ベテラン監督がいいのか、それともルーキーか。さあ、考えてみよう!

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はじめに 

 絶賛開催中・大谷祭りってるMLBはともかく、来月中旬にNFL、10月になると、NHL、NBAが相次いで開幕します。NHL各チームのロースターも固まりつつある中、それを束ねる監督も選手移籍ニュース並みに注目の的です。新監督は6人、NHL初見参の方に注目が行きがちです。 

 どんなスポーツでも同じですが、「新人監督とベテラン監督、どちらがいいんだろう?」というのは永遠の命題だと思うのです。フレッシュな新機軸でガラッとチームを変えてしまう若手監督がいいのか、修羅場をくぐり抜け、どんな場合にでも対応できるベテラン監督がいいのか。 

 今回は、ここ数シーズンのNHL監督の成績を分析し、この命題の解決の糸口を見つけようとする内容です。 

讃岐猫
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引用元:yahoo!sports「Is an NHL team better off hiring a veteran or rookie head coach?」。

NHL新シーズンに臨む新監督は6人!

 NHL2023-2024シーズンが始まり、リーグ全体を見ると、ベンチで指揮を執る新監督が6つのクラブで誕生します。

 この6人のうち3人はNHLで初めて監督を務めることになり、残りの3人はすでに他のチームでそのポジションに就いた経験を持つ人物です。

 この比率はリーグ全体を見た場合と一致しており、32人の監督のうち16人は、現在の仕事をする前にNHLの他のチームで監督をしたことがなく、残り半分は、リーグの少なくとも1つのチームで監督を務めた経験があります。

 —そして16人の多くは複数のチームで監督を務めた経験があるのです。

 リーグ戦の経験があり、少なくともある程度のベースラインとなる成功を収めている経験豊富な手段を選ぶべきかどうかは、よくある議論です。おそらく、プロアスリートのマネージメントを熟知している人でしょう。

 それとも、少々勇み足で大胆な行動かもしれませんが、新しくフレッシュな人材を雇い、次の偉大な監督を見つけようとすべきでしょうか。

経験豊富な監督と新人、どちらがいいか?

 リーグの全チームが次のジョン・クーパーを雇うために契約をします。しかし、途中で数匹のヒキガエルにキスをするかもしれません。

ジョン・クーパー=2013年3月、シーズン途中からライトニングの監督に就任。それ以前、ライトニング傘下のAHLチームの監督をしており、数々の勝利記録を打ち立てている。クーパーはNHLアシスタントコーチの経験がないだけでなく、プロ選手としてのキャリアもない。

ヒキガエルにキス=グリム童話『かえるの王さま』では「kiss a few frogs」とあり、ほんとうに魅力的なものを見つけるためにいろいろ試してみる、くらいの意味と思われる。ここでは「toads(ヒキガエル)」となっており、あまりいい意味で解釈すべきではない。

 リーグの現役監督一覧をざっと見ただけで、勝率でランクされた上位6人のうち5人が、それまでリーグで監督経験のない「新人」であることがわかります。同時に、勝率で下位5人の監督のうち4人は、(その就任したチームで)1年目のベンチボスでもあります。

※リーグの現役監督一覧=詳細は「List of NHL head coaches」を参照のこと。

 過去10回のカップ優勝チームのうち7チームは、新しいクラブで優勝する前、他のNHLチームを率いていた「経験豊富な」監督が指揮を取っていました。初めてのチームに雇われて優勝したのは、クーパーとあるいはジャレッド・ベドナーの2人だけなのです。 

ジャレッド・ベドナー=アバランチ史上、最多勝利監督。スタンレーカップを獲得した2021-22シーズン以外、プレーオフ1・2回戦負けが多いが、3シーズン連続ディビジョン1位は注目すべきであろう。 

 では、一般的に良いのは、経験豊富な監督と新人のどちらでしょうか。過去5年間に採用された全コーチの成績を見ると、両サイド(とても良い成績か、悪い成績か)にいる監督達の成績は以下の通りとなります。 

讃岐猫
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あの「3人の新人監督」の能力は抜群! 

 2018-2019シーズンが開幕してから、少なくとも1人のヘッドコーチしか採用していないチームは、タンパベイ、ピッツバーグ、コロラド、カロライナの4チームだけです(ロッド・ブリンダムールは2018年の夏に就任しました)。 

ロッド・ブリンダムール=2011年2月にハリケーンズで現役引退して4ヶ月後、同チームのアシスタント兼育成コーチに就任。2018年に監督へ昇格するまでの7年間、若手を見続け、チームの基礎を築いたのが現在の好調に繋がっていると思われる。 

 この4人の監督のうち3人はリーグの新人でしたが、それ以前に監督経験を持つマイク・サリバンはNHLの監督・コーチ職で10年間、各チームを渡り歩きました。当然のことながら、これらのコーチはいずれも高いレベルの成功を経験しており、彼らはいまだにそれぞれのチームに所属しています。 

マイク・サリバン=2015年にペンギンズ監督に就任していきなり、スタンレーカップ優勝。翌シーズンもカップを頭上に掲げるという快挙を達成している。しかし、それ以降は1回戦敗退が多く、昨シーズンは遂にプレーオフ進出とはならなかった。 

 2003年から2シーズン、ボストン・ブルーインズの監督を務めた後、ライトニング、レンジャーズ、カナックス等でアシスタント・コーチとして招聘されており、その手腕は高く評価されていた。 

 彼ら4人の記録について、ここでは他の監督の数字が出た後に追加します。 

  ボブ・マレー(アナハイム)、アラン・ナスレディン(ニュージャージー)、マーク・クロフォード(オタワ)、スコット・ゴードン(フィラデルフィア)のように、シーズン終盤を乗り切るための臨時監督はカウントしていません。 

「あの3人」が加わると、数字がぐんとアップ! 

 そのため、暫定監督を除くと、新たに採用された6人の監督のいずれかと、2018-2019シーズン初めからカウントし始める前、すでに就任していた監督(同じフランチャイズで監督を続けているかどうかにかかわらず)は、この期間において、リーグ全体で47人の監督が採用されたことになります。 

 この47人のうち20人は監督初体験でした。このことは、リーグが新人よりも既にNHLに在籍している(在籍経験のある)監督の再雇用を好む傾向があることを示しています。 

 20人の採用された監督は、過去5年間で総計39シーズン(コーチ一人あたり1.95シーズン)で監督を務め、プレーオフに20回出場しましたが、これは成功率51%です。 

 ただし、これにはブリンダムール、クーパー、ベドナーの任期を延長した「新人監督」3人は含まれておらず、彼らを含めると62シーズンで40回(65%近く)のプレーオフ出場と回数が膨れ上がります。 

讃岐猫
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ポスト・シーズンと新人監督の相性は? 

 ポストシーズンでは、(新人監督にとって)さらに厳しい状況が続きます。過去5シーズンで採用された新人監督は、プレーオフシリーズで28試合9勝を記録しており、成功率は約32%です。 

 実際に最も勝ち進んだ新人監督は、バブル期にモントリオール・カナディアンズでカップ決勝に進出したドミニク・デュシャームであり、次いでエドモントン・オイラーズでカンファレンス決勝に進出したジェイ・ウッドクロフトです。 

ドミニク・デュシャーム=現ゴールデンナイツのアシスタント・コーチ。決勝進出とはいえ、バブル期の混沌とした状態の中、運が味方した部分も大きい。翌シーズン(21-22)、極度の成績不振のため、シーズン途中に解雇。 

ジェイ・ウッドクロフト=現在もオイラーズ監督。21-22シーズン、暫定監督でありながら、カンファレンス決勝進出は立派。昨シーズンは2回戦で敗退、新シーズンを迎え、スター依存度の高い戦術がまだ通用するかどうか。 

 ブリンダムール、クーパー、ベドナーの3人を含めると、シリーズ勝利の53%近くを占め、クーパーとベドナーの間には3つのスタンレーカップがあります。 

 ブリンダムールは、5度のプレーオフ出場のうち4度(決勝に進出し)、少なくとも1度はプレーオフ・シリーズを制しています。 

 裏を返せば、経験豊富なコーチは、初期の失敗を乗り切るため、少し長めのロープ(契約期間)を掴んでいます。27人の監督は61シーズン(各監督2.26シーズン)で指揮を取り、33回、つまり54%の確率でプレーオフに出場しました。 

 契約を延長している、経験豊富なコーチのマイク・サリバンを含めると、69回中40回(58%)になります。 

チーム再建を託すには、やはりベテランか。 

 そのため、過去5シーズンに採用されたコーチの中で、経験豊富なコーチは概してプレーオフ進出回数が若干多いが、選手と一緒に仕事をするためのロープも長くなっています。 

 理想的とは言えない状況で雇われた経験豊富な監督は、継続するためにかなり早く自分自身を証明しなければならない新人と比較して、問題を解決するため、ある程度の時間が約束されるだろうと推測して間違いありません。 

 例えば、ジョン・トルトレラは、フィラデルフィアで開発に何年もかかるプログラムを構築する予定です。リンディ・ラフはニュージャージーで(トルトレラと)同じようなものを作る時間を得て、デビルズで4年目を迎えます。 

 ダラス・イーキンスはアナハイムで4シーズンを過ごしましたが、その間に目立った前進はなく、すべてを考慮しても4年目に悪化したと言っても過言ではありません。 

ダラス・イーキンス=詳細はこちら→

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プレーオフも経験が物を言う 

 しかし、プレーオフでは経験豊富な監督達の方が概して健闘しています。彼らは合計63回のプレーオフシリーズに参加し、39勝しており、これはほぼ62%の成功率です。 

 この数字は、過去5シーズンに採用された新人監督の32%を大きく上回っており、在職期間を延長し、非常に成功した新人監督を含めた数字、53%をも上回っています。 

 マイク・サリバンを含めると、割合はほぼ同じままですが(そっとしておきましょう、サリバン率いるペンギンズはここ4シーズン連続1回戦敗退です)、この時期にも2度カップを獲得しています。 

 「新人」監督の下での苦戦が目立ちます。例えば、ディーン・エヴァソンシェルドン・キーフは、(コーチ年数合計)10シーズンで、プレーオフシリーズは1回のみ勝ち上がりを記録しています。 

ディーン・エヴァソン=現ミネソタ・ワイルド監督であり、同チームがNHL初采配。就任した2019年から毎シーズン(4シーズン)、プレーオフに導いているが、全て1回戦負け(2019-2020シーズンはパンデミックのため、別方式だったが…)となっている。 

シェルドン・キーフ=現トロント・メープルリーフス監督であり、同チームがNHL初采配。こちらも、就任した2019年から毎シーズン(4シーズン)、同チームをプレーオフに導いているが、2回戦まで勝ち進んだ昨シーズン以外は1回戦負けとなっている。 

 なお、原文「Dean Evason and Sheldon Keefe are a combined 1-for-10 in playoff series」を、「コーチ年数合計10シーズンで、プレーオフシリーズは1回のみ勝ち上がり」とした。 

 両監督とも実質監督年数は4シーズンだが、エヴァソンは監督就任前にアシスタント・コーチを2シーズン務めており、それをプラスすると6シーズンとなる。 

 今すぐ勝ち進もうとしている(プレーオフ)経験豊富なチームは、誰に聞いても、成功を収めるため、経験豊富なコーチをターゲットにすべきだと示唆する正当なデータがいくつかあります。プレーオフシリーズは、82試合のレギュラーシーズンの消耗戦とは別の動物なのです。 

 直近のプレイオフでは、カンファレンス決勝ベンチのボス4人のうち3人(ブルース・キャシディ、ポール・モーリス、ピーター・デボア)が、新チームでの最初のシーズンを過ごしており、かつこれまでの経験豊富なコーチでした。 

ブルース・キャシディ=昨シーズン、就任1年目で見事ゴールデンナイツにスタンレーカップをもたらしたが、2002-2004年まで(2シーズン)キャピタルズ、2016-2022年まで(6シーズン)ブルーインズで監督を歴任。ブルーインズでは全シーズンプレーオフに導いている。 

ポール・モーリス=昨シーズン、就任1年目でパンサーズをスタンレーカップ決勝まで導く。56歳ながら、すでにNHLで6チームの監督を務めており、43歳の時(2010年)、NHL史上最年少で1,000試合采配した監督となる。 

 なお、OHL、AHL、そしてKHLでも監督経験があり、全てのチームでプレーオフに進出している。 

ピーター・デボア=昨シーズン、就任1年目でスターズをカンファレンス決勝まで導く。これまで5チームの監督を歴任しているが、最初に指揮を取ったパンサーズ以外、全てのチームをカンファレンス、あるいはスタンレーカップ決勝まで導いている。 

 裏を返せば、目標が単にプレーオフに進出することであれば、その差はごくわずかです。 

讃岐猫
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最初のチームで上手く行かなかったら、次も… 

 実際、経験豊富な監督側にも注意すべきことがあります。最初のチームで成功を収められなかった監督が2番目のチームに採用されると、経験のある監督であるはずなのに、さらに沈んでいくのが一般的です。 

 イーキンス(4シーズン、プレーオフ進出無し)、サンノゼのボブ・ボーナー(3シーズン、プレーオフ進出無し)、ラルフ・クルーガー(セイバーズで悲惨なシーズン1回)、ウィリー・デジャルダン(キングスでかろうじて平凡なシーズン1回)のようなコーチは、数字を右肩下がりにする傾向があります。 

ボブ・ボーナー=2017-18シーズン、パンサーズ監督に就任。2シーズン連続でプレーオフを逃したため、解雇。2019年12月11日、ピーター・デボアの解任を受け、ボーナーはシャークスの暫定監督に任命される。翌年9月22日、正式に監督就任。 

 3シーズン連続でプレーオフを逃した後、2022年7月1日、解雇。その1週間後、デトロイト・レッドウィングスのアソシエイトコーチに就任。 

ラルフ・クルーガー=カナダ出身のドイツ人。NHLでのプレー経験はなく、ドイツのリーグで活躍。引退後、オーストリアのリーグやスイス代表監督として、その手腕の非凡な一面を見せたものの、NHLでは全く通用せず。 

 2012-13シーズン、オイラーズの監督を1年で解雇。2019年にセイバーズの監督に就任したが、2021年3月に解雇。その時期、チームは12試合連続未勝利中だった。 

ウィリー・デジャルダン=WHLやAHLで名監督と言われていたが、NHLでは2014-15シーズンのバンクーバー・カナックス(プレーオフ1回戦敗退)以外、目立った成績を残していない。 

 2018年11月、キングスの暫定監督に就任、チームを浮上させることなく最下位のままでシーズン終了、そのまま解雇される。 

 当然のことながら、名前の横にこれまでの結果が付いてくる経験豊富な監督は、フリーで獲得できるようになると非常に需要が高くなり、そして、多くの場合、次の行き先について、質の高い選択肢という点で、自分で(チーム入りの)切符を切ることができます。 

 ベスト4に進出したばかりの経験豊富な3人の監督全員が素晴らしい状況に足を踏み入れ、そして、名誉のために言っておきますが、彼らも本当によくやってくれたのです。 

 今すぐ勝利を目指し、すでにある程度の成功を収めている経験豊富な監督を雇うことができるなら、それは理にかなった行動です。 

人材も大切だが、まずはチームの現状把握が一番 

 逆に、クーパー、ベドナー、ブリンダムールの成功を無視することも難しく、ルーキーとして入団した3人のコーチが、長きにわたって大成功を収めるプログラムを作り上げたからです。 

 もし再建中のチームであり、新人監督とベテラン監督とでは、プレーオフ進出の全体的な成功率の差がごくわずかであるとわかっているなら、サイコロを振って、次の偉大な若い監督を見つけようとするのは理にかなっていると思いませんか?リスクは見返りに見合う価値があります。 

 これらのコーチたちと交渉することは、その他、ロースターに関連する多くの事柄の中で、組織の持続的な成功につながっています。 

 経験豊富な監督を招聘して頂点を極める前に、たとえルーキー監督を雇ったとしても、彼がプレーオフチームへの復活を手助けしてくれた上で、次の偉大なプレーオフ監督を見つけるという意味で、(ルーキー監督に)賭ける価値はあります。 

 だから、問題は必ずしも全体的にどちらが優れているかということではなく、チームの現在の開発状況にとって、どちらが優れているかということかもしれません。 

まとめ 

 「再建まで数年計画で行こう」というチーム(フライヤーズがそう)もあれば、すぐに結果が出ないとメンツを保てないチーム(レンジャーズとか?)もあります。この辺のチーム設計はGMの性格や考えにもよるので、監督だけが責任を負うのはちょっと違うような気もします。 

 ペンギンズのように、デュバスGMにほぼ全権をあずけ、一気にチーム改革を推し進めたり、レッドウィングスのように、トレードでほぼチームを作り変えてしまったりもありますから、そういうワガママGM(?)と共同関係に立てる監督さんが、今のトレンドなのかもしれません。 

 トレーニング・キャンプやプレシーズン・マッチで、新監督がどんな指導や采配を見せるか。特にキャピタルズの監督に、いろんな意味で要注目です。 

讃岐猫
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