NHLプレーオフの延長試合、舞台裏の選手・スタッフは大変だ!【後編】

アイスホッケー名勝負

はじめに 

 ノリにのっているチームの勢いとは、これほどまでに凄まじいのでしょうか。イースタン・カンファレンス決勝、フロリダ・パンサーズがカロライナ・ハリケーンズを4戦ストレートで降し、全体王者を決めるスタンレーカップ決勝へと駒を進めました。 

 死闘とも言うべき第1戦の長時間にわたる延長戦を乗り越え、どちらがフィジカル&メンタル面での緊張を維持できるかが焦点でしたが、パンサーズの牙は最後まで鋭さを保ったままでした。 

 ハリケーンズも健闘したのですが、シーズン中に見せていたディフェンスの不安を、短期間で修復したパンサーズの復活劇の前に敗れてしまいました。「まさか、ここまで立て直すとは…」が、ハリケーンズの選手達の偽らざる心境でしょう。 

 さて、今回も長時間に及ぶ延長戦の舞台裏についてであり、その【後編】になります(【前編】はこちら→)。チーム・スタッフへのインタビューや、延長戦を経験したOB選手達の体調管理法など、普段、アイスホッケーとあまり馴染みのない日本人にとって、興味深い内容ではないでしょうか。 

讃岐猫
讃岐猫

スポーツ・ドリンクさえ飲んでおけばいいんじゃないの?と思っていた、

オイラが浅はかだったにゃ。いろんな方法を勉強できたぞ!

引用元:NHL.com「Long NHL playoff games can lead to scrambling behind scenes in OT」。

OBの延長戦にまつわる談話(前回の続き) 

 「覚えている限りで、延長戦で20本のシュートは見ていなかったかな、でも、僕もうわの空な状態だったからね。だから、一晩中プレーできそうな気がしたんだ。もう、そこまで行ったら、集中しようなんて考える必要はなくなるよ。 

 次のゴールが、この夜の試合を終わらせるかもしれないし、このプレーオフ・シリーズを止めること以上にやりたいことはなくなるのさ。だから、逆に集中しやすくなるかもしれないね」。 

 「ただ、痙攣を抑え、フィジカルとメンタルのトレーニングが、この瞬間のために準備された重要なポイントであると理解しなければならないね」。 

フライヤーズOBの思い出 

 2000年5月4日、キース・ジョーンズは、イースタン・カンファレンス準決勝・第4戦の5回目の延長戦、フィラデルフィア・フライヤーズがペンギンズを2-1で破ったとき、フライヤーズのフォワードでした。これは3番目に長い試合です(延長戦92分1秒)。 

キース・ジョーンズ=カナダ、オンタリオ州ブラントフォード出身、54歳。現役時代のポジションは右ウィング。現在、フィラデルフィア・フライヤーズのホッケー運営部門社長。 

 現役最後の在籍チームがフライヤーズで、瀕死の重傷を負ったエリック・リンドロスを救ったことで有名。 

 水分補給と食事を維持するために、フライヤーズとペンギンズはやれることなら何でも探していました。ピッツバーグのメロン・アリーナのファンもそうだったようです。 

メロン・アリーナ=正式名称はシビック・アリーナ。ペンシルベニア州ピッツバーグにあった多目的アリーナで、ピッツバーグ・ペンギンズの本拠地として使用されていたが、建物の老朽化等の理由で2010年6月26日に閉鎖。 

 1999年、メロン・フィナンシャル(メロン財閥の金融持株会社)が命名権取得以来、メロン・アリーナと呼ばれる。 

食べる物がない! 

 NHLのターナー・スポーツのテレビ・アナリストで、5月11日にフライヤーズのホッケー事業の社長に就任したジョーンズは先月、「水分補給のために点滴をしている選手もいた」と語りました。 

 「私のように手当たり次第に何でも食べていた人もいたな、ピザとかね。ピッツバーグのアリーナ全体で食料品が底をつき、最終的には何も食べられなくなってしまったよ。その頃には、ファンへのサービスも行き届いていなかったな。 

 ファンには何か出されたのかな?いや、食べ物が手に入らなかったのは間違いないよ」。 

  「氷上にいる間であれ、ベンチにいる間であれ、ピリオドの間であれ、誰もができる限りのことをしていた。 

 次のシフトや次のピリオドに備える準備ができているかどうか、確認していたし、チームメイトも、まるで夢の中にいるような逆境を乗り越えて戦おうとする、正しい精神状態にあったのさ」。 

讃岐猫
讃岐猫

選手のことばかりに目が行っていたけど、

長い延長戦を観ているお客さんのことまで考えていなかったにゃ!

みんな、最後の頃はどんな気持ちだったんだろ…。

パンデミックの頃は… 

 ここ最近の延長戦5試合を見ると、2020年8月11日、イースタン・カンファレンス第1ラウンド・第1戦、タンパベイ・ライトニングがコロンバス・ブルージャケッツを3-2で下しました。これは4番目に長い試合です(延長戦90分27秒)。 

  COVID-19のパンデミックのため、トロントのスコシアバンク・アリーナにて、この試合はバブル(新型コロナウイルス対策で、外部から完全に隔絶された空間や施設のこと)で行われることになっていました。選手たちは厳しい健康管理状態にあり、公衆から隔離された状態でした。 

 ブルージャケッツのヘッド・アスレチック・トレーナーのマイク・フォークトによると、スタッフの準備はできていたと語っています。 

 「どれくらいの期間、留守にするのかわかりませんでした」と彼は先月語りました。「もし、この試練を乗り越えようとするのであれば、それは70日くらいではないかと考えたのです。 

 必要であれば、いつでももっと多くのものを出せるとわかっていましたが、とにかく家にあるものすべて、バブルの中に持ち込もうとしました」。 

ブルージャケッツの例 

 「オープンな倉庫のような場所が設定されていて、各チームがその一部を割り当てられ、すべてを積み上げることができるようになっていた。素早く物事に取りかかれるように、我々はすべてを整理しようとした。 

 ゲームが進むにつれて、ゲームに必要なものを確実に手に入れるために、より多くのものを手に入れるために人を走らせていたね。我々が『ああ、あれかこれがあったらいいのに』というような状況に陥ったなんてことは覚えていないよ。 

 それよりも、整理整頓を心がけ、完全にとは言わないまでも、どこに何があるのかを、ある程度把握しておくことが大切でした」と述べています。 

 その試合中、フォークトと彼のスタッフは、必要な砂糖、水、電解質を含む、さまざまなチュアブル(咀嚼錠。錠剤をかみ砕いたり、唾液で溶かしたりして服用する錠剤)やエナジードリンクを配っていました。 

 「懸念していたのは、彼らのお腹の具合に気をつけなければいけないということだったな」と彼は言います。「満腹になりすぎて胃がもたれるってのは避けたいと思ったよ」。 

 「つまり、塩分を摂取しているわけだが、胃の調子を悪くする可能性があるので注意が必要だ。そこでバランスを取るため、選手の話を聞き、ケース・バイ・ケースで対応するように考えている。 

 スタッフは部屋を歩き回り、選手が必要とするものを何でも配っているよ。トレーニング・ルームで実際にやっているからね、冷たいタオルを配るとか」。 

讃岐猫
讃岐猫

普段の延長戦を乗り越えるのですら大変なのに、

さらにバブルという制限まで加わるとなると、

スタッフの苦労は並大抵のものじゃなかったはずだにゃ。頭下がるよ。

やはり、睡眠が一番! 

 長いプレーオフの試合の後、通常、次の試合で全く逆の事象が起こります。土曜日、最大7戦を行うシリーズの第2戦、パンサーズとハリケーンズの場合もそうでしたが、パンサーズがはるかに短い延長戦(1時間51分)で2-1で勝利したのです。 

 試合前の練習時間はなく、チームはできるだけ早く休憩し、回復し、パック・ドロップ(試合開始)のために準備することとなりました。 

 「時には散歩に行くこともあるね」と、元NHLのフォワード、アンドリュー・ショーは最近のインタビューで語っています。「体を動かし続けていたいんだ。水分、電解質、塩分-それらは体調を整えるのを助けるために、とても良い、質の高い食品だと思う」。 

アンドリュー・ショー=カナダ、オンタリオ州ベルビル出身、31歳。現役時代のポジションは、センターか右ウィング。ブラックホークスでスタンレーカップを2度優勝(2013年と2015年)。複数回の脳震盪のため、2021年に引退。 

 試合中、挑発的な言動で相手選手を怒らせていたことでも有名。 

 ショーは、シカゴ・ブラックホークス在籍時、2度のトリプル・オーバータイム・ゲームに出場しています:2015年5月19日、19番目に長い試合(延長56分12秒)となっているウェスタン・カンファレンス・ファイナル第2戦、アナハイム・ダックスに3-2で勝利しました。 

 そして、2013年6月12日、スタンレーカップ決勝・第1戦でボストン・ブルーインズに4-3で勝利しています(延長52分8秒、史上27位)。 

 「あとは、しっかり睡眠をとって、前日のストレスから解放されるように、リンクから少し離れてリラックスすることも大切さ」とショーは述べました。 

 「それが少し役に立ったよ。いつもより少し多めに寝て、休息を取る。次の試合の前夜は早く寝ることが多いけど、それでもミーティングはあるし、前の試合の反省点は忘れないようにしないとね。やはり、精神的に余裕がないとダメだよね。それが他の人の助けになるからさ」。 

まとめ 

 最後は落ち着くところ(睡眠)に落ち着いた、って感じですね。長時間の睡眠を取っても、なかなか疲れが取れない場合もありますから、その辺もチーム・スタッフのアドバイスがあったりするのでしょうか。個人的にも教えてもらいたいところです。 

 実際に延長戦を観に来ていたファンはどう振る舞っていたのか、パンデミックの頃、全チームが同様の対策をしていたのか、独自の対策を取っていたチームはあったのか等、まだまだ知りたいことは山ほどあるのですが、それはまた次の機会に。 

 それよりも、選手達は長時間の延長戦に辟易しているので、「もう延長戦のネタは勘弁してくれ。それより、オーバー・タイムのルールを変えてくれ!」って声が、NHL選手会一同から出るかもしれませんね。 

讃岐猫
讃岐猫

ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!

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