はじめに
ウィニペグ・ジェッツが保有する「全体8位指名権」の活用法について、チームの未来を占う岐路を考察した前編記事『【前編】全体8位指名権が握るジェッツの未来:ウィニペグの岐路』。
続くこの後編では、PuckPediaのデータを基に昨夏のドラフト前後に行われた具体的なトレード事例を参照しながら、ジェッツが取るべき具体的な選択肢をさらに深掘りしていきます。
全体8位という貴重なアセットを使い、他チームとどのように渡り合うべきか、市場の動向と分析モデルから現実的なシナリオを徹底的に検証します。🏒
参照記事:The Athletic「Should the Winnipeg Jets trade the No. 8 pick in the NHL Draft?」
市場に学ぶトレード戦略――ドラフト指名権が動いた6つの最新事例
ウィニペグ・ジェッツが保有する全体8位指名権の価値を正確に測るため、PuckPediaのデータを参照し、昨夏のドラフト前後に行われた1巡目指名権が絡む6つのトレード事例を振り返ります。🔄
まず、高順位指名権をトレードに出し、複数の指名権を獲得したトレードは4件あります。カロライナは2025年全体29位指名権をシカゴへ放出し、全体34位、62位、2027年5巡目指名権を獲得。
ロサンゼルスは2025年全体24位指名権をピッツバーグへ放出し、全体31位と59位指名権を得ました。オタワは2025年全体21位指名権をナッシュビルへ放出し、全体23位と67位指名権を獲得。
そしてピッツバーグは2025年全体12位指名権をフィラデルフィアへ放出し、全体22位と31位指名権という2本の1巡目アセットを得ています。
次に、指名権を即戦力へ昇華させた大型トレードが2件あります。モントリオールは左ウイングのエミル・ハイネマン、さらに2025年全体16位と17位指名権をアイランダーズへ送り、ノア・ドブソンを獲得しました。
もう一方はカロライナの事例で、彼らはダラス経由の2026年1巡目と2巡目指名権、そしてディフェンスのスコット・モローをレンジャーズへ放出し、ケアンドレ・ミラーを獲得しています。これらの戦績やポイントに直結する市場の最新動向は、今後のジェッツの補強戦略において非常に重要な判断材料となります。
モントリオールのドブソン獲得に学ぶ、既存ロスター「超強化」の青写真
既存ロスターの強化という観点でウィニペグが参考にするならば、最も示唆に富むのはモントリオールによるノア・ドブソン獲得の事例でしょう。
ドブソンは大型の右打ちディフェンスで、25歳にしてニューヨークでNo.1ディフェンス役を担いながら、攻守にわたって圧倒的なポイントを積み上げていた超一級品のスター選手です。しかしアイランダーズは全体1位指名権を保持しており、期待の星であるマシュー・シェーファーの指名を見据えていました。
そのため、彼らはドブソンとAAV950万ドルの8年契約という大型契約を結んだうえで、モントリオールへトレードで放出したのです。
分析モデル上では、平均的なドラフト年における全体16位と17位指名権の価値は、全体8位指名権をわずかに上回る程度とされています。
この価値の差はドブソンの契約残り年数によっておおむね相殺されますが、トレード成立のためにカナディアンズは2020年全体43位指名のプロスペクトであるフォワード、エミール・ハイネマンもパッケージに加えました。
これを現在のジェッツに当てはめるなら、2021年2巡目指名のニキータ・チブリコフよりは評価が上、しかし2022年2巡目指名のエリアス・サロモンソンほどではない位置づけのプロスペクトを差し出すイメージになります。
【讃岐猫😻の深掘りコラム】舞台裏の打算と世代交代――ノア・ドブソン移籍が示す狂気のマーケット力学
昨夏のドラフト初日である2025年6月27日、モントリオール・カナディアンズとニューヨーク・アイランダーズの間で成立したノア・ドブソンのサイン・アンド・トレードは、近年のNHLにおけるアセット管理の極致を示す一大事件であった。
25歳にしてアイランダーズの絶対的トップディフェンスを担い、直近の2023-24シーズンには70ポイント(60アシスト)というフランチャイズ史上屈指のスタッツを残した大物をなぜ放出せざるを得なかったのか。
その舞台裏には、単なるサラリーキャップの問題を超えた、アイランダーズの「奇跡的な指名権」と「次世代への世代交代」の冷徹な計算が存在していた。
最大の引き金となったのは、アイランダーズが2025年のドラフトロットレーで9つ順位を上げて全体1位指名権を引き当てたことである。これにより彼らは、世代屈指の大型ディフェンス候補であるマシュー・シェーファーの獲得を確実なものとした。
ドブソンは制限付きフリーエージェント(RFA)を控えていたが、長期契約交渉においてアイランダーズとの金額面の溝は埋まらず、他チームからの最大7年のオファーシート(引き抜き工作)のリスクに晒されていた。
全体1位のシェーファーを手中に収めたアイランダーズのGM、ルー・ラモリエロは、ドブソンに上限である8年総額7600万ドル(AAV950万ドル)の契約を結ばせた上で、即座にモントリオールへとトレードする「サイン・アンド・トレード」を実行に移したのである。
見返りとしてアイランダーズが獲得した2025年全体16位(ビクター・エクルンドを指名)と全体17位(カショーン・エイトチェソンを指名)の指名権、そして即戦力FWエミール・ハイネマンというパッケージは、結果として両チームに極めて興味深い変革をもたらした。
アイランダーズはドブソンを失ったものの、新星シェーファーがルーキーながら瞬く間に台頭し、サラリーキャップの圧迫を回避しつつディフェンス陣の再構築に成功している。
一方、モントリオールに移籍したドブソンは、チームが誇る新鋭レーン・ハトソンがすでにパワープレーの主軸に君臨していたため、アイランダーズ時代とは異なりペナルティキル(数的不利の守備)など守備面での重責を担うという新たな役割に直面した。
今季(2025-26シーズン)はレギュラーシーズン終盤に大きな負傷に見舞われ、プレーオフの開幕を欠場する不運もあったが、2026年5月3日のタンパベイ・ライトニングとのプレーオフ第7戦という大一番で劇的な戦線復帰を果たしている。
このトレードは、一見すると超一級品のスターを手放したアイランダーズの損失に見えるが、2026年5月現在の視点で見れば、次世代の才能を軸としたリツールを成功させるための実に見事な「売り時」のマネジメントであったと断定できる。
出典:
NHL.com, “Dobson traded to Canadiens by Islanders, signs 8-year contract“, June 27, 2025,
NHL.com, “Schaefer selected No. 1 by Islanders at 2025 NHL Draft“, June 27, 2025,
Wikipedia, “Noah Dobson“,
移籍決定後、ノア・ドブソンがモントリオール到着時に作成された映像から。決定時、ファンが大喜びする映像もアップされており、彼がどれだけ期待されていたか分かる。
ジェッツが狙うべきRFAスター達――ロバートソン獲得はホームラン級の一手か
では、ウィニペグはそのようなパッケージを用いることで、具体的にどのような実力派選手を狙うことができるのでしょうか?今夏の20代半ばのRFA(制限付きフリーエージェント)市場を見渡したとき、非常に興味深い若きスター選手たちが補強候補として浮かび上がってきます。
なかでもジェイソン・ロバートソンは、このグループの中で最も先述の“ドブソン型”に近い補強となる存在と言えるでしょう。今年の選手ティア・プロジェクトにおけるデータ分析でもドブソン以上の高評価を獲得していた、正真正銘のトップスター選手です。
もしウィニペグが自軍の全体8位指名権とコール・パーフェッティを対価として提示し、ダラスと8年契約を結んだロバートソンを獲得できるのであれば、それはジェッツにとって歴史的なホームラン級の一手になると私は確信しています。
もしロバートソンではなく、トレバー・ゼグラス(フィラデルフィア・フライヤーズ)やブラント・クラーク(ロサンゼルス・キングス)をターゲットとして狙うのであれば、ハイネマンより価値が高いと私が見ているパーフェッティ側の条件を多少軽くすることができるはずです。
この評価額はモントリオールが成立させたトレード事例とも見事に整合し、高度な分析モデルにも合致するものです。しかしながら、この種の大型トレードは市場でも極めて稀なケースです。
ミラー獲得に見るNo.2ディフェンスの市場価値とジェッツの交渉力
また、7月1日にカロライナが行ったケアンドレ・ミラー獲得の動向も、今後の戦略において大いに議論に値する重要なケースです。ハリケーンズは、レンジャーズでアダム・フォックスに次ぐ実質的なNo.2ディフェンスとして貢献していた、25歳の大型左打ちディフェンスをチームに加えました。
フォックスがトップパワープレーを担っていた影響もあり、ミラーの得点実績や累積ポイントはドブソンほど派手な数値ではありません。そしてカロライナ移籍後も、彼はトップパワープレー起用を任されていませんでした。
フライヤーズはケアンドレ・ミラーにやられた。抜群の身体能力で背後から追いつき、瞬時にパックを奪っていく。レンジャーズにいる頃と比べたら、全然格が上がってます。
それでもハリケーンズは、キャリア全盛期にあるNo.2ディフェンスを8年契約という長期で確保するために、2021年全体40位指名のディフェンスのスコット・モローに加え、後半の1巡目指名権と2巡目指名権を支払ったのです。
【讃岐猫😻の深掘りコラム】成功への変貌と称賛の嵐――ケアンドレ・ミラー獲得がもたらしたハリケーンズの「劇的進化」
昨夏の移籍市場を大きく震撼させたニューヨーク・レンジャーズとカロライナ・ハリケーンズによるケアンドレ・ミラーのサイン・アンド・トレードは、2026年5月中旬現在、北米ホッケーメディアや評論家の間で「カロライナによる完全な大勝利トレード」として評価が完全に確定している。
移籍当初は、アダム・フォックスの影に隠れてトップパワープレーでの実績に乏しかった25歳の大型左打ちディフェンスに対し、8年総額6千万ドル(AAV750万ドル)という巨額の長期契約を確約したハリケーンズの判断を疑問視する声も一部に存在していた。
しかし、レギュラーシーズンでの見事な適応を経て、現在まさに進行中である2026年スタンレーカップ・プレーオフでの圧倒的なパフォーマンスは、そうした懐疑論を完全に粉砕するに至っている。
ハリケーンズのヘッドコーチであるロッド・ブリンダモアが「我々がまさに探し求めていたタイプの選手」と称賛した通り、ミラーはカロライナの標榜する激しいプレッシングスタイルに完璧にフィットした。
レギュラーシーズンでは派手な攻撃指標こそ目立たなかったものの、チームの強固な守備システムを支えながら37ポイントを記録し、実質的なトップペアとしての重責を全うしたのである。彼の真価が真の意味で爆発したのはプレーオフの舞台であった。
チームが開幕から8勝0敗と怒涛の進撃を続ける中、ミラーはフィラデルフィア・フライヤーズとのイースタン・カンファレンス第2ラウンド第4戦でポイントストリークを3試合に伸ばすアシストを記録し、プレーオフ通算で早くも6アシストを積み上げている。
特筆すべきは、彼がハリケーンズのディフェンス陣の中で2位以下に大差をつけるチームトップのポイント稼ぎ頭として君臨し、得点実績の低さというかつての懸念を見事に覆している点である。
マスコミ各社は、ハリケーンズがこの全盛期にあるトップディフェンスを確保するために放出したアセット、すなわちスコット・モローと複数の上位指名権(ダラス・スターズ経由の1巡目指名権を含む)という対価は、現在のミラーの貢献度を考えれば極めて割安な投資であったと断定している。
プライベートでは父親となり、公私ともに充実期を迎えているこの若きディフェンス陣の柱は、パワープレーの起用に依存せずともチームの命運を左右できる真のオールラウンダーへと進化を遂げた。
このトレードは、目先のアセットを惜しまずに全盛期のピースを迎え入れたカロライナのフロント陣の眼力と、強固な育成・戦術思想が結晶化した近年のNHLにおける最高峰の成功例としてホッケー界に記憶されるに違いない。
出典:
NHL.com, “K’Andre Miller traded to Hurricanes by Rangers, signs 8-year, $60 million contract“, July 2, 2025,
The Hockey News, “K’Andre Miller Has Been As Advertised For Carolina Hurricanes“, February 21, 2026,
RotoWire, “K’Andre Miller News: Extends point streak“, May 10, 2026,
NHL.com, “Miller enjoying fatherhood, 1st season with Hurricanes“, May 13, 2026,
ウィニペグの全体8位指名権は、カロライナが使った後半の1巡目指名権よりも明らかに高い市場価値を持っているため、2巡目やモロー相当のプロスペクトといった交換条件は多少減らしてよいでしょう。
ジェッツ視点では、全体8位指名権とアルフォンス・フレイを対価にしてクラーク(あるいはゼグラス)を獲得できればトレード成功だと言えます。ただ、ロサンゼルスやフィラデルフィアがそのどちらかを市場に放出して手放したがっているようには見えないのが実情です。
選択肢としての「トレードダウン」――複数指名権を持つ7チームとの交渉と現実解
では、1巡目圏内に留まりつつ順位を下げるトレードダウンはどうでしょうか。前述の6件中5件はこの戦略で、ジェッツも検討に値します。昨夏にピッツバーグが全体12位を22位と31位へ変えたケースに相当する、複数1巡目を持つチームは以下の7チームです。
カルガリー(全体6位、28位と2巡目35位、36位)、レンジャーズ(5位、27位)、サンノゼ(2位、20位)、シアトル(7位、26位と2巡目38位)、セントルイス(11位、15位)、バンクーバー(3位、24位と2巡目33位、41位)、ワシントン(16位、18位)。
セントルイスやワシントンの2本と全体8位の単純交換ならドムの評価モデルでジェッツの勝利です。バンクーバーから全体24位と33位を得る形もジェッツ有利。カルガリーの全体28位、35位、36位を狙うならジェッツも3巡目(71位)を添える必要があります。
ただ、目的はロスター選手の獲得です。現実的には全体8位+3巡目で、モーガン・フロスト〈カルガリー・フレームズ〉(あるいはマルコ・ロッシ〈バンクーバー・カナックス〉)+上位2巡目を狙う形でしょう。
これではダクソン・ルドルフ(WHL、プリンス・アルバート・レイダーズ)やアルバーツ・スミッツ(ドイツアイスホッケーリーグ、EHCレッドブル・ミュンヘン)らトップディフェンス、タイナン・ローレンス(NCAA、ボストン大学テリアーズ)やヴィゴ・ビョルク(スウェーデン・ホッケーリーグ、ユールゴーデンIF)といったセンターの指名機会を失いますが、トップ40以内を維持しつつ若いセカンドラインセンターを確保できます。
まとめ〜全体8位指名権が握る運命――ジェッツが選択すべき「リツール」への決断
ジェッツにとって全体8位指名権は、選手補填コストを考慮すると他チーム以上に価値ある資産です。ドブソンらの前例が示す通り実戦級ロスターの市場価値は高く、このリツール戦略にはさらなる追加補強も必要となるでしょう。しかし見返り次第でどんな形でも勝者になれるのがトレード市場です。
全体8位という強力なカードを手に、チームの未来を切り拓くジェッツの英断が今こそ問われています。🏒

ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!

