し、
FAで補強を試みた点は似ているにゃ。
リーフスの補強内容はややベテラン寄りなんで、
スタミナや体調面の管理を怠ると、瞬く間に彼らは「お荷物」となる。
どうローテーションを組むか、かな。
ブービーと最悪の2チーム
ミネソタ・ワイルド
ワイルドはサラリーキャップ地獄に陥り続けており、1,470万ドル以上がザック・パリスとライアン・スーターの買い取りに4費やされています。
しかし、このオフシーズンのチームの主な動きは、フォワードのヤコフ・トレーニン(コロラド・アバランチから)と4年・1400万ドルの契約を結んだことです。それが非常に物足りなく感じるとしたら5、それはそうだからです。
チームはまた、フォワードのトラビス・ボイド、ブレンダン・ゴーンス、デビン・ショア(全員のポジションはセンター、来年の今頃UFAとなる予定)と、2ウェイ契約(NHLのチームと下部組織のチームの両者と契約)を結びました。
ミネソタは昨シーズン(23-24)、基本的にほぼ同じメンバーで闘ったものの、プレーオフに進出したチームではなかったので、(このまま補強がなければ、)来シーズン(24-25)の状況が変わることを期待させるものはあまりありません。
2024-25シーズン、ミニー(ワイルドの愛称)は厳しい戦いを強いられると思われ、この夏、これまでに起こったことが、それを変えることはできないでしょう。
評価ランク:D
ピッツバーグ・ペンギンズ
昨シーズン(23-24)はペンギンズにとって難しいと思っていたら、来シーズン(24-25)はさらに厳しい年になるかもしれません。
メトロポリタン・ディビジョンの他のチームがプレーオフチームになるべく、大きな一歩を踏み出しているので、ピッツバーグは32歳のセンター、ケビン・ヘイズ(セントルイス・ブルースから)、27歳のウィンガー、アンソニー・ボーヴィリエ6(ナッシュビル・プレデターズから)、
ディフェンスの控えだったマット・グゼリック(ボストン・ブルーインズから)しか獲得できませんでした。うわぁ。
ペンギンズがスターのシドニー・クロスビー、エフゲニー・マルキン、エリック・カールソン、クリス・レタンといったスター選手たちに支えられている限り、彼らの力で行けるところまで行くということに疑問はありませんでした。
しかし、チームの脇役となる選手は非常に重要で、ペンギンズがコア4人のプレッシャーを取り除くのに役立ちます。今回、上手くいかなかった補強は、この先起こるであろうことの厄介な前兆です。
評価ランク:D-
まとめ
カルガリー・フレームスも「D+」ランクだったのですが、ここ2シーズン精彩を欠いているアンドリュー・マンジャパーニをワシントン・キャピタルズへ、前述ジェイコブ・マークストロームをデビルズへの放出と、ドラフト成功により、他のDランクよりマシと判定されていました。
ペンギンズのベテラン依存は今に始まったことではないですし、どうにかこうにかやりくりできるチームなんで、そんなに心配していませんが、ワイルドはかなり厳しいでしょう。引退選手と移籍先で活躍している大ベテランに、気前よくサラリー払っているのは大減点。
スター選手もそれなりにいて、監督交代後、調子を上げていたチームなだけに、的確な補強がなされなかったのは残念以外の何物でもありません。肉を切らせて骨を断つような大型トレードでも断行しない限り、来シーズン、開幕からズルズル落ちていきそうな予感します。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 2024年5月21日、ナッシュビルから2024年NHLドラフト4巡目指名権と引き換えに、2024年NHLドラフト7巡目指名権、2025年NHLドラフト2巡目指名権と共にタンパベイへ移籍。
↩︎ - 2024年6月29日、ユタのミハイル・セルガチョフとのトレードで、コナー・ギーキー、2024年NHLドラフト7巡目指名権、2025年NHLドラフト2巡目指名権とともにタンパベイへ移籍。
↩︎ - 2024年7月1日、ベルトゥルッツィはシカゴ・ブラックホークスと4年間・2200万ドルの契約を結んでいる。
昨シーズン、80試合出場、21ゴール・22アシストを記録し、プレーオフでも活躍したが、2021年4月30日に受けた背中の手術等の影響もあり、サラリーの割には出場試合数が少ない。これが放出の原因になったと思われる。
↩︎ - 2021年7月13日、ワイルドはスーター(現ダラス・スターズ)とパリス(昨シーズン限りで引退)のそれぞれ残り4年間の契約を買い取っているため、2025年まで、両選手にサラリーを払い続けなければならない。
↩︎ - 2024年3月7日、トレーニンはジェレミー・ハンゼルと2024年NHLドラフト3巡目指名権と引き換えに、ナッシュビル・プレデターズからコロラド・アバランチにトレード。
トレーニンは両チームで主に第3〜第4ラインのセンターとしてプレーしており、プレーオフ圏内を狙いたいワイルドとしては、大きな補強とは言えない。
↩︎ - 2023年1月、ニューヨーク・アイランダーズからバンクーバー・カナックスへトレードされてから、彼の「流転の人生」が始まる。
同年11月28日、ボーヴィリエは2024年NHLドラフト条件付き5巡目指名権と引き換えに、シカゴ・ブラックホークスへトレード。その約4ヶ月後の2024年3月7日、ボーヴィリエは2024年NHLドラフト5巡目指名権と引き換えにナッシュビル・プレデターズへ移籍。
シーズン終了後、FAでピッツバーグ行きとなった。 ↩︎