ブルースが大胆な戦略を採用、オイラーズの2選手にオファーシート!

NHLチーム紹介

はじめに

 今の時期、NHL32チームのトップ6=攻撃の主軸になる、第1&第2ラインの6人の選手の顔ぶれ予想が行われます。そうなると、「もうそろそろ、移籍マーケットもおしまいかな」と思いがちですが、さにあらず、まだまだ補強に意欲を見せているチームがあります。

 このブログで「地味なチーム」と連呼している(失礼!)セントルイス・ブルースが、最近、大胆な決断を下しました。8月13日、エドモントン・オイラーズの制限付きフリーエージェントの選手2人に対し、ブルースは同時にオファーシートを提出しました。

 この世にも珍しい手法は、チームの戦略として注目されています。ブルースがどのようにこの選手たちにアプローチしているのか、また、オイラーズがこの状況にどのように対応するのか、その詳細と背景を掘り下げていきます。

讃岐猫
讃岐猫

引用元:espn.com(ESPN)「Blues tender offer sheets to Oilers’ Broberg, Holloway

ブルース、2人の若手有望株にオファーシートを同時提出

 セントルイス・ブルースは、他チームの選手にオファーシートを出すという珍しい手法を採用するだけでなく、その手法を2人に対して同時に実行しています。

 チーム(ブルース)は火曜日(8月13日)に、エドモントン・オイラーズのディフェンスマン、フィリップ・ブロバーグとフォワードのディラン・ホロウェイの両選手にオファーシートを提出したと発表しました。

 2人の制限付きフリーエージェントにオファーを出すのは、(ブルースにしては)大胆な戦略です。

 というのも、スタンレー・カップ決勝の第7戦に敗れたとはいえ、決勝シリーズ3連敗から挽回した(戦力は揃っている)エドモントンですが、今度はサラリーキャップに苦しんでいるからです。

 オイラーズは、NHLの団体交渉協定第10.3条に基づき、オファーに対して7日以内に応じる必要があります。

 しかし、それは簡単ではありません。ブロバーグには年俸458万ドルの2年契約が提示され、ホロウェイにも年俸229万ドルの2年契約が提示されています。

オファーシートとNHLの「団体交渉協定第10.3条」を勉強しよう

 オファーシート=NHLでチームが他のチームに所属する選手に対して、契約を結ぶために提示する契約条件のこと。これを使って、他チームの制限付きフリーエージェントと契約を結ぶことが可能。

 制限付きフリーエージェントは、契約が切れてチームを離れる可能性がある選手だが、その選手が移籍するには元のチームがその契約内容にマッチする必要がある。つまり、他のチームがその選手と契約しようとしても、元のチームが同じ条件で契約する権利を持っているからである。

オファーシートの仕組み

1.オファーシートの提出:あるチーム(ブルース)が他のチーム(オイラーズ)の制限付きフリーエージェント選手にオファーシートを提出。このオファーシートには、選手に対する契約の詳細(年数や金額など)が書かれている。

  1. 元のチームの選択:元のチーム(オイラーズ)は、そのオファーシートに対して「マッチ」するかどうかを決める必要がある。「マッチ」するとは、オファーシートの内容と同じ契約条件で選手と契約するということ。
  2. マッチしない場合:元のチームがオファーシートの条件にマッチしなかった場合、選手はオファーシートを出したチーム(ブルース)と契約する。その代わりに、元のチームにはドラフト指名権が補償として与えられる。これは、選手の価値に応じて異なる。
  3. 例えば、ブルースがオイラーズの選手に対してオファーシートを提出したとする。  もしオイラーズがそのオファーシートの条件を受け入れると、ブルースは選手を獲得できないが、もしオイラーズが受け入れなければ、ブルースはその選手を獲得し、オイラーズは補償としてドラフト指名権を得ることになる。
  4. この仕組みを使うことで、チームは他のチームの優秀な選手を獲得するチャンスを持つことができるが、元のチームには選手を失う代わりにドラフト指名権という形で補償を得られる。

NHLの団体交渉協定第10.3条

 NHLの団体交渉協定(CBA)は、リーグと選手会(NHLPA)が結んだ契約で、リーグの運営や選手の契約条件について定めている。その中の第10.3条は、オファーシートに関するルールを定めた部分となる。

 第10.3条は、他チームの制限付きフリーエージェント選手にオファーシートを提出し、その選手と契約するためのプロセスを規定している。元のチームには、選手を保持する権利があり、もし保持しなければドラフト指名権という形で補償を受け取ることができる。

 これにより、選手の移籍をめぐるルールが整理され、公平な契約プロセスが確保されることとなる。

オイラーズはサラリーキャップ調整の難題に直面

 オイラーズにとって、ブロバーグとホロウェイの新契約は重要な課題でした。両選手は制限付きフリーエージェントで、チームがコントロールできる状態にあります。オファーシートが出されたことで、オイラーズは短期間で財政面を含む選択肢を整理することを余儀なくされています。

 現在、エドモントンはサラリーキャップを35万ドル以上オーバーしています。

 第7戦から2週間も経たないうちに、オイラーズはフリーエージェントを利用してフォワードのビクター・アービッドソンとジェフ・スキナーを獲得し、ディフェンダーのジョシュ・ブラウンと契約しました。

 また、フォワードのコナー・ブラウン、マティアス・ヤンマーク、アダム・エンリケ、コーリー・ペリー、そしてディフェンダーのトロイ・ステッチャーと再契約を結びました。

 エドモントンは、ブロバーグとホロウェイのオファーに応じるために、サラリー調整を行う必要があります。一方で、ブルースは700万ドル以上のキャップスペースがあります。

 もしオイラーズ側とオファーシートの内容が折り合い付かない場合、(選手を放出した)オイラーズは補償としてドラフト指名権を獲得することになります。ブロバーグに対しては(2025年の)2巡目、ホロウェイに対しては3巡目の指名権がそれぞれオイラーズに与えられます。

 ブルースは必要な指名権を得るためにペンギンズと取引を行い、自分たちの2025年の2巡目指名権とピッツバーグの2026年の5巡目指名権を、ブルースの2026年の2巡目指名権と2025年の3巡目指名権(もともとオタワ・セネターズ所有)と交換しました。

2人の若手について

 ブロバーグとホロウェイは、NHLのレベルに達した地元出身の育成選手として最も新顔となります。

 ダーネル・ナース、ライアン・ニュージェント・ホプキンス、スチュアート・スキナーなどに加え、スーパースターのコナー・マクデイビッドとレオン・ドライサイトルなどの選手達と同様、育成からトップ・チームへと昇進させるモデルが成功を収めてきたフランチャイズの特徴を示しています。

 ブロバーグとホロウェイは過去数シーズンにわたってNHLとAHLを行き来しており、2024-25シーズンにはより重要な役割を果たすことが期待されています。

 ブロバーグは昨シーズン、12試合に出場し、アイスタイムで平均15分47秒を、プレーオフでは10試合で3ポイントをそれぞれ記録しました。

 ホロウェイは昨シーズン、38試合で6ゴール・9ポイントを挙げ、オイラーズがカップ決勝に進出した際にも25試合で5ゴール・7ポイントを記録し、安定したプレーを見せました。

さらに2人を説明すると…

※フィリップ・ブロバーグ=エドモントン・オイラーズから2019年ドラフト1巡目(8位)で指名され、2020年にNHLにデビュー。身長約191cmで、体格の良いディフェンダーの割にスケーティングが優れており、速い展開のゲームにも対応できる。

 まだ経験が浅いため、NHLとAHLを行き来しながら、さらに多くの試合に出場し、チームに対して重要な役割を果たすことが期待されている。

86番の選手です。

※ディラン・ホロウェイ=ホロウェイはNCAAウィスコンシン大学でプレーしており、その活躍ぶりがプロスカウトの注目を集めた。大学では得点力とプレーの幅広さが評価され、2020年のNHLドラフトで、エドモントン・オイラーズから1巡目(14位)で指名。2021年にNHLにデビュー。

 ホロウェイはスピードがあり、スケーティングの上手さとハンドリング能力を持ち、相手ディフェンスをかわして得点を狙うのが得意なプレーである。また、パスセンスもあり、すでにチームメイトとの連携を生かしてプレーすることができている。

 記事にもあるように、昨シーズンは、出場した試合で安定したパフォーマンスを見せ、チームのプレーオフ進出にも貢献した。

55番の選手です。2人へのオファーシートについては、ユーチューバーの間でも議論沸騰!

引用元:nhl.com(NHL公式)「Broberg, Holloway each get offer sheet from Blues; Oilers can match

2人のオファーシート対象選手の詳細

 フィリップ・ブロバーグとディラン・ホロウェイは、火曜日にセントルイス・ブルースとそれぞれオファーシートに署名しました。

 エドモントン・オイラーズは、8月20日(火)までにこのオファーにマッチして制限付きフリーエージェントの選手を保持するか、そうでなければブルースからNHLドラフトの補償を受け取ることになります。

 ブロバーグの契約(2年、916万ドル;年間平均458万ドル)には、補償として2巡目のドラフト指名権が必要です。ホロウェイの契約(2年、458万ドル;年間平均229万ドル)には、3巡目のドラフト指名権が必要です。

 ブロバーグは昨シーズン、オイラーズでレギュラーシーズン12試合に出場し、2アシストを記録しました。スタンレーカップ・プレーオフでは10試合に出場し、3ポイント(2ゴール、1アシスト)を挙げました。

 2019年のNHLドラフトで1巡目(8位)で指名された23歳のディフェンダーは、(キャリア通算)レギュラーシーズン81試合で13ポイント(2ゴール、11アシスト)、プレーオフ20試合で3ポイント(2ゴール、1アシスト)を記録しています。

 ホロウェイは22歳で、昨シーズンオイラーズでレギュラーシーズン38試合に出場し、9ポイント(6ゴール、3アシスト)を挙げました。スタンレーカップ・プレーオフでは全25試合に出場し、7ポイント(5ゴール、2アシスト)を記録しました。

 2020年のNHLドラフトで14位で指名されたフォワードは、(キャリア通算)レギュラーシーズン89試合で18ポイント(9ゴール、9アシスト)、プレーオフ26試合で7ポイント(5ゴール、2アシスト)を挙げています。

最近のオファーシート使用例

 選手のチーム移籍につながる最近のオファーシートは、2021年8月28日にモントリオール・カナディアンズのフォワード、イェスパリ・コッキエミに対して出されたもので、コッキエミはカロライナ・ハリケーンズと1年・610万ドルの契約を結びました(現在もハリケーンズ在籍)。

 モントリオールは補償として1巡目と3巡目のドラフトピックを受け取りました。

 今回のオファーシートは、1998年以降で11番目と12番目のものとなります。

 オファーシートによって選手を失ったチームへの補償は、1年間151万ドル以下の契約には補償がないのに対し、年間1145万ドルを超える契約には4つの1巡目ドラフト指名権が必要となります。

讃岐猫
讃岐猫

まとめ

 セントルイス・ブルースのフィリップ・ブロバーグとディラン・ホロウェイに対するオファーシート提出は、チームの戦略的な意図とエドモントン・オイラーズのサラリーキャップの制約を背景にした大胆な動きです。オイラーズからすれば、「足元見やがって」って感じです。

 オイラーズはサラリーキャップの制約を解消するためのトレードや契約調整をするでしょうから、これによりチーム構成や選手の流動性が変わる可能性があります。冒頭で触れたトップ6が変わることはないでしょうが、次世代育成への影響は大です。

 いずれにせよ、両チームにとって重要な転換点となるこの状況は、NHLファンにとっても見逃せません。2人の選手の今後のパフォーマンスや、チーム戦略の変化がどのようにリーグ全体に影響を及ぼすのか、注視していく必要があります。

讃岐猫
讃岐猫

【註釈】

  1. チームへの補償は、…=補償の内容は、オファーシートで提案された契約の金額によって異なる。契約金額が高いほど、当然補償も高くなる。具体的には以下のようになる(2024年8月現在。以前のシーズンと比べると、規定がかなり細分化されている):

    年間金額が151万ドル以下:補償なし。
    年間金額が151万ドルを超え、230万ドル以下:補償として3巡目指名権。
    年間金額が230万ドルを超え、460万ドル以下:補償として2巡目指名権。
    年間金額が460万ドルを超え、690万ドル以下:補償として1巡目と3巡目指名権。
    年間金額が690万ドルを超え、920万ドル以下:補償として1巡目、2巡目と3巡目指名権を1つずつ。
    年間金額が920万ドルを超え、1145万ドル以下:補償として2つの1巡目、2巡目と3巡目指名権を1つずつ。
    年間金額が1145万ドルを超える:補償として4つの1巡目指名権。 ↩︎
タイトルとURLをコピーしました