スラップ・ショットは絶滅寸前?選手達の証言から原因を探る【前編】

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はじめに 

 アイスホッケー、NHLの魅力はそのスピード感、パックを自由自在に扱うスティックさばき、ドキドキハラハラ感満載のゴール前の攻防…等など、数々あります。その中で、あまり見られなくなったのが、大きく振りかぶって打たれるスラップ・ショットです。 

 「そんな所から打ってこないだろう」と油断していた相手チームの虚をつく中長距離砲で、しかも強力なので、なかなか防ぎきれないショットではあります。ただ、ワンタイマー・ショットやスラップ・ショットは強力ではありますが、確実性に欠けています。 

 最近のアイスホッケーは、細かくパスを繋いで相手ゴールまでパックを繋いでいく戦術を重視する傾向にあります。ポゼッション・サッカーに似ている、と言えば分かりやすいでしょうか。 

 今回の記事は、消えゆくスラップ・ショットの現状と、この攻撃が持つ魅力を解説していきます(前編・後編の2回に分けてお届けします)。  

讃岐猫
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引用元:sports.yahoo.com「The slap shot is dying. NHL players explain what’s to blame」。

消えゆくスラップ・ショットとは?

 1980年代から90年代にかけてホッケーを初めて知った人なら、大砲のようなスラップ・ショットを誇る選手や、それを頻繁に使用するプレーヤーに慣れているでしょう。

 スラップ・ショットは、長い間、NHLのエリート・ディフェンスマンが好んで打つシュートであり、サイドから飛び出すパワー・フォワードの選択する武器でもありました。

 しかし、その相対的な精度の低さ、スポーツのペースアップ、そしてディフェンスマンがブルーライン(守備位置)で即座に打てる・打てないを判断しなければいけないために、スラップ・ショットはほぼ絶滅しつつあります。

 心配する必要はありません。我々の知っている選手達の中に、この方法を実践している選手がまだ何人かいます。

 ドリュー・ドーティ(ディフェンス、34歳。ロサンゼルス・キングス所属)は今シーズンの4ゴールすべてをクラッパー1で決めており、ドギー・ハミルトン(ディフェンス、30歳。ニュージャージー・デビルズ所属)とテウボ・テラバイネン(左ウィング、29歳。カロライナ・ハリケーンズ所属)も、それぞれスラップ・ショットから4つのゴールを決めています。

 このシュートはほとんど恐竜の道を行っている(絶滅しかかっている)にもかかわらず、それでも使用する価値はあります。

 かつて愛されていた榴弾砲2が、なぜ現代のゲームから姿を消しつつあるのか、その最後の実践者たちの一部、リーグ真っ只中にいる選手やコーチを検証することで、何らかのヒントを与えてくれるかもしれません。

讃岐猫
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スティーブン・スタムコスとアレクサンダー・オベチキンが教授陣

 スラップ・ショットは消えゆく芸術です。『The Athletic』誌のフルト・シンザワは、32009-10シーズン以降のスラップ・ショットの減少を算出しました。 

 シンザワの計算では、2009-10シーズン、チームは1試合あたり7.11本のスラップショットを打っていました。それが2021-22シーズンには1試合あたり3.73本に減っています。 

 そして我々の計算では、2022-23シーズンのNHLチームは1試合平均3.65本のスラップ・ショットを打っています。 
 
 ライトニングのキャプテン、スティーブン・スタムコス(センター、33歳)はスラップ・ショットの最後の名手の一人です。スタムコスの「爆弾(ショット)」は彼の名刺代わりであり、それは彼が10代の頃からそうでした。 

 その10代の頃、ケベック国際ピーウィー・トーナメント4でMVPに輝いたスタムコスのスラップ・ショットが注目され、その後、オンタリオ・ホッケー・リーグのサーニア・スティングでスター選手として活躍したときに、スカウトたちはこの武器の存在を知ったのです。  

 この資質は、当然のことながらプロのレベルにも引き継がれました。 

 フェイスオフ・サークルの内側から、スタムコスが振りかぶって打つ巧みなワンタイムシュートは、彼の世代を象徴するシルエットのひとつとなっています。タンパベイの91番がフィードを辛抱強く待ち、ゴール上隅にロケット・シュートを放つ姿が目に浮かぶようです。 

 2022-23シーズン、スタムコスは14のスラップ・ショットによるゴールでNHLの全選手のトップに立ち、昨シーズンの全選手のスラップ・ショット総数の41.4%を占めました。 

 2009-10シーズン以降、彼は135のスラップ・ショット・ゴールで2位にランクされ、アレクサンダー・オベチキンに次ぐものであり、常に年間トップ5以内にランクされています。 

 特にスペシャルなチームのシナリオにおいて、スラップ・ショットはまだ価値を持つ、とライトニングの監督であるジョン・クーパーは考えています。 

 「もし、教えるべきクラスがあれば、彼は教授の一人であることは間違いないだろう」とクーパーはYahoo Sportsに語りました。「皮肉なことに、このまま(試合から)消えてしまうことはないはずだ。特にパワープレーで武器になる。 

 だから、両サイドから(スラップ・ショットが)来るという脅威が相手チームにあるんだ… それらのシュートがネットに入っていくのを、私はたくさん見られて恩恵を受けているよ」。 

 「彼にしろ、アレックス・オベチキン(左ウィング、38歳。ワシントン・キャピタルズ所属)にしろ、彼らのできることは見た目ほど簡単ではない。あれだけのスピードを出して、狙ったところに打てるのはすごいことだ。 

 彼は、それを成し遂げた(誰よりも)優れた選手だ」。

スタムコスのスラップ・ショット。ちょっと分かりにくいかも。
オベチキンのスラップ・ショット。これはとても強烈。

次世代のスラップ・ショット王は誰だ 

 スタムコスとオベチキンが、その分野の名誉的なポジションに立ったことで、NHLの次期スラップ・ショット王を決める競争が始まっています。 

 ボストン・ブルーインズのスター、デイヴィッド・パストルナック(右ウィング)が後継者候補の最有力候補のようです。 

 27歳の彼は2014-15シーズンにリーグ初登場して以来、スラップ・ショット・ゴール数でオベチキン、スタムコス、シェイ・ウェーバー(ディフェンス、38歳。アリゾナ・コヨーテズ所属)に次ぐ4位につけています。 

 過去5シーズンで4位のコロンバス・ブルージャケッツのフォワード、パトリック・レイン(左ウィング、25歳)も候補に入るでしょうし、バッファロー・セイバーズのスナイパー、テージ・トンプソン(センター、26歳)も、過去2シーズンで12ゴールのスラップ・ショットでオベチキンと並んで3位につけています。 

 ちなみに、1年前のルーキー得点王、ワイアット・ジョンソン(センター、20歳。ダラス・スターズ所属)とマティ・ベニアーズ(センター、21歳。シアトル・クラーケン所属)の合計48ゴールのうち、スラップ・ショット・ゴールは1ゴールしかありませんでした。 

 そして、まだ開幕から日が浅いとはいえ、今シーズン、ルーキーが決めた70ゴールのうち、クラッパーでゴールキーパーを突き破った唯一のルーキーは、ルーク・ヒューズ(ディフェンス、20歳。ニュージャージー・デビルズ所属)です。 

讃岐猫
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クイック・リリースの価値はかつてないほど高い

 これは新しい発見ではありませんが、大多数のベテランにとってゲームが変化し、進化したことは確かです。

 アイスリンクの広いスペースで、大きく振りかぶった目立つショットよりも、現代のNHLはより速く、よりスキル重視で、さらにポジションの確実性を重視していると考えられています。

 メープルリーフスのディフェンスマン、モーガン・ライリー(ディフェンス、29歳)は、なぜスラップショットが彼の在籍中にNHLから徐々に消えていったのか、その理由を説明しました。

 「そうなってきていると思う。なぜかというと、クイック・リリースの価値がこれまで以上に高まっているからだ」とライリーはYahoo Sportsに語っています。

 「僕の意見では、リストショットの方が正確だし、切り替えたり、動いたりするのも簡単だし、振りかぶって大きなスラッパーを打つのとは対照的に、リストショットの方が少し相手をごまかしやすいんだ」。

 では、これは主にゲームの速度が向上したためでしょうか。

 「好みの問題じゃないかな。マーク・ジョルダーノ(ディフェンス、40歳。トロント・メープルリーフス所属)は、ブルーラインを歩いてスラップ・ショットを打つのが好きだ。

 私はフォアハンドでパックを持ち、スティックをあまり氷から離したくないんだ。もっと相手をかわしながら、パックを扱いたいし、それも好みの問題だよね」。

まとめ

 サッカーと違い、アイスホッケーは一応「手で」パックを扱えます。自分のスティックの先に、フワッと浮いたパックを叩き落として、そのままパスをしたりシュートまで持っていったりします。そういう小技が試合展開を速くしたり、面白さを増したりしてくれます。

 ここ数年はそういうプレーが多くなっているため、その巧さを堪能していますが、やはり、大技もバランスよく見たいものです。選手達が大技より確実性を重視するのは、サラリーキャップも影響しているのかもしれません。契約更新やFAの査定に響きますからね。

 次回も選手達の証言を元にしながら、試合を面白くするはずの大技の行く末を考えていきたいと思います。

讃岐猫
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【註釈】

  1. 鈴や鐘の舌、すなわち音が鳴る際、中心にあり、左右に揺れて音を出している部分のこと。それをスラップ・ショットに喩えたものと思われる。鳥をおどす鳴子の意味もある。
    ↩︎
  2. 弾を空に高く打ち上げる型の火砲のこと。遮蔽物を越えて射撃できるのが特徴。スラップ・ショットは速く強力なので、相手選手も防ぎようがない。そのことが、榴弾砲と類似していると考えられて、この表現を用いたのかもしれない。
    ↩︎
  3. 詳細はこちら→。ただし、この記事は有料。
    ↩︎
  4. カナダのケベック・シティで毎年開催されるマイナー・アイスホッケー・イベントのこと。このトーナメントは、ケベック・ウィンター・カーニバルに合わせて1960年に設立され、12歳未満のプレーヤーに国際競争の機会を与えるもの。 ↩︎
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