守備も攻撃も極めるフロリダ・パンサーズが強さを発揮する理由とは

アイスホッケー名勝負

はじめに

 フロリダ・パンサーズが今季のスタンレーカップ・ファイナルで見せる強さの秘密は、攻守のバランスと経験にあります。3年前に就任したコーチのもと、攻撃力を保ちながら守備意識を高め、チームの一体感を築き上げました。

 相手にプレッシャーをかけて自由なプレーを許さず、どんな逆境でも冷静に戦う姿勢が勝負強さの源。これからの試合でも彼らの底力が光ること間違いなしです。

参照記事:The Athletic1Panthers’ Game 5 defensive masterclass a reminder of Paul Maurice’s transformative influence

フロリダ・パンサーズが「強い理由」は、派手さじゃない🦁

 フロリダ・パンサーズが今季のスタンレーカップで魅せる姿は、3年前には誰も想像できなかったかもしれません。当時、ポール・モーリスが新たにヘッドコーチに就任した際、それが全員から賞賛されたわけではなかったということは、つい忘れがちです。

 ファンや関係者からの評価は正直「微妙」。というのも、2021-22シーズンのパンサーズはリーグ最多得点でプレジデンツトロフィー2を獲得したばかり。「なんでわざわざ変えるの?」という声があちこちから聞こえていたんです。

 でも、ゼネラルマネージャーのビル・ジトー3には明確なビジョンがありました。チームを「攻撃重視」から「守って勝てる二刀流のチーム」に進化させたかったんです。それも、プレーオフの厳しい舞台で通用する、正しいやり方で勝てるような本物の強さを目指して。

 6月14日・土曜の夜、ロジャーズ・プレイス(オイラーズのホーム)で行われた第5戦は、まさにジトーGMが3年前にコーチ交代を決断した理由を体現し、その進化が証明された試合でした。

 前の試合で3点差を逆転される悔しさを味わった後にも関わらず、今季最大の正念場で見せたのは、完璧な守備の教科書のような内容で高火力のエドモントン・オイラーズを完全に封じ込めたんです。エドモントンにはほとんど自由に使えるスペースがなく、パンサーズが彼らを窒息させました。

この映像、あっちこっちで見かけますね。この人、何で両チームのジャージを持っていたんだろ?

 今回、リーグで最も試合を締めくくる力のあるチームが、3点リードをしっかり守り切ったのです。

 「プレッシャーのかけ方が良かったし、フォアチェックでもうまくD(ディフェンス)にプレッシャーをかけられた。主力選手のチャンスを抑えるのにも成功したし、だいたい外側に追いやることができた」と、プレーオフ15点目を記録したセンターのサム・ベネットは試合後に語りました。

 GMからすれば、「これがあるからモーリスを選んだ」と言わんばかりの内容。「彼がコーチとしてどれほど素晴らしいか、言い尽くせない」と、オイラーズに5-2で勝利し、シリーズを3勝2敗とリードした後、ジトーはThe Athleticに語りました。

 「彼が来た当初、多くの人に非難されたんだ。誰に非難されたか聞いたら驚くと思うよ。彼が最初に言ったことの一つが、”時間がかかるだろうし、我慢が必要だ”ということだった」。

 「彼は戦術にも優れ、モチベーターとしても卓越している。人間としても立派だ。選手たちは彼をがっかりさせたくないと思っている。だからこそ、教えられたことを忠実に実行できるんだ」とジトーは続けています。

スタンレーカップ決勝第5戦のハイライト映像です!点差以上にパンサーズの完勝でしょうか。

守備だけじゃない。攻撃も最強クラス🔥

 「守って勝てるチーム」と聞くと、地味で堅実なチームを想像するかもしれません。でも今のパンサーズは、全然そんなことないんです。

 攻守のバランスが取れているどころか、史上最高の守備力に加え、攻撃力も歴代最高レベル。トレード期限で加わったベテラン、ブラッド・マーシャンドが土曜の夜に2ゴールを挙げ、ファイナル通算で6ゴールを決めたことになり、得点王争いのトップを走っています🔥。

 フロリダはプレーオフ中、1試合平均4.05ゴール4という爆発力を誇り、同時に1試合平均失点もわずか2.505。この数字、なんとどちらも全チーム中トップ🥇まさに攻守両面で最強の「二刀流」チームなんです。

 これらすべてが、このチームの本質的な本能に基づくものです。決してセルケ・トロフィー6常連のアレクサンダー・バーコフだけの話ではありません。4つのフォワードラインすべてが、守備も攻撃も全力で取り組むという信念を共有しています。

 そんな中で中心となっているのが、サム・ラインハートやサム・ベネットら、攻守両面でチームを支える選手たち。ベネットは「全ラインがどんな状況でも出せるっていうのは大きい。それがリンクを広く使えて、みんながフレッシュなまま戦える理由」と語っていました。

 「攻守両面でパックを支え合って動けているときが、僕らのベストの状態だと思う」と、プレーオフ7点目を決めたスター選手のサム・ラインハートは言います。「相手の時間とスペースを奪い、できるだけ不快にさせる。そこが僕たちの狙いなんだ」。

変化には時間がかかった。でも、それが力になった⏳

 今でこそ完成されたように見えるパンサーズですが、ここまでの道のりは決して平坦じゃありませんでした。モーリスが就任してすぐの2022-23シーズン7、チームは苦戦し、なんとかプレーオフ出場を決めるのがやっと。多くの人が「あれだけの得点力があったのに、どうして?」と思っていた頃です。

 もちろん怪我もありましたが、それ以上に大きかったのは、チームのプレースタイルを彼が大きく変えようとしていたことで、それが選手たちに自然に浸透するまでに時間がかかったのです。

 「2021-22シーズンには337得点を記録した攻撃型チーム」と「プレーオフで勝つための守備重視スタイル」。この2つの融合は、思った以上に時間がかかりました⏳。それが今やここまでの変貌を遂げたのは驚異的と言っていいでしょう。

 そして、注目すべきは彼らのプレーには「ズル」が一切ないということ。ごまかさず、全員が全力でディフェンスにも戻ります。これができるからこそ、強い攻撃も活きてくるんですね。

 「確実にチーム全体の意識が変わった。全員がそれに賛同している。僕らが最高の守備をしているとき、むしろパックを持つ時間が増えているように感じるよ」とラインハートは語りました。

 もちろんモーリス本人は、こうした成功を自分の手柄にするつもりは一切ありません。どれだけ聞かれても、手柄を誇ろうとしないのです。だが、土曜の試合後、彼が就任当初のことをどう思い返しているか尋ねてみました。

 モーリス本人も「当時、我々はアイデンティティの確立に近づいていたが、それは本当に難しいことだった。…予想以上に時間がかかったと思う。たぶん、前年に挙げた337得点という攻撃力を残しながら、それを新しいスタイルと融合させようとしていたからだ。謙遜しているわけじゃない。すべては選手たちの闘志によるものだよ」と語ります。

 実際、キャプテンのバーコフがセルケ賞を受賞するほど、チーム全体に守備意識が根付いています。

 そして、氷上での変革が始まった3年前、同時にチームカルチャーの変化も始まりました。プレーオフを重ねるたびに、パンサーズはより団結し、より自信をつけていきました。いまやロッカールームには「絶対に勝てる」という空気が満ちているんです。近くにいれば、誰でもそれを感じ取れます。

 ちなみにモーリスは、来季から発効する5年契約の延長をすでに結んでいます。

讃岐猫
讃岐猫

勝負強さの秘密は経験と自信💪

 こうしたすべての理由から、土曜の夜にパンサーズが大一番で結果を出したことは、決して偶然ではありません。

 パンサーズは「ロード・ウォリアーズ(敵地の戦士)」、つまりアウェーでの戦いに強いチーム。今季のプレーオフでは敵地10勝8でNHL記録に並び、モーリス監督となった2023年のプレーオフ以降、25勝11敗という驚異的な成績を残しています。

 土曜の朝、パンサーズの任意参加の練習現場は、まるで楽しげな雰囲気そのものでした。2日前に3点差リードをひっくり返されるような出来事があったとは思えないほど、選手たちはリラックスしていたんです。唯一足りなかったのは、タバコを吸いながらリンクを歩く選手くらいでした。

 ほかのチームなら、あの逆転劇が尾を引いてしまうかもしれません。しかも、あれほど短い中2日であればなおさらです。けれどパンサーズには「パニック」の2文字はない。過去3年間のプレーオフ経験が積み重なり、どんな状況でも冷静に対応できる力が備わっています💪。土曜の朝、彼らはシリーズの状況について、まるで心配する様子はありませんでした。

 「過去3年間の経験がすべて」と語るのはセンターのベネット。彼は「それに、このチームの才能と層の厚さも知っているし、互いに信頼を寄せている。特定の選手だけに頼っているわけじゃない。4つのライン・6人のディフェンスに素晴らしいゴールキーパーがいるからね。

 この部屋(ロッカールーム)にいる全員が、絶対的な自信を持っているんだ」とチーム力を強調しました。

 このチームを作り上げたGMのジトーも「彼らが落ち着いていられるのは、日々の努力と準備ができている証拠」と話しています。

 思い出されるのは、第2ラウンドでトロント・メープルリーフスに2連敗を喫した夜、パンサーズのベテランDFアーロン・エクブラッドの言葉でした。

 「この状況に対処する準備はできている。ベテランのリーダーシップがあるからね」とエクブラッドは語りました。「こういう場面を経験してきた選手が多い。だから心配はしていないよ。これはプレーオフ・ホッケーだ。相手がホームで2勝しただけ、それが何だって言うんだ?」。

 “それが何だ”

 この言葉は、シリーズ全体で心に残るものでした。そして、パンサーズはその後5試合中4勝してリーフスを下しています。シリーズ0勝2敗の時点で「それが何だ」と言えるチームが他にあるでしょうか?

 だからこそ、このチームはどんな逆境でも動じず、最終的には勝ち切る強さがあるんです。

記事中の“それが何だ”発言の映像は見つけられませんでしたが、「いろんな状況を経験してきた選手が多いから、こういう状況でも落ち着いてやれる」とは言ってます。

シリーズはまだ終わらない。パンサーズの底力は計り知れない🔥

 今回のシリーズはまだまだ決着がついていません。

 前の試合での大逆転劇は、オイラーズにとってはまさに「歴史的カムバック」でした。多くの人が、これでパンサーズの自信も少しは揺らぐだろうと予想したはず。でも、実際はまったく逆。パンサーズは動じることなく、冷静に次の試合に向けて準備を進めています。

 そして、もしもオイラーズがホームで第6戦を制し、みんなが予想していた第7戦にもつれ込んだとしても――パンサーズは全く焦らないでしょう。なぜなら彼らは、これまであらゆる経験を積み重ね、どんな状況にも対応できる準備ができているからです。

まとめ

 パンサーズの強さは、一夜にしてできたものではありません。時間をかけて攻守両面のスタイルを磨き、選手たちの自信と結束力が日々深まっています。逆境にも動じず、どんな舞台でも力を発揮する彼らの姿は、まさに真のチャンピオンの証。このシリーズ、最後の最後まで目が離せませんね🔥

讃岐猫
讃岐猫

【註釈】

  1. ニューヨーク・タイムズ・カンパニー傘下の定期購読制スポーツ専門ウェブサイト。2016年に設立され、「熱狂的なファンのためのよりスマートな報道」を掲げている。

     その最大の特徴は、広告なしで、各チームやリーグに専任の記者が深く掘り下げた記事を提供するところにある。単なる速報ではなく、戦術分析、移籍情報、選手の裏側など、質の高い長編ジャーナリズムに特化している。

     北米主要スポーツからサッカーまで幅広いジャンルをカバーしており、有料会員のみが全文を閲覧できる。スポーツの深層を求めるファンにとって、専門的で読み応えのあるコンテンツが魅力である。
    ↩︎
  2. NHLのレギュラーシーズンで最も多くの勝ち点を獲得したチームに贈られる賞。このトロフィーを獲得したチームは、スタンレーカッププレーオフにおいて、全ラウンドでホームアイスアドバンテージを得られる特典がある。

     しかし、この賞には「プレジデンツトロフィーの呪い」というジンクスがあり、獲得チームが必ずしもスタンレーカップを制覇できるわけではない。実際、過去にはレギュラーシーズンで好成績を収めながらも、プレーオフで敗退するケースが多く見られた。
    ↩︎
  3. フロリダ・パンサーズのホッケー運営部門プレジデント兼ゼネラルマネージャー(GM)。2020年9月にGMに就任して以来、パンサーズをクラブ初のスタンレーカップ優勝(2023-24シーズン)と2度のスタンレーカップ決勝進出に導いた。

     彼の在任中、パンサーズは史上初のプレジデンツトロフィー(2021-22シーズン)も獲得し、GM就任以来すべてのシーズンでプレーオフに進出している。GMオブザイヤー賞の最終候補に4シーズン中3回選出されるなど、NHLで高く評価されるホッケーエグゼクティブである。マシュー・カチャックをはじめとする重要な選手の獲得でチームを強化したことで知られる。
    ↩︎
  4. 22試合を終えて、当然のことながら89ゴールも断然トップ。平均得点2位はロスアンゼルス・キングスの4.00だが、6試合で24得点の結果である。しかも、キングスは27失点しており、守備にかなりの不安があったと言える。ちなみに、オイラーズは21試合で81ゴール、平均3.86。
    ↩︎
  5. パンサーズの失点は55、オイラーズは68となっており、ここも両チームの差となっているのかもしれない。平均失点2位はカロライナ・ハリケーンズで、15試合で39失点で2.60。二桁以上の試合数をこなしたチームで、最も失点の少ないのはワシントン・キャピタルズで、10試合で27失点。
    ↩︎
  6. NHLのレギュラーシーズンにおいて、守備的側面に最も優れたフォワードに贈られる賞。1977-78シーズンに創設され、リーグのホッケーライター協会メンバーの投票によって選出される。

     この賞は、単なる得点能力だけでなく、相手のエースを抑え込む能力、フェイスオフ勝率、ペナルティキルでの貢献、パックリカバリー、堅実なポジショニングなど、フォワードの守備面での多大な貢献を評価対象とする。攻守兼備の選手が受賞することが多い。フォワードの守備的な重要性を示すトロフィー。
    ↩︎
  7. 2022年、GMビル・ジトーは暫定HCアンドリュー・ブルネットに代わりポール・モーリスをヘッドコーチに招聘。同年オフには、ハート記念トロフィー候補だったジョナサン・フーバードーらをカルガリー・フレームスへ放出し、NHL史上初のサイン・アンド・トレードでマシュー・カチャックを獲得した。

     当時カチャックは制限付きフリーエージェントで、新契約を結んだにも関わらずトレードされることに。この大胆な動きは、その後のパンサーズの躍進を決定づけるものとなる。

     怪我に苦しんだ2022-23シーズン、チームは一時プレーオフ圏外に沈むも、スターセンターのアレクサンダー・バーコフ復帰と共に勢いを取り戻し、最終的にワイルドカードでプレーオフに進出。

     第1ラウンドでは、記録的な強さを見せたボストン・ブルーインズに対し、1勝3敗からの大逆転劇を演じ、激闘の末、第7戦延長で勝利した。この勢いのまま、第2ラウンドでトロント・メープルリーフスを破り、カンファレンス決勝ではカロライナ・ハリケーンズをスイープ。

     フランチャイズ史上初のプレーオフシリーズ・スイープを達成し、スタンレーカップ決勝へと駒を進めた。しかし、決勝ではベガス・ゴールデンナイツに5試合で敗れ、惜しくも優勝は逃している。
    ↩︎
  8. 現在までに、パンサーズ以外、以下のチームが達成している。
    ニュージャージー・デビルス(1994-95)
    ロサンゼルス・キングス(2011-12)
    ニュージャージー・デビルス(1999-2000)
    ワシントン・キャピタルズ(2017-18)
    カルガリー・フレームス(2003-04)
    セントルイス・ブルース(2018-19) ↩︎
タイトルとURLをコピーしました