はじめに
昨年後半から、日本のアイスホッケー・チーム=北海道ワイルズがアジア・リーグに参戦するかどうかの問題が持ち上がり、結局「参戦せず」となり、さらに今年に入って早々、本拠地・釧路から東京への移転話が進行中と報道されました。
東京にチームができるのはいいことですが、アジア・リーグ未加入ならば、宝の持ち腐れです。ワイルズは、日本アイスホッケー界で採用されつつあるデュアル・キャリア(一般会社員などビジネスキャリアも並行してプレー)で、選手確保を目指しているようですが…。
さて、NHLも移転やチーム創設問題で揺れています。移転はアリゾナ・コヨーテズのアリーナ問題で、これは遅々として進んでいないようですが、チーム創設はNHLチームを持たないユタ州中心にドンドン進んでいるようです。33番めのチームが生まれるのでしょうか。
米国では次から次へとチーム創設の機運があって、何とも羨ましい限りだにゃ。
ユタ州以外にもチーム増加の噂は流れていて、
NHLのコミッショナーも乗り気だと言われてる。
新興勢力MLSに負けないよう、現在の32チームの体力アップが最優先だと思うけど。
引用元:ESPN.com「NHL in Utah, trade rumblings and a look at the goalie market」
引用元:ESPN.com「Jazz owners prepared to bring NHL team to Utah」
新しいチームがユタ州に誕生?
ユタ州にNHLチームの来ることは避けられない状態だ、と感じ始めています。今週、ライアン・スミスが正式にチーム設立を要請するNHLへの書簡を公に発表したとき1、リーグはそのような感覚を持っていました。
※ライアン・スミスについては、以前、このブログでも触れている。詳細はこちら↓。
あるNHLのオーナーは「NHLへの参入は計算されたプロセスであり、(コミッショナーの)ゲイリー(・ベットマン)はそれをコントロールするのが好きだからね」と語っています。
ベットマンとスミスは2、ここ数年にわたって関係を築いてきました。私がスミスの手紙の意味をチームオーナーに尋ねると、「ゲイリーが信頼し、(NHLでの)ビジネスに興味を持っている人物であることは明らかだね」と答えています。
今週、スミスと話をしましたが、彼の情熱とエネルギーは否定できません。NHLに対する彼の売り込みはシンプルなものです。
彼の持つオーナーグループ(スミス・エンターテインメント・グループ)は、ゲームを(質の高いものへと)成長させていくという、このスポーツの理念を組み込みながら、自分たちが受け取る利益以上に多くのものをファンに与えたいと考えています。
オーナーはテクノロジー関連企業のトップ
ソルトレイクシティは、新興の活気に満ちた市場です。そしてスミスは、特に新しい切り口に焦点を当てて、新たな視点をもたらします。
「私は今もテクノロジーの世界で活動している、40代前半の男さ」とスミスは語りました。
「ユタ州では、テクノロジーがこうした多くのものを生み出しています。テクノロジーの観点から私たちがどのように支援し、コミュニティをまとめていけるか、それが今、本当にうまくいっているのです。それが、この取り組みの重要な部分です。
私は今でも、自分で立ち上げた会社であるクアルトリクスに深く関わっています。先日、私はちょうどインキュベーター(設立直後の企業に対して、インキュベーション〈起業や事業の創出をサポートするサービス・活動〉を提供すること )を発表したところです。
スポーツとテクノロジー、これらすべてがどのように機能するかについて、多くの共通点があります。その推進を助ける会話に積極的な技術者がいるということは、非常に有益だと思うね」。
最も注目に値するのは、スミス自身のオーナーシップ・グループ(ユタ・ジャズとMLSレアル・ソルトレイクシティを所有)が、来シーズンにも、デルタ・センターでホスト・ゲームを行えるNHLチーム所有の可能性があると述べたことです。
デルタ・センターは既にNHLのエキシビション・ゲームをいくつか開催しています。アリゾナ・コヨーテズの新アリーナ確保状況が危機に瀕していることを考えると、これは重要なことです。
既に2チーム所有の大金持ちがNHLに来るのは、
ある意味、リーグ発展にはいいことかもしれないにゃ。
最近加入したベガスやシアトルのように、短期間でチーム強化を進めるには、
やはり大金が動かないとなぁ。
オーナーは「住み家を探すコヨーテ達」を狙ってる?
NHLとNHLPAの関係者によると、コヨーテズは早急に確固とした答えを3出す必要があり、そうでなければ、リーグは忍耐を失う—アリゾナはすでに大量の実力行使をしてきていますが—とのことです。
スミスは、移転したチームを引き継ぐか、拡張チームでゼロからスタートするかは気にしないと述べました。「我々の目標はユタ州でのNHLだ」とスミス氏は語っています。「あとはゲイリーに任せるよ」。
特に一部のオーナーは拡張料が10億ドルをはるかに超えると予想しているため、いずれにしても、リーグは33チームとなることに4興味を持っているかもしれません。
選手達もユタ州に興味津々
逸話になりますが、ユタ州について、エキサイティングで潜在的な魅力ある場所として見ている何人かのプレーヤーと話をしました。ソルトレイクシティ郊外のパークシティで休暇を過ごしたことのある選手や、同様の経験を持つ友人のいる選手もいます。
ここが自然なウィンタースポーツ市場であることを、彼らは気に入ってくれているようです。ソルトレイクシティは2034年のオリンピックを開催する準備ができているようです。
一部のプレーヤーはさらなる拡大に不安を表明していますが、それが皆にとってより多くのお金とより多くの雇用を意味すると彼らは知っています。
NHL以外の下部組織リーグにも逸材がたくさんいるし、拡張ドラフトを上手く使えば、
チームの体裁は一応整うだろにゃ。
ただ、問題はそこからで、若手主体のシアトルになるか、
ベテランのポテンシャルを引き出すベガスになるか。
ホッケー専用アリーナ建設に向けて
ソルトレイクシティのダウンタウンまたはその周辺地域に、独立型ホッケーアリーナの建設予定地をすでに複数特定している、とスミスは述べました。「我々はデルタセンターを所有しているので、そのことが我々にとって少し有利に働いてはいる。
どちらにせよ、我々はそれを所有することになるからさ。つまり、我々は2つのアリーナで活動することができる訳だ。ここ(ユタ州)には間違いなくそれを行えるだけの能力がある。我々はもう事態を転がしているんだよ。
ユタ州にとって、良い選択肢があると思うね。我々のビジネスについて、ここは友好的だと言えるからさ。それがテクノロジーのエコシステムを構築するのに役立ったと思う」。
スミスは拡張クラブの費用を負担する準備ができているようです。ベガスはNHLの31番目のチームになるために5億ドル(日本円で約737億円)を支払いましたし、わずか2年後、シアトルは6億ドル(日本円で約884億円)を支払いました。
「無料ではないことは承知している」とスミスは潜在的な拡張コストについて語っています。「過去2年半の間に、我々は2つのチーム(NBAのジャズとMLSのレアル・ソルトレイクシティ)の買収プロセスを経てきました。
だから、どうやって物事を積み重ねていけばいいか、我々はかなりよく分かっているつもりだ。それが私たちの意図であり、コミットメントの一部であることは間違いないし、真剣に取り組んでいないのであれば、そのプロセスをやろうとは思わないよ。
スタジアムもまたその重要な部分を占めている。我々のグループをテーブルの周りに集め、全員に満場一致で〈NHLに参加するんだ!〉と言わせるのは、かなりパワフルなことだよね」。
アリーナ建設費用をどこから出すか
スミスは、アリーナへの資金提供のプロセスがどのように展開するか、完全に民間資金で賄われるのか、それとも一部の公的資金に頼るのかは分からないと述べました。
「我々は他のアリーナを非公開で購入しています。…ここまで、我々はかなり自立の道を歩んできました」とスミスは語っています。「しかし、これらすべてにおける課題の一部は、すべてを調整することです。
もちろん、短かい間にチームを獲得するのなら、その橋(公的資金援助)を渡る必要はないよ(自分達でチームを買えるし、アリーナ建設もできる!)。
そして、周囲へのサポートにはさまざまな方法がある。サポートとは、オリンピックを支援したり5、大学や技術インキュベーターと提携したりすることだ。我々はむしろ、ホッケーの周りにいたいという人たちと一緒にやっていきたいんだ」と語りました。
まとめ
NBAとMLS、既に2チーム持っているというのが、「実績」として大きなアドバンテージになっていると思います。それらを順調に運営できている人物となれば、NHL既存32チームとしても、自分達のビジネス話を持っていきやすいからです。
まして伸び盛り、成長曲線天井知らずのテクノロジー企業のトップとなれば、尚更。ただし、ユタ州の交通の便は全く良くない!強烈な車社会の州なので、州都ソルトレイク近辺以外から観戦に来るとしたら、かなり骨が折れます。アリーナ問題も、ここがカギかもしれません。
自信たっぷりのスミスも、アリーナ建設とアリーナ周辺の整備について、多くを語っていないのは、その辺のインフラ事情があるんだと思います。派手な花火を打ち上げて、新チーム創設と煽っておきながら、ちゃっかりアリゾナを手に入れて、移転完了…、そんな計算をしているような気がしてならないのですが。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 1月24日(水曜日)、(スミスのグループでもある)ユタ・ジャズのオーナーらはすぐにでもNHLチームをユタに誘致できると述べ、チーム拡大プロセスの開始を要請。
また、ジャズのアリーナをNHLフランチャイズの暫定本拠地として使用する、と発表もしている。
↩︎ - スミスとリーグとの交渉は2022年から続いており、NHLは声明でスミスのグループを高く評価していると述べている。
「過去2年間にわたる交渉の中で、リーグはライアンとアシュリー・スミス(ライアンの妻)の地域社会への取り組みと、ホッケー市場としてだけでなく、優れたスポーツとエンターテイメントの目的地としてのユタ州に対する彼らの情熱とビジョンに感銘を受けてきた。
ユタ州は有望な市場であり、今後も協議を続けることを楽しみにしている」。
↩︎ - 現在、アリゾナはソルトレイクシティでのリリースに関するコメントを拒否している。昨年のテンピでのアリーナ建設投票で落選したにもかかわらず、チームはアリゾナ残留に固執中。
2023年6月、CEOのザビエル・グティエレスは、民間資金によるアリーナの候補地を6か所特定したと発言。8月、オーナーのアレックス・メルエロが、アリゾナ州メサにアリーナ候補地用土地購入の意向書締結を発表。しかし、それ以降、目立った動きはない。
↩︎ - 6月のスタンレーカップ決勝前の記者会見で、アリゾナに関する一連の質問を受けた後、副コミッショナーのビル・デイリーはスミスと会話し、ソルトレイクシティへNHLチームを誘致することに関心があると認めている。
デイリーはまた、リーグにとって、チーム拡大が優先リストの最上位でないと一貫して主張していると述べてもいる。
ベットマンは「市場、所有権、アリーナを精査し、それがリーグを強くするかどうかを検討している」とし、「ラスベガスとシアトルという最近の2つの拡張チームがリーグをより強力にした、と言っても過言ではない」と発言。
また、「アリゾナは素晴らしく成長する市場であり、チームが現状の犠牲者に少しだけなっている」と付け加えている。どちらかと言えば、アリゾナ州内での移転が最優先で、ユタに関しては様子見といった感じか。
↩︎ - ユタ州のスペンサー・コックス知事は、同州のホッケーの歴史、好調な経済、熱心なスポーツファン、若くて活発な人口を考慮すると、ソルトレイクシティが2034年冬季オリンピックに立候補する中、新たなチームを追加する機が熟していると発表。
「オリンピック招致が進行中で、世界有数のウィンタースポーツの中心地の一つとしての長年の評判、そして地域社会におけるライアン・スミスとアシュリー・スミスとSEGの実績あるリーダーシップにより、私はユタ州の将来について非常に楽観的だ」とコックス。
スミスも「世界のスポーツとスポーツインフラをめぐって、州レベルで非常に多くの機運が起きている。デルタセンターはNHLチームの暫定的な解決策として機能する準備ができているが、ユタ州にはプロホッケーとオリンピックホッケーのために設計された新しいアリーナが必要だ」と発言している。
なお、ソルトレイクシティでは2002年冬季オリンピックが開催され、NHL選手が参加した大会としては、2回目となる。現在のユタのアイスホッケー・チームは、ECHLのユタ・グリズリーズがあり、郊外のウェストバレーシティでプレーしている。 ↩︎