はじめに
全日本アイスホッケー選手権のBS放送を見ていると、ペナルティー・ボックスの出てくる頻度が、NHLと比べて、極端に少ないなぁと思いました。日本の場合、それだけクリーンなプレーが多くて、お子様にも安心して見せられるホッケーとなるのですが…。
それはさておき、NHLの楽しみ方というのは、スリリングな試合を見るだけじゃないんですよね。数々の個人やチーム記録、ベテラン選手の契約問題、各チームのサラリー・キャップを巡る駆け引き等などの大人の事情を、ニヤニヤしながら?見ていくことじゃないかな、と。
今回は、NHL.comの専属ライターであるダン・ローゼンが、多くのファン・メールからいくつかピックアップし、上記の大人の事情にまつわる疑問に答えるコーナー「メールバッグ」を取り上げてみました。NHLって、ホントいろいろ起きるんですね。
アリゾナ・コヨーテズの快進撃は、口うるさい評論家の誰も予想し得なかった
「大事件」だと思うんだにゃ。
安定して勝ちを拾っていくには、まだまだチームが熟していない感じもするけど、
確実に成長の一歩を踏み出しているのは間違いない。
引用元:NHL.com「Mailbag: Coyotes, Sabres off to surprising starts; teams needing spark」。
今のところ、最も嬉しい驚きをもたらしたチームとは?
※これは毎週のNHL.comメールバッグの12月6日版で、Xからのご質問にお答えします。@drosennhlと@NHLdotcomに質問を送信し、#OvertheBoardsでタグを付けます。
これまでのところ、どのチームが最も嬉しい驚きであり、どのチームに最もがっかりさせられましたか?
最も嬉しい驚き:アリゾナ・コヨーテズ
最もがっかりさせられた:バッファロー・セイバーズ
コヨーテズは、ここ最近の数年間でスタンレーカップ優勝経験のある5チームと対戦し、5連勝(チーム史上初)しています1。連勝は、11月25日のラスベガスゴールデンナイツ(2023年チャンピオン)での2-0の勝利から始まりました。
5試合中4試合はホームの2マレット・アリーナで行われており、タンパベイ・ライトニング(2020年と2021年チャンピオン)に3-1、コロラド・アバランチ(2022年)に延長戦で4-3、セントルイス・ブルース(2019年)に4-1、ワシントン・キャピタルズ(2018年)に6-0で勝利しています。
そのスコアを合計すると、コヨーテズは19ゴール・5失点で5連勝していることになります。
おそらく最大のサプライズは、コナー・イングラム(ゴールテンダー、26歳)がネット前に立ちはだかり3、徐々にNo.1ゴーリーの座を奪っているという事実です。5連勝中のイングラムは5-0-0(オーバータイム無し)で、平均失点1.00、セーブ率.968、連勝中に2つのシャットアウトを記録しています。
今シーズンのイングラムは15試合出場で11勝3敗、平均失点2.23・セーブ率.930となっています。彼がこの調子を維持すれば、ヴェジーナ・トロフィーの話題の中に食い込んでくるでしょう。これまでのNHLキャリア通算30試合出場で、7勝を挙げていました。
アリゾナは1試合あたりのゴール数(3.33)で11位、1試合あたりの失点数(2.83)で10位タイとなっています。また、パワープレーは5位(26.8%)、ペナルティキルは14位(81.2%)となっています。
そろそろコヨーテズについて、ホームゲームをどこでやるかではなく4、氷上での活躍をもっと話題にする時期が来ているのです。
最もがっかりさせられたのは…
私は、セイバーズがスタンレーカップ・プレーオフに進出するチームであると注目していました。トレーニングキャンプ前、FWテージ・トンプソン(センター、26歳)とJJ・ピーターカ(右ウィング、21歳)と別々の機会に話をしましたが、それぞれが「今がその時だ」と確信しているようでした。
しかし、セイバーズは激しく一貫性のないチームに見えていて、これはまだチーム戦術を理解できていない若いチームの兆候です。
11月27日のニューヨーク・レンジャーズ戦(5-1)のような試合もできる訳で、彼らが力を合わせてプレーする時、ゴールネットの前で60分間戦い続けられるのです。
それを見れば、もしかしたらあの勝利が今後の糧になるかもしれないと思うはずです、というのも、それはまぐれでもなければ、1人の選手がスター的な活躍をした訳でもないからです。それはチームワークの賜物でした。
ニュージャージー・デビルズに7-2で負けた後だったので、セイバーズがチームワークを理解したと思えたのです。しかしその後、セントルイスに6-4、カロライナ・ハリケーンズに6-2で敗れてしまいました。
今シーズン、次の一歩を踏み出さなければならないチームに、そんなことは起こり得ません。次のステップはプレーオフ・チームになることです。セイバーズは昨シーズン、勝ち点1差でそれを逃しました。チームは状況を好転させる時間がなくなってきています。
セイバーズで気になるのは、大量失点なんだにゃ。
スピーディーなNHLを生き抜くには、攻撃も守備もスピーディーじゃなくちゃいけない訳で、
そのためにはチームワーク、連携が必要。
セイバーズの守備って、そこが決定的に遅いような気がする。
「何かを変えないと…」と決断すべきチームとは?
シーズンが失われる前に、ロースターやコーチング・スタッフのトレードや、その他の決断が必要なNHLチームはどこでしょうか?
デビルズ、トロント・メープルリーフス、ニューヨーク・アイランダーズはディフェンスマンを必要としています。アイランダーズはアダム・ペレシュ(29歳。上半身負傷、長期故障者リスト行き)を欠いてプレーしています。
ニュージャージーはダギー・ハミルトンなしでプレーしています(30歳。胸筋の断裂手術、今シーズンは無期限で出場不可)。トロントには、ティモシー・リジェグレン(24歳。下半身負傷)、ジョン・クリングバーグ(31歳。臀部)、マーク・ジョルダーノ(40歳。指の骨折)がいません。
それらは問題の一部にすぎないのです。もう1つは、チームがどのようにプレーするかです。アイランダーズはあまりにも緩く、相手がラッシュしてくるゲームで、それに拍車をかけるターンオーバーを起こしやすいのです。
デビルズはネット前で締まりが悪いままで、ペナルティ・キルはデビルズとアイランダーズにとって大きな問題となっています。メープルリーフスはブルーラインでのアグレッシブさが足りず、このエリアでは昔ながらの「唸りや噛みつき」が足りません。
すぐに追加や変更を行わなければ、シーズンを棒に振るリスクはありませんが、しかし結局のところ、この3チームが今シーズンの「危険な存在」になるためには、バックエンドを改善する必要がある5と思います。
シアトル・クラーケンにはゴールスコアラーが必要です。1試合あたり平均2.65ゴール、リーグ29位です。昨シーズン、13ゴール以上の選手が13人、20ゴール以上の選手が6人という、チーム全体で得点を重ねていく方式で勝利を勝ち取りました。
今シーズンはそれができていません。現在、4人の選手が5ゴール以上を決めています。アナハイム・ダックスとシカゴ・ブラックホークス(3人)だけが、シアトルより5ゴール以上の選手が少ないチームなのです。
1試合あたり3.42ゴールを許すクラーケンは、守備も改善する必要があります。
セイバーズは、上記の理由やもっと多くの理由で衝撃を必要としていますが、今シーズンにプッシュを与えるべく、ドラフト指名権や見込みのある若手など将来の資産の犠牲を検討する前に、今いるメンバーでより良いプレーを始める必要があります。
現時点で3月8日の2024 NHLトレード期限までに、セイバーズがレンタルの買い手側になってはダメと言い切れません。短期的な成長は望めるかもしれませんが、長期的に何の影響もない契約満了の選手と将来の資産を交換できる程、チームが成長期にあると言えないのです。
彼らはまだスタンレーカップの準備ができていません。しかし、チームがより良いプレーを開始し、順位を上げることができれば、トレード締め切り前に1人か2人のプレーヤーを追加することは、彼らをトップに押し上げるために正しいことかもしれません。
セイバーズは2011年以来プレーオフの場へ行っていません。チームが状況を好転させることができれば、ファンにさらなる希望を、選手に必要なポストシーズンの経験をそれぞれ与えるために、今シーズン中にプッシュする価値があるでしょう。
「ダラスの生きる伝説」の今後
ジム・ニル6なら、シーズンのどの時点で、ジョー・パベルスキー(センター、39歳)7のためにもう1年契約延長を検討しますか?
これはダラス・スターズやゼネラルマネージャーのジム・ニルよりも、パベルスキーがどう考えているかが問題だと思わなければなりません。パベルスキーはまた年齢を感じさせないシーズンを迎えています。
彼は39歳で、24ポイント(11ゴール、13アシスト)でスターズのトップに立っています。彼は年間350万ドル(日本円で約5億円)の契約でプレーしており、さらに200万ドル(約2億9千万円)のパフォーマンス・ボーナスの可能性を有しています。
パベルスキーが40代(2024年7月11日に40歳)までプレーしたいのであれば、少なくとももう一シーズン、スターズは彼をチーム内に留めておくことができるはずです。なぜ彼がダラスを去りたいのかわかりません。
スターズでの5年目のシーズンで、パベルスキーはその地位を確固たるものとしました。チームは好調で、スタンレーカップを狙えます。彼はチームに溶け込んでいて、このチームのロッカールームの雰囲気と、チームが築き上げた文化の大部分を担っています。
パベルスキーはピーター・デボア監督と長い歴史を持っていて、それはチーム内で完全に機能しています。パベルスキーは1月1日に現在の契約に署名しました。彼の以前の2022-23シーズンの1年契約は、2022年3月11日に調印されたものです。
彼がプレーを続けたいなら、今シーズン半ばのある時点で、また1年契約を結ぶのを見ることができるでしょう。
今シーズン、ドスンと衰えが顕著なオベチキンと違い、
パベルスキーのプレーはキレッキレなんだにゃ。
ポジション的に点取り屋でないところが幸いして、
堅実にプレーを続けてきた結果なんだろう。
来シーズン、サラリーキャップの上限アップによる問題点
来シーズンのサラリーキャップが引き上げられる中、ブリッジ契約8に署名した選手が長期契約することを期待しますか?より多くの資金が利用可能になることは、フリーエージェントがより高いAAV(1年間の平均年俸)を得る機会が増えることを意味しますが、そう思いますか?
可能性はありますが、全面的に肯定できません。来シーズンの上限予測は現在8,770万ドルとなっていて、今シーズンから420万ドル増加しています。
これは、2017-18シーズンの7500万ドルから2018-19シーズンの7950万ドルへと450万ドル増加して以来最大の上げ幅ですが、長期契約増加へと流れていく訳ではありません。
来シーズンの上限が420万ドル引き上げられたとしても、2025-26シーズン、さらに400万ドル以上も引き上げられないでしょう。
2027-28シーズンまでに1億ドルに近づかない、あるいはそれを超えないと言い切れるでしょうか?それは、自分自身に(どれだけの価値があるのか)賭けてみようとしている選手にとって、魅力的なことです。
(キャップ増額により)3年間で(平均年俸)500万ドル、次の3年間で1000万ドルになる可能性があるのに、(選手達は)なぜ6年間も平均年俸500万ドルのままでいなければならないのでしょうか?
自分の価値が(平均年俸)1500万ドルまで上昇すると考える場合も出てきますが、最近の選手たちはそれをいとわないようです。
オーストン・マシューズ(4年契約=年平均1325万ドル)、トレバー・ゼグラス(3年契約=年平均575万ドル)、ヴィンス・ダン(4年契約=年平均900万ドル)がその例です。
このオフシーズンには多くの1年契約が見られましたが、その多くはキャップに由来するものでした。チームと対立し、長期戦に踏み切ろうとせず、そして、キャップが上がれば、より大きなパイを手にすることができるかもしれないと考えた選手たちによるものです。
それは今後もそうかもしれません。
キャップが上がっても、対処可能なAAVで選手を留めておこうとするチームが出てくると思いますが、選手たちは、次の契約でより大きなAAVが得られることを期待して、自分の価値に賭けて短期契約を取るという考え方を持つかもしれません。
シーズン中の戦力追加のための余裕を持たせるため、オフシーズンに余ったキャップ・スペースを使わないチームも出てくる可能性があります。
まとめ
それにしても、サラリーキャップ問題には本当に頭を抱えてしまいます。GMや選手達だけでなく、NHL.comのライター達も同様でしょうし、その手のニュースを読む一般のファンもなかなか理解しづらいようです。サラリーキャップの概念がない日本人からすれば、ほとんどチンプンカンプンな世界です。
日本のJリーグは、一部の金満チームによる、中〜下位チームの育成選手引き抜き問題を抱えていますが、サラリーキャップを設ければいいんじゃないかと思っています。Bリーグが将来的にやろうとしているようで、あと2〜3年すると、本格的に日本で議論される日が来るような気がします。
バファロー・セイバーズをやり玉に挙げた記事でしたが、それもこれも「チームのイメージが地味」「売りになる選手が少ない」「可もなく不可もない戦術」の影響でしょう。大負けもしなければ大勝ちもしない、5割前後でウロウロしている。
どうすればいいかって?トルトレラのような「冷徹な毒舌監督」が来たら、ピリッとするんじゃないですかね。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 12月7日(木)、ホームであるマレット・アリーナで行われた、フィラデルフィア・フライヤーズ戦は1-4で敗戦、6連勝ならず。
↩︎ - アリゾナは9日(土曜)のボストン・ブルーインズ戦からアウェイ3連戦となる。他の対戦相手は、この記事にも出てくる「がっかりしたチーム」バファロー・セイバーズ、ピッツバーグ・ペンギンズとなっている。
↩︎ - イングラムについては、こちらの記事も参照のこと→☆。
↩︎ - 現在、ホームとして使用しているマレット・アリーナは、あくまでも「レンタル」である。アリゾナのホーム問題については、こちらを参照のこと→☆。
↩︎ - アイランダーズはメトロポリタン・ディビジョン3位だが、82失点・得失点差−6となっており、得失点差はディビジョンで3番目に悪い。同ディビジョンのデビルズは得失点差-2であるが、2番目に悪い89失点を喫している。
アトランティック・ディビジョン4位のメープルリーフスは得失点差+4で、最下位のセネターズより一つ多いだけで、上位陣では最も悪い数字である。
↩︎ - ジム・ニルについての過去の記事はこちら→☆。
↩︎ - ジョー・パベルスキーについての過去の記事はこちら→☆。
↩︎ - まずドラフト指名された選手は、7年間、そのチームの管理下に置かれる。最初の3年間のエントリーレベル契約が終了後、選手は制限付きフリーエージェント(UFA)の4年間が始まり、入団から7年目に無制限のフリーエージェントとなる。
UFAとしての4年の間に、選手はサラリーアップと2年または3年契約、あるいは5〜8年契約をチームと交渉して勝ち取ることが可能。この4年間が入団3年目とフリーとなる7年目の間にあることから、ブリッジ契約と呼ばれる。
単年契約を結ぶ選手は少なく、また4年契約の選択肢もあるが、その契約が切れると、問答無用で無制限となってチームから放出されてしまうため、これを選ぶ選手も少ない。 ↩︎