ヒューズ放出後に3連勝、カナックス再生を導いた結束力の真相

NHLチーム紹介

はじめに

 クイン・ヒューズ放出という大きな決断から1週間。総合最下位に沈んでいたカナックスは、まさかの3連勝で流れを一変させました。シャーウッドのハットトリック、デムコの安定感、新戦力の前向きな空気――混乱と雑音の中で、チームは何を信じ、どこへ向かおうとしているのでしょうか。

 想定外の現在地を、試合と選手の言葉から追います。

参照記事:Sportsnet1Canucks’ surge after Hughes trade continues with win over Islanders

ヒューズ放出から始まった想定外の流れ🏒

 クイン・ヒューズのトレードは、バンクーバー・カナックスにとって過去最大級の決断でした。それだけでなく、NHL全体の歴史を振り返っても、極めて成功度の高いトレードだったと言えます。

 バンクーバーの最優秀選手、チームの象徴とも言える存在を放出した、地殻変動級の4対1の大型トレードから1週間が経過した今、カナックスとミネソタ・ワイルドは、どちらも勢いに乗り、止まらない状態にあります。ただ、その状況を誰もが予想していたわけではありません。この2つのうち驚きなのは1つだけです。

 先週金曜日、ヒューズ放出という決断の重みを受け止めた直後のバンクーバーには、重苦しい空気が漂っていました。総合最下位に沈んでいたチームが、わずか1週間以内で3連勝し、ニューヨーク地域のNHLチーム群を合計9対2で圧倒する。そんな展開を思い描いていた人は、ほとんどいなかったはずです。

 特に印象的だったのが、金曜日のニューヨーク・アイランダース戦での4対1の完勝。試合の流れを最初から最後まで握り続けたこの一戦は、今季のロードゲームの中でも屈指の内容2でした。チームは、この大型トレードによって打ちのめされたのではなく、集中力とエネルギーを取り戻すきっかけになったように見えます🙂

シャーウッドのハットトリックが示したもの🔥

 この試合で強烈な存在感を放ったのが、バンクーバー・カナックスのフォワードのキーファー・シャーウッドでした。チームが挙げた4ゴールのうち3ゴールを彼が決め、自身キャリア3度目となるハットトリックを達成。これで今季の得点数は17に伸び、チームトップを走っています。

 ヒューズとのトレードで、ワイルドから1巡目指名権とともに加わったジーブ・ブイウム、マルコ・ロッシ、リアム・オーグレンの3人も、チームに明るい空気をもたらした存在3です。若く、前向きで、意欲に満ちた彼らの加入は、ロッカールームの雰囲気を確実に変えています。そしてもちろん、ゴーリーのサッチャー・デムコが見せる安定感と存在感は、言うまでもありません。

 ただ、この好転は新戦力だけの力ではないようです。カナックスの他の既存メンバーの間には、はっきりとした確信と信念があり、順位や、主将を失うまでに至った苦しい2か月間だけで自分たちを判断されたくないという強い思いがあります。

 ベテランのタイラー・マイヤーズは、「1週間前に何を考えていたかは、正直言って分からない」と率直にこう振り返っています。

 「つまり、トレードが起きた瞬間に『まずい、これは大変だ』となったわけではない。何が戻ってくるのかは分かっていたし、それに対してかなりワクワクしていた。実際に彼らは加わって、チームの層を本当に厚くしてくれている。

 直近3試合を見ても、少しずつ勢いが出てきていて、良いことをたくさんやれている。この前向きなマインドセットを維持して、それを継続していかなければならない。そうすれば、何が起こるか分からない。

 僕はいつも言っているけれど、このリーグは拮抗しており、状況はすぐに変わる。バンクーバーの周囲には常に多くの雑音があるし、今回もそうだった。でも、このロッカールームの中では、みんな……うなだれてはいなかった。逆境の中でも前向きに取り組み続ける姿勢が、今の流れにつながっている🙂」。

バンクーバー・カナックスvs.ニューヨーク・アイランダース戦のハイライト映像。カナックスの吹っ切れ感がスゴイ!

デムコが語る「今の勝利」とチームの感覚🧤

 好調の中心にいるカナックスのゴーリー、サッチャー・デムコは、チームの状態について冷静に受け止めています。

 「自分たちが良いホッケーチームではないと考えた瞬間は、一度もなかったと思う。ロッカールームの空気と、メディアや周囲の評価にはどうしてもズレが生まれるが、結局は「最近何をしたか」で見られる世界だという感覚だ。今は勝っているし。その事実を素直に喜び、この状態を維持しようとしている」。それがデムコのスタンスです🙂

 デムコが、ニューヨーク・アイランダース戦の勝利後にダン・マーフィーの取材に応じ、キーファー・シャーウッドのハットトリック、クイン・ヒューズのトレード後にチームが好調な理由が他にもあるのかどうかなどについて、誰か一人の存在を示すものではなく、チーム全体の積み重ねだと語っています。

 この3連勝は、今季のカナックスにとって最長タイの記録です。10月19日にワシントンで行われた試合で、当時チームのセンター3人のうちの2人、フィリップ・ヒートルとテディ・ブルーガーが同じ試合で負傷する直前に記録した、短期間の好調期と同じ長さです。

 その2人はいまだ離脱中であり、そのため直近6試合ではエリアス・ペターソンがトップセンターを務めています4。ロードトリップは土曜日のボストン・ブルーインズ戦へと続き、彼は引き続き「日々の様子見」とされています。

 それにもかかわらず、バンクーバーは今季最高と言える守備の安定感を見せています。アイランダースはホームで5連勝中でしたが、金曜日の試合では前半のシュート数をわずか8本に抑え込まれていました。

 最終的なシュート数はバンクーバーが30本、ニューヨークが23本でしたが、これは残り5分5秒でアンダース・リーが6対5の状況で得点するなど、終盤にニューヨークが猛攻を見せたためです。試合全体を通してカナックスが主導権を握っていたことは明らかでした。

讃岐猫
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予想外が続く中で見えるチームの現在地✨

 「シーズンを通しての浮き沈みは、本当にクレイジーだ」と、シーズン2度目のハットトリックをエンプティネットへのゴールで完成させた後、カナックスのウイング、キーファー・シャーウッドは語っています。

 「でも、僕たちは団結しているし、お互いのためにプレーし、正しいやり方で試合をしようとしている。自分たちのアイデンティティを築き続けていて、働く姿勢が自然と結果につながるようにしている🙂。新しく加わった選手たちは良い仕事をしてくれて、グループに新しい命を吹き込んでくれた。今こそ前に進む時だ」。

 ヒューズのトレードは、経営陣のビジョンをはっきりさせた一方で、シャーウッドの存在は、このシーズンが決して思い通りに進んでこなかったことを、毎晩のように思い起こさせるものでもあります。

 1か月前、ジム・ラザフォード社長は、シャーウッドを含む無制限フリーエージェント資格を持つ選手たちをトレード候補として検討5していると公に認めていました。それでもシャーウッドは、激しいフィジカルプレーを貫きながら、バンクーバーでの得点王であり続け、身を挺してチームに尽くす姿勢でリーダーシップを発揮し続けています。

 金曜日の3ゴールは、第1ピリオドに3対0とリードを奪った際の2得点を含む重要なものでした。これで彼は34試合で16ゴール。数字以上に、存在感の大きさが際立ちます。

シャーウッドが相手選手からパックを奪う瞬間がカッチョいい!シビれる〜!

 さらに、この日はデビッド・カンプにも予想外の展開が訪れました。

 トロント・メープルリーフスを放出されたデビッド・カンプ6が、今季無得点のまま、1週間にわたってカナックスの第1ラインのセンターを務めていたにもかかわらず、バンクーバーのユニフォームを着て初ゴールを挙げています。ネット裏からパックを収めて決めたこのゴールも、今のチームを象徴する出来事でした。

 カンプとシャーウッドのストーリーがどれほど予測不能であっても、それらはヒューズ後のカナックスが、順位表の最下位から這い上がろうとする中で直面している、大きな冒険の一部なのです。

 20歳になったばかりのブイウムは、自身が加入してから3勝0敗のこのチームが、なぜNHL全体で32位に沈んでいたのか、正直なところ理解できないと語ります。チームの力と伸びしろを考えれば、今の順位は納得できないという感覚です。

 「このチームがどれほど良いか、そしてどれほど良くなれるかを考えると、この成績はまったく理にかなっていない」と彼は語りました。

 カナックスはプレーオフ圏内までは6ポイント差7。ブイウムは、スタンレーカップ・トーナメント出場をまだ諦める理由はないと話します。「その目標に向かって努力しなければならない」と、このルーキーは語りました。

 「『星を狙えば、月に届くかもしれない』という言葉があるだろう。ここには信念がある。デマーは言うまでもなく素晴らしいし、それが大きな助けになっている。でも、とにかく、ここには良い雰囲気があって、僕たちは前に進み続けるだけだ」。

 「1週間前と比べた雑音の部分について言えば、それは確実に避けられないものだった」と、2つの金曜日の違いについて問われた監督のフットは語っています。

 「選手たちがこれほど早く、グループとして、チームとして噛み合っていくのを見られたことが、私にとっては一番手応えを感じる点だ。ケガ人が出て、トレードに関するあらゆる雑音が飛び交う中でも、ベテランたちがチームをまとめ上げてくれたことには、本当に大きな評価を与えたい。

 彼らが互いのために踏ん張ってくれたことをうれしく思っているし、その結果として、今は成果が出始めている」。

 デムコが4試合連続で先発した後、土曜日のボストンではバックアップのケビン・ランキネンが先発する見込みです。チームは、まだ道の途中にいます。

ボストン戦はすでに終了しており、延長戦→シュートアウトの結果、カナックス4連勝!

まとめ

 ヒューズ放出後の混乱の中でも、カナックスは結束と前向きな姿勢で流れを変えました。新戦力と既存選手が役割を果たし、守備と意識が安定。逆境でもチームの現在地を信じ、変化を成長の材料にする重要性を示しています。

讃岐猫
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【註釈】

  1. カナダを代表するスポーツメディアブランドで、テレビ、ラジオ、ウェブ、アプリなど多様なプラットフォームで総合的なスポーツ報道を提供。1998年の開局以来、NHLの全国放映権を保持し、定期シーズン、プレーオフ、ドラフトやオールスターゲームなど幅広いコンテンツを届けている。

     また、バンクーバー・カナックスを含む複数のNHLチームの地域放送権も保有しており、試合のライブ配信や見どころ、分析記事、動画ハイライトなどがsportsnet.caやSportsnetアプリを通じて利用可能。

     これにより、単なる試合結果の速報にとどまらず、専門的な解説や選手のインタビュー、戦術分析などファンが深く理解できる情報を追うことができる。こうした包括的な報道体制によりSportsnetはNHLに関する大規模なニュースソースとして北米でも認知されている。
    ↩︎
  2. 12月19日にUBSアリーナで行われた試合では、カナックスが序盤からアイランダースを圧倒し、1ピリオドだけで3点を奪う展開に。この試合でキーファー・シャーウッドがハットトリックを達成し、デヴィッド・カンプも得点するなど、複数の攻撃オプションが機能したことが注目された。

     ゴーリーのサッチャー・デムコは22本のシュートを止め、ほぼ完封ペースの堅守を見せ、結果として4-1の勝利につなげている。アイランダースはこの敗戦でホーム5連勝が止まり、直近の失速が露呈。試合中盤には5対3のパワープレー機会を得ながら得点できなかった場面もあり、攻撃面での決定力不足が響いたと分析されている。

     加えて、アイランダースの守備組織がカナックスの素早いパックムーブに対応しきれず、ターンオーバーから失点につながる場面があったと報じられており、単なる偶然の勝利ではなく戦術的な優位をカナックスが発揮したと受け止められている。(reuters.com
    ↩︎
  3. ヒューズとのトレードでカナックスに加入した若手3人について、北米のホッケーファンや分析者の間では早くも期待の声が上がっている。特に20歳のディフェンスマン、Zeev Buiumはデビュー戦でアシストとゴールを記録し、攻守両面で即戦力の片鱗を見せたと評価されている。

     Buiumはオフェンス志向のディフェンスとして“パワープレイ第1チーム”で起用される可能性があり、将来的にはヒューズ級の影響力を放つポテンシャルがあるという意見もある。Marco Rossiについては堅実なオールラウンドプレーヤーとして期待され、チームの攻撃とセンター深さの強化につながるとの見方。

     一方でLiam Ohgrenはまだキャリア初期段階で、現時点では大きな即戦力というよりは将来の成長株として扱われている。これらの選手については「即時にヒューズの穴を埋めるわけではないが、若さと素材の良さがチームに新たな幅をもたらす」と分析されており、長期的な再建やポテンシャル育成の観点で注目されている。(ClutchPoints
    ↩︎
  4. カナックスのセンター陣は今季、負傷による離脱がチーム構造に大きな影響を与えてきた。フィリップ・ヒートルは移籍後に2月からプレーしていたものの、試合中の大きなヒットで脳しんとうの症状を抱え、長期離脱に追い込まれている。このケースは、ヒートルが持つ攻撃のドライブ力を欠いたことでチームのフォワードのバランスを崩し、センターとしての戦力不足を露呈させた。

     この状況下で、カナックスはエリアス・ペターソンをより多くセンターとして起用し、限られた条件下で彼の得点力とフェイスオフ能力を活かそうとしているが、ペターソン自身もシーズン中に上半身の負傷でIR入りするなど出場を安定させられない時期があり、センターポジションに柔軟性を持たせる必要性が浮き彫りになった。

     そのため、ベテランのテディ・ブルーガーも攻守両面でセンターとして使われているが、継続的な離脱でライン編成に不確実性が残るという課題が指摘されている。この負傷の連鎖は、カナックスがセンターの層の薄さを補う策として他ポジションや新人の起用を増やす背景となり、メディア分析でも「怪我による穴を埋めるための戦術的適応がチームの構造を変化させている」と報じられている。(The Hockey News
    ↩︎
  5. カナックス球団社長ジム・ラザフォードがヒューズ放出に続き、UFA資格を持つ複数のベテラン選手をトレード候補として市場に出す意向を示したことは、ファンや評論家の間でも大きな話題となった。

     多くの北米メディア系ファンサイトでは、この動きを単なる噂や選手放出の合図ではなく、チームの方向性を示すシグナルとして捉えている。背景には、近年のカナックスがプレーオフ進出に届かず長期的な成績改善が求められていることがあり、年齢や契約満了が近い選手を放出してドラフト指名権や若手有望株を補強することでリスクを抑えながら戦力再構築を図る方針だという分析が出ている。

     実際、専門家の中には「UFA選手の市場価値を活用することで、将来の資産を蓄えることができる」との見解もあり、単純な戦力削減ではなく若手育成とキャップ管理を両立させようとする戦略として受け止められている。こうしたトレード戦略の背景には、カナックスが組織全体の競争力を長期的に高めるため、現状の戦力バランスを再評価しているという評価もある。(canucksdaily.com
    ↩︎
  6. バンクーバー・カナックスがデビッド・カンプを1年契約で獲得した際、地元メディアや分析サイトでは「守備的なセンター補強として即効性のある補強」として評価された。カンプはこれまでシカゴやトロントでディフェンシブゾーンでのフェイスオフ勝率やペナルティキル能力に定評があり、その経験がカナックスの弱点だった守備構造やペナルティキル改善に寄与すると見られていた。

     特に、カンプのような「責任ある2ウェイセンター」は、チームがエリアス・ペターソンら攻撃的選手に負担をかけずにバランスを取るうえで有効であると指摘。また、契約が直前に終わったトロント時代とは違い、バンクーバーではトップ6のラインで重要な役割を与えられていること自体が戦術的な変化として注目され、ベテランの安定感が若手中心のチームに落ち着きをもたらしているとの分析も出ている。

     カンプがアイランダース戦で初ゴールを決めたことは、こうした戦術的配置変更が結果につながりつつあることの象徴的な例とも受け取れる。(NHL Insight
    ↩︎
  7. 現在バンクーバー・カナックスのスタンレーカップ・プレーオフ進出のオッズは決して高くないという見方が、北米の分析サイトでも広く報じられている。スポーツベッティング系メディアでは、2025-26シーズンの進出確率をおよそ10〜11%前後と評価し、プレーオフ入りは「十分に可能だが簡単ではない」と位置づけられている。

     これは過去シーズンの成績や、トレードによる戦力再編成、そして失点管理や得点力がまだ安定していないことを反映。具体的には、カナックスがポストシーズンに進むには連勝を続ける必要があり、他のワイルドカード争いのチームを追い越さなければならないとされている。(betcanada.com↩︎
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