はじめに
フロリダ・パンサーズのベテランFW、ブラッド・マーシャンが見せたのは、リンク外での深い人間ドラマでした。親友J.P.マッカラムの娘・セラの死を受け、チームの理解を得て故郷ハリファックスへ戻ったマーシャン。
悲しみの中でも仲間への思いやりと絆を大切にし、ホッケーの枠を超えた「支え合う姿」を見せてくれました。💐
参照記事:NHL公式サイト「Marchand returns to Panthers following death of friend’s daughter」
🏒マーシャンの帰還と、セラとの深い絆
土曜日の朝、氷上に姿を見せたブラッド・マーシャンは、ゆっくりとセンターサークルへ向かいました🏒。そこでは、フロリダ・パンサーズのポール・モーリス監督が待っていました。
実はマーシャン、この1週間チームを離れていました。故郷ノバスコシア州ハリファックスに戻り、長年の友人であり元トレーナーでもあるJP・マッカラム1の家族のもとへ向かっていたのです。
10月24日、マッカラムの娘、セラちゃんは、わずか10歳という若さでがんのためこの世を去りました。マーシャンは幼なじみの仲間たちと共に、悲しみに包まれた家族を支えようと、すぐにハリファックスへ戻りました。
そして彼は土曜日のダラス・スターズ戦でチームに復帰。第1ピリオドでゴールを決め、さらにシュートアウトでも得点して、チームの4−3の勝利に大きく貢献しました。彼のプレーには、きっとセラへの想いも込められていたことでしょう。
マーシャンは練習後、「セラは本当に特別な子だった。これほど“本物”で、個性的で、愛情深い人に出会ったことはないよ」と語りました。そして、彼女が人々と深くつながる力を持っていたことを強調します。
「この1週間で感じたのは、彼女がどれだけ多くの人に愛されていたかということ。彼女には人と心を通わせる力があったね。私も家族も友人たちも、それを感じていた。どんなタイプの人とも自然に心を通わせられる、不思議な魅力があったんだ」。
マーシャンはまた、こうも語っています。「セラはいつも、あなたが特別な存在だと感じさせてくれた。愛情を伝えるのが上手だった。本当に悲しい出来事さ。彼女は10年という短い時間で、何百年かかってもできないほどたくさんの人の心に触れたと思うね」。
💙パンサーズが示した温かい理解
フロリダ・パンサーズは、マーシャンがチームを離れることに一切のためらいを見せませんでした。彼はハリファックスに滞在していた間、アナハイム・ダックス戦(3−2のシュートアウト負け)を欠場しています。
モーリス監督は、その決断について「話し合うまでもなかった」と語りました。「私たちは、何が本当に大切なのかを理解している💙。ホッケーはもちろんとても大事だが、それよりも優先すべきことがあるんだ。人生には、ホッケーの試合よりもずっと重いものがあるはずだ」。
そして監督は静かに続けました。「実際のところ、これは“決断”ではなかったよ。彼がどんなにつらい週を過ごしているかを皆分かっていたし、彼がそこにいることが何より大切だったんだ」。

普段、偏屈で毒舌家のモーリスだけど、チームの選手を守る気持ちは人一倍なんだにゃ。必要以上に選手を甘やかすことはないんだけど、さりげない気配りのできる人だと思う。チームメイトも思いやりに満ちた言葉を話すと同時に、マーシャンのキャプテンシーと親友を思う男気を讃えているのが印象的でした。
マーシャンは、チームメイトやフロリダ・パンサーズという組織全体からの温かいサポートに、心から感謝していると語りました。
「パンサーズの対応には本当に感謝している。監督のポールとGMのビル・ジトーに電話をしたら、2人とも“家に帰って、準備ができたら戻っておいで”と言ってくれたんだ。どんなチームや会社でも、そうは言えないんじゃないかな。家族や友人と過ごす時間をくれたことに心から感謝している。本当にありがたいと思ったよ」。
彼はまた、「彼らの人柄やこの組織のあたたかさを象徴する出来事だった」とも話しています。
11月1日、サム・ラインハート、マーシャン、サム・ベネットの試合後インタビューから。ラインハートもベネットも、「天国からマーシャンを見ているセラ」への心配りを感じさせてくれました。
マーシャンとJP・マッカラムは、マーシャンが12歳の頃からの親友。マッカラムは当時、マーシャンやその仲間たち――元NHLディフェンスマンのアンドリュー・ボドナルチャク2ら――を指導していました。
マーシャンは、昨季のスタンリーカップ決勝・第5戦の前に、セラからもらった絵を今でも大切にしています。その試合で彼は2ゴールを決め、チームは5−2で勝利しました。
🌸セラへの想いと、心を込めた追悼試合
「彼女は本当に素晴らしいアーティストだったね🎨。信じられないほどの才能を持っていた。絵を描くことで自分を表現し、人への思いや好きなものを伝えていたんだ」とマーシャンは語りました。
セラは、昨季のスタンリーカップ決勝第5戦の前にマーシャンへ絵を送り、「頑張ってね」とメッセージを添えていました。
「それが彼女のやり方だったんだ。人とつながり、あなたを思っていると伝えるために。僕はその試合で2ゴールを決めたけど、そのうちの1点は彼女に捧げたんだよ。彼女は本当に特別な方法で、愛情を伝えてくれる子だった」と彼は振り返ります。
マーシャンは、昨年のスタンレーカップ・プレーオフ1回戦(タンパベイ・ライトニング戦)でセラが南フロリダに来て、パンサーズの試合を観戦してくれたことも嬉しそうに話していました。
そして、6月17日――パンサーズがついにスタンリーカップを勝ち取った夜。ロッカールームでは、JP・マッカラムがマーシャンと肩を組み、優勝の喜びを分かち合っていました。
その後、ハリファックス滞在中の水曜日。マーシャンとボドナルチャクは、悲しみに暮れるマッカラムの代わりにベンチに立ち、U-18ホッケーリーグ「March & Mill Company Hunters3」の試合を指揮しました。会場はハリファックス・フォーラム。
マーシャンのアウトドアブランド「March & Mill Co.」がチームのスポンサーを務めており、特別なつながりを持つ場所です。
2人は公式のジュニア指導者資格4を持っていませんでしたが、ホッケーカナダが特例で認めました。この試合はセラを偲ぶ特別な一戦となり、会場には募金箱が設けられ、マーシャンは自身のパンサーズのユニフォームにサインをしてチャリティに提供しました。
地元ハリファックスのニュース映像から。マーシャンが熱心に指導する姿が印象的。
「その場にいられて、貢献できたことは本当に素晴らしい経験だった。小さなことでも、あの時間の一部になれたことがうれしかったんだ✨」とマーシャンは語っています。
まとめ
マーシャンが語った「彼女は10年で何千年分もの命に触れた」という言葉には、セラへの深い愛情と敬意が込められていました。ホッケーという競技の枠を越え、仲間や家族の絆、そして人を想う心の大切さを改めて感じさせる出来事。
リンクの上でも下でも、彼の姿勢は多くの人の胸に温かく刻まれました。🌈

ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 1975年3月3日、カナダ・ノバスコシア州ハリファックスで生まれたアイスホッケーのコーチ。学生時代にはニューヨーク州シェネクタディにあるユニオン・カレッジおよびハリファックスのセント・メアリーズ大学でアイスホッケー選手としてプレーし、生物学を専攻しながら英語を副専攻していた。
そこで培った知識を活かし、2000年には自身のパフォーマンストレーニング事業を立ち上げ、オフシーズンにおいてアイスホッケー選手向けの強化トレーニングを手がけ、ブラッド・マーシャン、アンドリュー・ボドナルチャクらを指導した経験もある。
2004年から2007年には母校セント・メアリーズ大学のアシスタントコーチに就任。その後、ハンガリーのプロクラブ・ドゥナウヤーヴァーロシュACのアシスタントコーチ、2009年にはヘッドコーチに昇格し、2011年まで務めた。
その間、ハンガリーアイスホッケー連盟でもU20ナショナルチームのヘッドコーチ、男子ナショナルチームのアシスタントコーチとして活動し、2012年スロベニアで開催された世界アイスホッケー選手権(ディビジョン1・グループA)にも携わっている。
さらに2012年には日本の東北フリーブレイズと契約し、2014年には同チームのヘッドコーチとしてアジアリーグ・チャンピオンシップを制覇。2016年3月にはデンマークのトップリーグ「メタル・リーガー」においてヘルレヴ・イーグルスのヘッドコーチに就任。
↩︎ - カナダ・アルバータ州ドラムヘラー出身、1988年7月11日生まれのディフェンスマン。彼はジュニア時代にケベック州ジュニアホッケーリーグ(QMJHL)でハリファックス・ムースヘッズに所属し、2006年のNHLドラフトでBoston Bruinsに128位指名されてプロの道を歩み始めた。
NHLではブルー・ブランズ、Columbus Blue Jackets、Colorado Avalancheなど複数チームでプレーし、その後はヨーロッパに渡りドイツのリーグでも実績を重ねた。
彼は守備的役割ながら、AHL(アメリカン・ホッケー・リーグ)での出場経験や、海外リーグ含む長いキャリアを通じて安定感を発揮し、「どこでも頼られる」ディフェンスとして評価されてきた。
こうしたバックグラウンドを持つ彼は、少年時代に並んでトレーニングを受けていたBrad Marchandらとともに、氷上だけでなくその成長過程でもつながりを持っていた人物。
↩︎ - ノバスコシア州コールハーバーを本拠とするU-18(18歳以下)チームで、ノバスコシアU-18メジャーホッケーリーグ(NSU18MHL)に所属。チームは地元の育成を重視しており、選手のロスターや試合結果、スタッツはリーグ公式ページやエリートプロスペクツなどで公開されている。
JP・マッカラムがヘッドコーチを務め、マーシャンが共同オーナーかつ自身のアウトドアブランド「March & Mill Co.」を通じてスポンサーをしていることでも知られており、地域コミュニティとの結びつきが強いクラブ。
先日の試合はハリファックス・フォーラムで行われ、地元メディアやリーグ側もチャリティや追悼の趣旨を伝えており、マーシャンが一時的にベンチに入るなど、地元に根付いたチーム運営とコミュニティ支援の姿勢が際立っている。
↩︎ - カナダホッケー連盟は、コーチの教育・認定を担う国家プログラムであるNational Coaching Certification Program(NCCP)を通じて、すべての年齢・レベルのアイスホッケー指導者に必要な知識・スキル・態度を提供している。
指導者レベルには「Coach 1(Intro to Coach)」「Coach 2(Coach Level)」「Development 1」「High Performance 1」などの段階があり、年齢層や競技レベルに応じてどの資格が必要かが定められている。
例えば、コミュニティレベルの若年層(U7・U9など)は比較的基礎的な「Coach 1」レベルならば“Trained”状態で十分な場合がある一方、U13以上やU18などより競技性の高いカテゴリーでは「Development 1 Certified」や「High Performance 1 Certified」が求められることもある。
また、各州/準州団体では“Trained”と“Certified”の違いも明確にしており、Trainedが研修を受けた状態で、Certifiedは研修+実技評価を終えた状態を指す。さらに、すべての指導者には、チーム安全・救急・差別防止などを扱ったオンライン教育モジュール(例:「Respect in Sport」)への受講も共通して義務付けられている。
↩︎

