はじめに
前回はフライヤーズの「新・暫定GM」についての記事でしたが、今回は定例のGM会議。アリゾナにあるパームビーチというセレブなところで会議するのは、いかにもアメリカ!って感じなのですが^^;、議論内容はかなり重要というか、「選手の安全を守る」ことに関するものでした。
それだけに「難しい」会議だったかもしれません。エンターテインメントを取るか、選手の安全性を取るか。特にクリーン・ヒット(すなわち乱闘)に関しては、なかなか線引も難しくて、「氷上の格闘技」も度を超すと、本来のアイスホッケーの面白さを損ねてしまいます。
お馴染みのビデオ判定も、クリーン・ヒットの導火線になりえますし、選手の士気にも関わりますから、明確なルールが欲しいものです。
NHLのゲーム説明書に「乱闘」の項目があるのには、
びっくりしたにゃ。
今回の記事の原題も「ファイト・エチケット」だもんなぁ。
引用元:ESPN.com「Fight etiquette, player safety among hot topics as GMs meet」。
ルール変更の可能性を模索中
NHLのGM会議は2日目の3月7日(火曜日)に入り、今後のルール変更に影響を与える可能性を持つ主要議題について議論が深まったようです。
月曜日の朝の分科会で、マネージャー達は、(選手同士の)クリーン・ヒット後の戦い、ビデオ・レビューの拡大がコーチからの「チャレンジ」に与える影響、選手の防具の増加について対話しました。
※クリーン・ヒット=NHLの場合、「ある程度の乱闘」は認められており、それが試合の流れを変えたり、チームの士気を高めたりする場合もある。
しかし、故意にターゲットの相手選手に身体的ダメージを与えようとするものもあり、それはダーティー・ヒットとされ、審判がそのようにジャッジした場合、数試合(ひどい場合は二桁の試合数)の出場停止処分が課せられる。
※ビデオ・レビュー=日本でもお馴染みになっている「ビデオ判定」のこと。ヘッドコーチからの「チャレンジ」も、日本とほぼ同じ。アイスホッケーの場合、プレーの速さや、防具を着けた選手がスクラム状態になると、パックがなかなか見えづらく、ビデオ判定でも難しい場合もある。
火曜日にはGMの全関係者が一堂に会し、生産的ではありますが、まだ先があるような対話を重ねたのです。
暗礁に乗り上げたようです
ウィニペグ・ジェッツのGMを務めるケビン・チェベルダヨフは、パーム・ビーチのリゾート施設で、この日のセッションが終わった後、「私達は、議題について、本当の意味でコンセンサスを得たとは思ってないよ」と語りました。
※ケビン・チェベルダヨフ=53歳。正式な肩書はエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼ゼネラルマネージャー。膝の怪我もあり、NHL出場歴は無し。ジェッツをレギュラーシーズン最高記録となる、史上初のウェスタン・カンファレンス・ファイナルに導いたGMとして知られる。
※パーム・ビーチ=米国フロリダ州南東部の町。富裕層の別荘地・リゾート地として有名。2003年、「全米で最も住みやすい都市」に選出される。
「多くのマネージャーは、ビデオ・レビュー等で物事を確実に正しく行いたいことに賛成だと思うけど、そのようなことがもたらす意図しない結果について、とてもとても意識しなければいけないんじゃないかな。議論した多くの点について、いくつかのより深い掘り下げがある。
ホッケーの運営ってものはその物事の温度を測り、もし(もっと話すべきだと)意欲があれば、作業を続けるよ。そして、私たちは会議場に課題を残してきてしまったようだ」。
クリーンヒット後の報復戦をどうするか
会議前に注目されたのが、クリーンヒット後の報復戦をどう取り締まるか、という点です。
ニューヨーク・レンジャーズのキャプテン、ジェイコブ・トルバ(ディフェンス、29歳)は、(痛みを伴うとしても)氷上で適切な打撃を与え、その後のスクラムで、ターゲットにしていた相手選手のチームメイトから身を守ることを余儀なくされた選手の一例にすぎません。
ファンから最も怒りを買い、メディアが報道するのは、スター選手に対するヒットであることが多いけれども、今週、GM達の交わした会話は、一流のスケーターだけでなく、氷上の全員をいかに守るかということにとどまりませんでした。
もう一つ、ケンカやヒットが広い意味でどう解釈されるかということであり、GMもプレイヤーも敏感に反応するものです。
殺伐としてるご時世だからにゃ、
過度に「乱闘」を認めるのはいかがなものか、
って感じはするな。
GMと選手の間にある考え方の違い
トロント・メープルリーフスのカイル・デュバスGMは「議論するのは本当に難しい」と話してくれました。「なぜなら、チームの誰かに対してクリーンヒットがあり、チームがそれに対して何もしなければ、そのことで激しく批判されるからだ。
※カイル・デュバス=37歳。NHLPAが認定した史上最年少のエージェントであり、2018年、アシスタントGMとして、メープルリーフスの下部組織マーリーズをAHLチャンピオンに導いた後、アリゾナ・コヨーテズのジョン・チャイカに次ぐ、NHL史上2番目に若いGMとして、現職に就任。
何かするとペナルティが課せられ、批判される。クリーンヒットに対する反応で、自分のチームがタフかどうかを判断されるのだと思うんだ。
そして、難しいところなんだが、私達はルールや全てのことについて話せるけど、選手達からすれば〈自分にとって、チームが何であるか〉の指標を探しているから、私達の話に対する苦情もあるんだよ」。
「それに、GMがゲームのフィジカル性を弱めることを提唱していたかというと、そうでもないんだ。主として考慮すべきは安全性であり、そして、その一環として、いつ、どのように闘いが行われるのかに、選手自身が関与できるようにすることさ」。
プロ野球の乱闘に近いノリなんだにゃ。
ただ、それで選手の忠誠心や、
チームのタフネスぶりを計るのはどうなんだろ。
大賛成の人もいます
「クリーンヒットも試合の一部だ」と、オタワ・セネターズのGMピエール・ドリオンは言っています。「このゲームは100年以上続いている。選手達自身でしっかりルール違反を取り締まっていると思うよ。選手同士にはある程度のリスペクトがあるはずさ。
※ピエール・ドリオン=50歳。彼も選手歴無し。2005年まで11年間、モントリオール・カナディアンズのスカウトを務めた後、レンジャーズを経て、2007年7月にチーフ・スカウトとしてセネターズに加入。
アシスタントGMを経て、2016年4月、現職に。父もメープルリーフスでスカウトだった。
それが良いクリーンヒットなら、それがゲームの一部であることを、彼らは理解していると思う。クリーンでない場合、明らかに選手の安全が優先され、あるいは試合内の審判がペナルティを宣告することになっている。
ルールは素晴らしい。それらを適用して、ゲームを続行させてほしいね」。
ビデオ判定を巡る意見
その同じ思考回路は、コーチの「チャレンジ」に関するビデオ・レビューの拡大というテーマにも適用できるでしょう。ドリオンは、ホッケーの大きな強みの1つとして、テンポの速いゲームであると指摘しています:
レビューの増加を強調しすぎると、それが妨げられるのです。最初に正しい判定をすることに、審判の責任があるはずです。しかし、それは必ずしもそれほど単純ではありません。
「『ああ、彼らはうまくやるべきだ』と言うのは簡単さ。それはどのゼネラルマネージャーも言うことだが、特に自分のチームに対して、うまくいかない時はそんなもんさ」とデュバスは言っています。
「間違いは起こるものさ、感情的なものだろ。何にチャレンジできるか、何にチャレンジできないかという点で、非常に範囲を狭める必要があると思うよ。会場の誰もができる限り正しいことを望んでいるはずだが、年間に何千ものチャレンジをこなすことではない。
だから、本当に判断の難しい主観的なプレーに対して、決定的に正しいか間違っているかの範囲を狭めることさ」。
GM達を驚かせた一本のビデオ
月曜日、GM全員が見たビデオの1つは、防具の増加に関するものでした。
エドモントン・オイラーズのフォワード、イベンダー・ケイン(左ウィング、31歳)の手首が、11月にタンパベイ・ライトニングのフォワード、パット・マルーン(左ウィング、34歳)のスケート・ブレードで切られ、
マルーンがケインをボードにぶつけたことから、この件に関する議論が激化しています。
ケインはアリーナから病院に緊急搬送され、10週間欠場しました。
防具を増やすべきか否か
事態の深刻さと長期的な影響の可能性から、選手はより多くの装備で身を守らなければならないのかという議論を巻き起こしました。レイヤー(アンダーウェア)の追加がゲームに影響を与えることについて、多くの人が懸念しているため、選手達との会話は続いています。
「昨日見せてくれたビデオは、私にとって本当に目を覚まさせるものでした。多くのGMにとっても目を見張るものだったと思う」とドリオンは述べました。
「イベンダー・ケイン(や他の選手)の怪我を見ていると、スケートがかつてないほど鋭くなっているのがわかる。より深く切り込むんだね。選手達は、〈もう少し緩くてもいいんじゃないか〉〈履き心地が悪いんじゃないか〉と話していましたね。
新しいことに挑戦する時、必ず違和感があるものですが、慣れてくると…選手にとってはただの調整かもしれませんが、他の人の健康や安全を考えた時、それが何よりも優先されるべきなんじゃないかな」。
念入りに道具の手入れをするのは、大事なことだにゃ。
自分の手足となって働いてくれるんだから。
でも、それを武器にしちゃいかんよね。
より多くのGMは、水曜日の朝に会議が終わった後も、あらゆる面での対話が続くと予想しています。彼らの会談の大部分が、最終的にどこに繋がっていくかはまだ決まっていません。
チェベルダヨフは「(レギュラーシーズン全体で)あと300試合ほど残っており、変更を加えるのは難しいね」と語っています。「今すぐには変更しない。いくつかの議論を行い、いくつかの提案を行い、それがどこに行くかを確認していくよ」。
まとめ
上記ケインとマルーンの出場試合は見ていないのですが、ビデオを見たGMの反応から、相当な内容だったと察することはできます。試合前、第三者による防具やスケートのチェックをしていると思うのですが、その時点で何も気づかなかったのか、どうも腑に落ちません。
「いい大人なんだから、自分を律することくらいできるだろ」というのが、セネタースGMの言い分であり、あえてルール成分化の必要はないとの考えなのでしょう。
ならば、現場に立つ審判の権利を拡大し、かつもっとビデオ判定を厳重にやるべき、となるはずですが、これもGM間で意見の食い違いがあり、すんなり行きそうにありません。
スピーディーでスリリングなプレーがNHLの持ち味であり、大きな魅力です。このスポーツが持つ本来の魅力を最大限に活かす方法が、早く見つかることを祈っています。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!