シアトル・クラーケンの2021年NHL拡張ドラフトを再検討する。

NHLチーム紹介

はじめに 

 ユタに新チームができるのかどうか、アイスホッケー・ファン、NHLファンをヤキモキさせましたが、結局、新アリーナ問題が燻り続けていたアリゾナ・コヨーテズ移転で、あっさりケリが付いてしまいました。補強にお金をバンバン使いそうなオーナー、どう動くか。 

 3年前、32番目のチームとしてシアトル・クラーケンが誕生しました。その際に拡張ドラフトで既存の31チームから欲しい選手を指名できるのですが、各チーム、「プロテクト・リスト」に載せる・載せないで相当議論したのは想像に難くありません。 

 今回は、クラーケンに選手を出した後、「あっ、しまった」と思っただろうチームをピックアップし、そのチームと選手が「ドラフト後」どうなったか、「幸運にもクラーケンに指名された」選手達がどうなったか、を再検討していきます。 

讃岐猫
讃岐猫

 引用元:The Hockey News.com「Re-Examining the Protected Lists for the Seattle Kraken’s 2021 NHL Expansion Draft

「32番目の新チーム」に良い思いをさせない!

 ベガス・ゴールデンナイツが2017年の拡張ドラフト1で、最初のシーズンでスタンレーカップの決勝進出を果たした後、NHLのGMたちは、4年後にシアトルで最初のロスターを集めた際、より賢く(ずる賢く?)なることを誓いました。

 正式なトレードや裏取引は(ベガスの時と比べて)少なくなりました。そして、クラーケンはある程度の成功を収めていますが、4年目に向けて、彼らはまだフランチャイズとしての足場を固めようとしています。

 しかし、(GMの)ロン・フランシスが拡張ドラフトの機会を無駄にしたわけではありません。彼はさまざまな優先順位を設定し、クラーケンの拡張ドラフト指名選手の何人かは、氷の上でも外でもシアトルのチームの中心的存在へと進化しました。

 結果を見てから指摘するのは簡単ではあるのですが、拡張ドラフトで指名する選手を選ぶ際、強烈にドラフトやり直しを望んでいるかもしれない4つのチームをご紹介します。

 プロテクトされ、またそれから外された全選手のリストは、こちらで見ることができます。

 注意点として、(NHL31)クラブはフォワード7人、ディフェンス3人、ゴールキーパー1人、またはゴールキーパー1人、フォワードとディフェンスの組み合わせでスケーター8人のいずれかをプロテクトすることが認められていました。

策に溺れたペンギンズ?

ピッツバーグ・ペンギンズ:ブランドン・タネフ(FW)〈とジャレッド・マッキャン(FW)〉

 フロリダのデイル・タロンGMは、パンサーズからの好意として、プロテクトから外された他の選手ではなく、(プロテクトされていた)マルケソーを(ベガスが)選ぶことに同意し、

さらにスミスとドラフト4巡目指名権をベガスにトレードし、スミスの500万ドルのキャップヒットから解放されています。

 2021年、ロン・ヘクストールが(ペンギンズ)GMに就任して4カ月が経過し、ミドルシックス(トップ&セカンド・ラインに入らない、中間クラス)のフォワードの層が厚くなっていたピッツバーグ・ペンギンズを、クラーケンは餌食にしました。

 ジャレッド・マッキャンをプロテクト外にしておくとシアトルに狙われるかもしれないと考えたヘクストールは、彼を無駄に失うよりはと、トロントへのトレードを選択しています。

 そのお返しに「2枚」がペンギンズに送られてきました。若手フォワードのフィリップ・ハランダーは、拡張ドラフトによるプロテクションなど関係なかったのです。その後の2シーズン、ペンギンズでわずかNHL3試合しか出場せず、その後母国スウェーデンに戻っていきました。

 (もう1枚のお返しである)2023年の7巡目指名は、今、フィンランドでプレーしている19歳のエミール・ヤルヴェンティに使われています。

 その後、リーフスはマッキャンのプロテクトを外して放置し、アレクサンダー・カーフットがシアトルに選ばれるのを防ぎました。

 カーフットはその後2年間トロントで過ごした後、アリゾナとフリーエージェントとして契約しています。彼は主にウィングでプレーした162試合で83ポイントと堅実な成績を収めており、彼をプロテクトする価値がありました。

 しかし、マッキャンはシアトルに着くとすぐにブレイクしています。これまでクラーケンの3シーズンすべてで、彼は(チームの)ゴール数をリードしてきました。2022-23シーズン、彼の70ポイントは、フランチャイズ史上最高の成績です。

 そして、シアトルでの233試合で96ゴール、182ポイントを記録した彼は、ゴール、ポイント、パワープレーのゴールとポイントでフランチャイズ・リーダーとなりました。

 過去3年間、より多くポイント獲得数を伸ばしたペンギンズの選手は、シドニー・クロスビー、ジェイク・ゲンツェル、エフゲニー・マルキンだけです。

 同じくポイント数を増やしたのは、メープルリーフスの選手で言えば、マシューズ、マーナー、ナイランダー、タバレスだけです。

 マッキャンは28歳になったばかりで、この先もまだまだ可能性があります。ペンギンズは今、ロスターにそのような選手を必要としています。

 -もしピッツバーグがカスペリ・カパネン(現在、セントルイス・ブルース所属の右ウィング。試合出場数はまあまあ)をプロテクト外選手にしていたら、マッキャンはプロテクトされていたかもしれません。

19番に注目!すっかりスター選手です。

ペンギンズからもう一人いい選手を獲っちゃった!

 さらに、マッキャンがピッツバーグのプロテクト外選手リストになかったため、クラーケンは短縮された2020-21シーズン、怪我で24試合を欠場していたブランドン・タネフを指名しました。

 シアトルでの初年度は、前十字靭帯の断裂によりわずか30試合の出場にとどまっていますが、彼はすぐに「幽霊を見た」時の顔写真2と、彼のかなり積極的にどんどん前へ突き進むプレー・スタイルで、すぐに新たな多くのファンを魅了しました。

 タネフは、フォワードのヒット数(守備で相手選手に接触するプレー数)でシアトルのフランチャイズ・リーダーです。

 そして、クライメート・プレッジ・アリーナ(クラーケンのホーム)での試合を観戦すると、彼のジャージがスタンドのファンの間で人気があることがわかるでしょう。

顔写真だけで、客を呼べる男。日本でも人気出そうなタイプ。
讃岐猫
讃岐猫

年齢で線引きしてしまったブルースの失敗

セントルイス・ブルース:ヴィンス・ダン(DF)

 セントルイス・ブルースは、24歳のヴィンス・ダンをプロテクトから外した反面、ブルーラインの選手でトーリー・クリュッグ(30)、ジャスティン・フォーク(29)、コルトン・パライコ(28)をプロテクトする方を選んだとき、

もう少し若い選手を残そうか、と考えることができたかもしれません。

 おそらくダグ・アームストロング(ブルースGM)は、クラーケンがウラジミール・タラセンコを見過ごさないだろうと予想していたのでしょう。彼は当時、30ゴールを5回記録し、残り2年で750万ドルのキャップヒットを記録していました。

 2015年に2巡目で指名されたダンは、NHLで4シーズンを過ごし、2020-21シーズンには1試合あたり3分もアイスタイムが跳ね上がっています。特にオフェンス面での彼は、より大きなことを成し遂げようとしているように見えたし、ポゼッションの数字もまずまずでした。

 シアトルでの2年目に、彼は飛躍したのです。

 ダンはアイスタイムとプラス・マイナス評価(プラス28)でチームをリードし、50アシストでフランチャイズ記録を樹立し、64ポイントを獲得しました。

 彼はシアトルのプレーオフ初出場とその後のコロラド・アバランチ戦の番狂わせ(第1ラウンド、4勝3敗でシアトルの勝利)に大きく貢献し、そして現在、あと3年、735万ドルで契約しています。

1年前の映像ですが、期待の選手として名前を挙げられています。

大ダコの守備陣になくてはならない大男

ダラス・スターズ:ジェイミー・オレクシアック(DF)

 6フィート7インチ(約2メートル)のオレクシアックは、その大きな体に慣れるまでに時間が必要でした。

 2019年に2年間の「遠征(2017-19の2年間、ペンギンズに移籍)」でダラスに戻ると、彼はブルーラインのレギュラー・ローテーションの一角を占めるようになったのです。

 拡張ドラフトが2021年に行われたとき、スターズがビッグ・リグ(大型トレーラー、オレクシアックのこと)よりもパワープレーのエース、ジョン・クリングバーグをプロテクトしたのは驚くべきことではありませんでした。

 しかし、後から考えると、オレクシアックの方がより良い選択だったかもしれません。

 クリングバーグはあと1年在籍しただけで、長期契約の折り合いがつかず、UFA (無制限FA)として退団しました。怪我の問題もあって、彼のプレーの将来は疑問視されています(トロント・メープリーフスから無制限FAで放出され、現在、フリー)。

 一方、オレクシアックはクラーケンのバックエンド(ディフェンス・ライン)で安定した役割を果たし、フィジカルなプレーで存在感を発揮し、得点にも絡み、キャップヒットは460万ドルという余裕のある額となっています。

 もしスターズがオレクシアックを引き留めていたら、オレクシアックが町を去った1ヶ月後、ミネソタ・ワイルドから買収したライアン・スーターと4年契約を結ぶ可能性も低くなっていたかもしれません。

 2024年6月28日、ダラスはスーターの契約最終年を買い取りました(契約最終年を残したまま、セントルイス・ブルースへ移籍。つまり、チームにいない選手にサラリーを払う羽目に)。

地元でホッケー教室やってます。

7巡目指名の無名GKが今や先発の座に!

オタワ・セネタース:ジョーイ・ダコード(GK)

 2021年、オタワ・セネタースがプロテクト・リストを発表したとき、マット・マレーの名前が載っていなかったことが大きなニュースでした。わずか1年前に、ピッツバーグからマレーを獲得し、良い条件の4年契約を結んでいたからです(現在、メープルリーフス所属)。

 GMのピエール・ドリオンは、2019-20シーズン、ゴールキーパーの保護枠を、スウェーデンから復帰していたフィリップ・グスタフソン(SHLのルレオHFに2017-18シーズンまで在籍)に使うことを選択しました。

 2020-21シーズン、グスタフソンはNHLの最初のシーズンで9試合に出場し、5勝1敗2延長負けを記録し、センス(セネタースの愛称)の未来を支えるゴールキーパーと期待されたのです。

 しかし、(シアトルGM)フランシスは、価値の高いマレーや、オタワがプロテクトせずに残していた他の選手を狙うのではなく、ジョーイ・ダコード(2015年のオタワの7巡目指名選手で、NHLでの9試合の出場で1勝4敗1延長負け、セーブ率.894)に決めました。

 それから3年が経ち、そしてダコードは、27歳にしてシアトルの先発GKの座に上り詰めたのです。

 気さくなボストン出身の彼は、昨シーズン、NHLで50試合に出場し、セーブ率.916を記録し、フィリップ・グラバウアー(コロラド・アバランチから獲得、36試合出場)を圧倒しました。

 一方、2021-22シーズン、グスタフソンは一気にマイナーに戻ってしまいます。カナダの首都(オタワ)で1年プレーした後、彼はキャム・タルボットとの交換でミネソタに移籍し、フリーエージェントとしてロサンゼルスに移籍しました。

 ミネソタではグスタフソンは先発でしたが、オタワではダコードの方がうまくいったかもしれません。

ウィンター・クラシックでの完封劇は圧巻!

 ホッケー・ニュースのオタワ・セネタース・サイト編集者スティーブ・ウォーンが5月に述べたように、3セネタースはローガン・ブラウン、コリン・ホワイト、ニキータ・ザイツェフ、オースティン・ワトソン、ビクター・メテもプロテクトしました。

 彼ら全員、誰も今セネタースに所属しておらず、ザイツェフは昨シーズン、NHLで最も多くの試合(38)に出場しています。

まとめ

 シアトル・クラーケンのGMに先見の明があったのか、拡張ドラフトされるチームの人選ミスだったのかは、今となっては何とも言えません。各チームから集まった選手達が奇跡的な化学反応を起こし、飛躍的に能力を開花させたのかもしれませんし。

 ベガス・ゴールデンナイツの時と比べると、クラーケンの初年度メンバーが見劣りしていたのは確かです。しかし、22-23シーズンにプレーオフ出場を果たし、23-24シーズンもほんのわずかでしたが、逆転プレーオフ進出の可能性を感じさせる時期もありました。

 新監督ダン・ビルスマは、ピッツバーグ・ペンギンズでスタンレーカップを獲得し(08-09)、以降も退任するまで6シーズン連続プレーオフ進出を成し遂げた凄腕です。フロントとの対立グセもあるのですが、それだけ熱い人。期待していいのではないでしょうか。

讃岐猫
讃岐猫

【註釈】

  1. プロスポーツにおいて、球団増設が行われた場合、新規参入チームにおける戦力確保のために行う既存チーム所属選手の分配システム。
    ↩︎
  2. 2020-21シーズン、ロスター用の写真で、一点を見つめ、目を見開いたような表情のものが使われている。タネフの話によると、実際に、写真家の後ろを歩いている幽霊を見つけたことに反応したから、あのような表情になったと語っている。

     以来、それが彼の「売り」となり、写真撮影のたびに同じ表情をするようになり、近年、ますます土を超した表情?をするようになった。
    ↩︎
  3. ウォーン自身のX上で、セネタースがローガン・ブラウン(現在無所属)をはじめとする5選手をプロテクトしたことを思い返し、「いまだに信じがたい」と述べたことによるもの。

     ニキータ・ザイツェフ(現在、シカゴ・ブラックホークス所属)以外、全員、現在無所属。 ↩︎
タイトルとURLをコピーしました