最恐と呼ばれるザドロフが体現する覚悟のプレーを数字と証言で検証

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はじめに

 NHLで“最恐”の名を取り戻しつつあるボストン・ブルーインズのニキータ・ザドロフ。マシュー・シェイファーやオーストン・マシューズへの激しいヒットで大きな話題を呼び、相手を吹き飛ばすプレーも、試合後の“口撃”も一切遠慮なし。

 もともとは攻撃型だった彼が、なぜここまで“覚悟”あるディフェンスマンへ進化したのか。その背景に迫ります🔥

参照記事:The Hockey News「Meet Nikita Zadorov, The Hard-Hitting ‘Goofball’ Who Has Become Public Enemy No. 1

🟦再び“最恐”になったビッグZ

 ボストン・ブルーインズのディフェンスマン、ニキータ・ザドロフが、またとんでもない存在感を見せています😅マシュー・シェイファーやオーストン・マシューズへの“疑わしい”ヒットの連発で、彼は再び「NHLで最も危険な男」と呼ばれるようになってきました。

 ロシア出身のザドロフが2012年にカナダへ来た時、英語はほとんど話せませんでした。そこで、ロンドン・ナイツ(OHL)のロッカールームで子ども向けの本を読みながら英語を覚え、チームメイトによれば、彼が最初に覚えた言葉のいくつかは、仲間に向かって冗談で投げかけていた「悪口」だったというエピソードもあります。

 オンタリオ州ロンドンでザドロフと2シーズン過ごしたライアン・ルパートは、「大きなガキみたいなやつだった」と笑って語っています。

 対戦相手──そして相手チームのファン──にまで口をきくようになった今でも、ザドロフは相変わらず「お調子者キャラ」なのかもしれませんが、確かなのは、30歳になったボストン・ブルーインズのディフェンスマンが、もう“お行儀よく”プレーしてはいない1ということです。

 彼を“ダーティー”だとか“チープショット2の常習犯”と呼びたければ呼べばいいのです。そう呼ばれてもおかしくないほど、とにかく当たりが激しいんです。

 10月にはバッファロー・セイバーズの若手ディフェンスマンのオーウェン・パワーに強烈なヒットを見舞ってベンチへ吹き飛ばし、バックアップのユーナス・コルピサロの膝の上にまで送り込みました。

 2週間前には、ニューヨーク・アイランダーズのルーキー、マシュー・シェイファーへヒットからの顔面クロスチェック3を入れたことで、ロングアイランド中のファンが彼の名を罵る事態になっています。先週にはトロントのスコット・ロートンにも強烈なオープンアイスヒット4で負傷させました。

 NHL11年目のシーズンが始まって1か月、ビッグZは氷の上に倒れ込む選手を次々と増やし、氷の上に“倒れた選手の山”が積み上がっていくような状態です💥リーグ随一のハードヒッターとしての存在感を取り戻しているようです。

地元ボストンのレッドソックス戦で始球式(向かって左がザドロフ)。さすがに大人しくしてます。

🟩ビッグZのヒットは“普通”?本人の言い分とは

 火曜日には、トロント・メープルリーフスのキャプテン、オーストン・マシューズがザドロフの背後からのヒット5で下半身を負傷し、ロッカールームへ下がることになりました。

 とはいえ、身長6フィート7インチ(約201cm)・体重255ポンド(約116kg)の巨体がぶつかれば、どんなプレーも“怪しく”見えてしまうのは仕方ないのかもしれません😅

 ザドロフは記者に対し、「ただの普通のプレーだ。自分は本気でヒットしたわけじゃない。右肩に当たったんだよ。NHLでの自分のヒットの99%は右肩さ」、「本当に彼を傷つける意図なんかなかった。他チームのトップ選手にハードに行くのが自分の仕事だからね」と淡々と説明しています。

 実は、ジュニア時代のザドロフはこうしたハードヒット型の選手ではありませんでした。ロンドン・ナイツ時代はパワープレーのスペシャリストで、36試合で11ゴール・30ポイントという攻撃的な選手だったんです。

 しかしNHLでは、彼は自分のプレーを、より“守備職人”の方向へ進化──というより、ある意味“逆行”したような形で、ディフェンシブ・ディフェンスマンとして、自陣に入ってくる相手を容赦なく叩き潰す、罰を与えるタイプになっていきました。

 当時のチームメイト、ルパートも「個人的には、彼のような守備的ディフェンスマンがこれだけ注目されているのは、正しいプレーをしているから。それはつまり、彼が成功しているということさ。なぜなら彼は相手チームの選手たちを狂わせているんだから」。

 「マシューズも倒したし、その前の週にはロートンも倒した。トッププレーヤーたちの神経を逆なでしているんだ。昨夜のヒットが“悪質”だったとは思わないね。『ビッグZ』がリーグで成功するためには、ああいうプレーをする必要があるんだよ」と語っています。

 さらに追い打ちをかけるように、ザドロフは試合後の“口撃”6でも止まりません。あの骨が折れそうなボディチェックと同じくらい、試合後コメントも容赦なしです💬🔥

スタートはバッファロー・セイバーズ。2013年、1巡目・全体16位指名。名うてのジャーニーマンであり、壊し屋。

🟨試合後コメントも激しい!“口撃”が止まらないザドロフ

 シェイファーへのヒットでは、インターフェアとラフの反則を取られたザドロフですが、試合後には冗談めかして「今季はもっとペナルティ分数を伸ばしたいんだ」とコメント。これは、昨シーズンにリーグ最多となる145分のペナルティを記録したことを踏まえたコメントであり、余裕すら感じさせます😅

 さらに、アイランダーズファンがインスタに押し寄せて罵倒すると、彼は「俺のDM(ダイレクト・メール)から出てけ。そしてリンクへ行って自分のチームを応援しろ。今日のお前らの会場は“図書館”7だったぞ🔥!!!」と真っ向から言い返しました。

 ルパートも当時を振り返り、「他チーム相手にどれくらい口をきいていたか覚えてないけど、僕らに対しては本当によくしゃべってた」とザドロフの“トラッシュトーク8癖”について語っています。

 「彼はいつも冗談を言ったり、ふざけたりしていたな。カナダに来たばかりの頃は英語が全然だったけど、ロッカールームで子どもの本を読んで少しずつ覚えていった。時間が経つにつれ、彼の英語はかなり上達していった」と話し、今の彼の“英語力と口の悪さ”の原点はここにあるようです📚😄

 ザドロフは英語だけでなく、プレー面でも確実に進化しています。ザドロフはずっと相手選手にとって厄介な存在でしたが、ボストンと契約した後は、スタンレーカップを勝ち取った頃のブルーインズの古い映像を研究し、「ブルーインズ・ホッケー」を理解しようと努めたと記者に語っています。

 その成果はすでに数字に表れていて、18試合でリーグ4位の65ヒット(昨季の219回はリーグ20位)、ペナルティ分数も31分でリーグ4位タイという凄まじいスタートを切っています😅。

 ルパートは彼について「これは彼のプレーの一部としてずっとあったものだと思う。ロンドンでプレーしていた頃は今みたいに250ポンドはなかったけれど、当時から“重い選手”だった。体重計の針をいつも押し上げてたタイプだね」。

 「レベルが上がればもっと上手いやつが出てくる。だから彼は“犬のように戦って、嫌われ者にならなきゃいけない”と気づいたんだと思う」と語っています。

讃岐猫
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🟧まとめ

 ニキータ・ザドロフは単なる大柄なディフェンスマンではなく、NHLで生き残るために誰よりも激しく、嫌われる存在になることを選びました💥試合での強烈なヒットもSNSでの挑発コメントも、彼の覚悟の表れ。

 ブルーインズ加入後は過去映像を研究し、自分の役割を理解してプレーを研ぎ澄ませています。このスタイルが、彼を“最恐ディフェンスマン”たらしめているのです🔥

讃岐猫
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【註釈】

  1. 北米ではザドロフを巡る一連のプレーを、「議論の的だがチームにとっては機能している」といった見立てで伝えられている。ある報道では、ザドロフの一連の強烈なヒットを「汚い」と批判する声と、「単にハードにプレーしているだけ」と擁護する声が拮抗していると指摘され、チーム間で受け止め方が割れていると報じられている。

     また、マシューズ負傷後はリーフス側や地元解説陣が強く反発し、チームの“守りの姿勢”や対応のまずさを問う論調も出ている。公式の試合報告や速報も、被害選手の負傷や出場見合わせといった事実を伝え、選手安全と審判の判断を巡る議論が続いていることを伝えている。
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  2. cheap shotとは、相手選手が予期せぬ状態や不用意な状況にあるときに行われる、隠れた・卑劣な・違法な接触行為を指す。通常のボディチェックとは異なり、相手がパックを持っていなかったり、プレーから離れていたり、背後や盲点からのヒットであることが多く、故意に負傷させる意図を含む場合もある。

     ルール上は「インターフェア(妨害)」「ラフ(乱暴な当たり)」「ヒット・トゥ・ザ・ヘッド(頭部へのヒット)」などの反則や懲罰対象となりうる行為として扱われ、リーグや審判からの処罰や議論の対象となることもある。

     このように、チープショットは「体育的な接触プレー」の範疇を超え、競技の安全性やスポーツマンシップを損なう要素として、メディアや関係者からも問題視されている。
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  3. Cross-check to the faceとは、選手が両手でスティックのシャフト(ブレードではなく棒の部分)を握って、肩や腕ではなくスティックの棒部分で相手の顔や頭に強く押し当てるような当たりをする反則行為を指す。

     NHLルール(Rule 59)では、このような行為が明確に禁止されており、審判は接触の強さや危険度に応じて「マイナーペナルティ(2分)」「メジャーペナルティ(5分+試合追放)」「マッチペナルティ(故意に相手を傷つける意図があると判断された場合)」を科すことができると定められている。

     また、相手の顔や首など頭部にスティックを当てる行為は「ヘッドコンタクト(head contact)」とみなされ、さらに重い処罰の対象となるケースもある。実際、NHLでは顔面へのクロスチェックを行った選手が重大なペナルティや出場停止・罰金を科される例もあり、故意性や強さによっては厳しい裁定が下される危険な反則とされている。
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  4. アイスホッケーにおける“a huge, open-ice hit”とは、氷面の壁(ボード)付近ではなく、リンクの中央(オープンアイス)で行われる、大きくて強い体当たりを指す。この種のヒットは、高いスピードで滑走しながら相手選手に突進し、一瞬で大きな衝撃を与えるもので、しばしば「美しいクリーンヒット」と賞賛されることもある。

     一方で、審判やファンの間では「インターフェア(妨害)」と判断されないか、危険性が議論になることもあります。
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  5. 火曜日の試合で、マシューズは背後からザドロフのヒットを受けて下半身を負傷し、ゲームから離脱。この瞬間、メディアは「リーフズの主力が早々に退くという痛手」を強調し、特にアナリストのブライヤン・ヘイズは「この“ビッグ・ガイ(=マシューズ)”がいなくなるとチームの軸が揺らぐ」と懸念を示した。

     一方、チーム側は負傷の深刻度を明言せず「数ゲーム欠場の可能性」と報じられているものの、復帰時期を明らかにせず、状況を精査中とした。

     また、メディア分析では、リーフズがこのヒットへの“反応”を示せなかった点が批判されており、「体を張って守る姿勢に欠けている」「ザドロフのプレッシャーに対してチームがうまく対応できていない」といった論調が挙がっている。

     ザドロフ側はヒット直後の記者会見で「普通のプレーだった」「本気で傷つける意図はなかった」と説明したが、チーム・メディア・ファンの間では“背後から”“主力選手に”というインパクトのある対象を狙った行為として、より強い反発を呼んだ。

     総じて、マシューズ離脱による損失だけでなく、この一連のプレーを契機にリーフズの“態度/守備姿勢”への疑問が浮上し、リーグ内でも話題となっているという状況。
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  6. 2025年3月にボストン・ブルーインズがロサンゼルス・キングスに7-2で大敗した試合後、ザドロフはゴールテンダーのジェレミー・スウェイマンに対して辛辣なコメントを発した。記者からスウェイマンがチームメイトをかばおうとした行動についてどう思うか問われた際、「それが何なのか?わからない。ノーコメントだ」と冷たく返答。これにより、ロッカールーム内に不協和音があるとの憶測も浮上した。

     後にザドロフは「あの発言はメディアに誤解された」と釈明し、「当時はただ試合後の苛立ちがあっただけ」でスウェイマン個人を否定する意図はなかったと語っている。

     また、2025年2月には、ブルーインズ対オタワ・セネターズ戦で、ザドロフがマイク付きヘルメット(mic’d up)状態で試合中にブレイディ・カチャックに対して挑発的な言葉を投げかけるシーンが報じられている。例えば「お前、兄より小さいくせに男として劣るのか?」というような挑発的な発言も記録されており、彼の“言葉でも相手を揺さぶる”スタイルが顕著。

     さらに、チームメイトや自チームに対しても容赦がなく、2025年1月には3対1で勝利した試合後に、ザドロフは自チームのペナルティキル(相手のパワープレーへの対応)について「うちのPKは0失点か3失点のどっちかだ。中間がない」と批判。こうしたコメントは、彼が単に敵を挑発するだけでなく、チームの不安定な部分を声に出して喝を入れるキャラクターでもあることを示している。
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  7. 「図書館」という言葉がこの文脈で使われている場合、直訳的な意味ではなく皮肉や比喩として、「観客がまるで静まり返った図書館のように反応が鈍く、盛り上がらなかった会場」という意味。

     つまり、Nikita Zadorovが「今日のお前らの会場は‘図書館’だったぞ」と言ったのは、対戦相手側ファンを煽るために用いられた表現で、「お前らの応援や雰囲気がまったく活気なく静かだった」「俺のプレーを見て動揺して声を出せなかった」というニュアンスを含んでいる。

     スポーツ・ファン文化の中では、「図書館」という単語を使って“観客が静かだった”“盛り上がりに欠けた”ということを揶揄する用法が散見される。たとえば、カナダのサッカークラブのファン掲示板では「Is this a library endorsement?」といった書き込みがあり、応援が静かすぎる会場を皮肉る表現として使われている。
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  8. trash-talkとは、主にスポーツ競技において、選手が対戦相手に対し意図的に侮辱や挑発的な発言を投げかけて、相手の集中力や自信を揺さぶろうとする言葉の攻防を指す。

     例えば、コート上の発言が相手のプレー意欲をそぎ、心理的優位を得るための戦略として機能するという研究もあり、負の言葉が脳の前頭葉に影響を与え、動機づけや集中力を低下させる可能性があるとされている。

     トラッシュトークは「友好的な冗談」から「心理戦・いやがらせ」に至るまで幅広く、コンタクトスポーツや高レベル競技でより顕著に見られる傾向がある。 ↩︎
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