はじめに
2024年6月に行われたドラフトは、ミネソタ・ワイルドにとって、いい意味で波乱含みのものとなりました。フィラデルフィア・フライヤーズによる謎の「お先に指名してどうぞ」、つまりワイルドより1つ前の指名権を譲ってくれたため、ワイルドは願ってもない逸材を手に入れたからです。
是が非でもブルーラインを強化したかったワイルドは、ドラフト前から注目されていたディフェンダー、ゼーブ・ブイウムを取り逃すはずがありませんでした。トップ・チームが彼を指名したということは、ディフェンスマンとしての新たな基準を示すものであり、近年のアイスホッケー界でのポジションの変化を象徴しているのです。
フライヤーズの謎の「指名権放棄」、NHLドラフトの黒歴史として語り継がれるかもしれないにゃ。これ以外にドラフト当日における目立った指名権譲渡が無かったため、余計に目立ったんだよね。米国のフライヤーズ・ファンサイトが怒りと嘆きに満ちたのは言うまでもない。
引用元:hockeywilderness.com(HOCKEY WILDERNESS)「Zeev Buium Brings A New-Age NHL Skillset」
昨年のドラフトとブイウムの指名
昨年のドラフトは、ミネソタ・ワイルドにとってストレスの多いものでした。この大事な日を前にした週に、ミネソタが自分たちのドラフト指名権をトレードして、よりNHLで即戦力となる選手を獲得する可能性があるとの噂が流れていました。
それどころか、彼らはブルーラインの将来を強化するため、本物の逸材を手に入れました。
全体12位で指名されたゼーブ・ブイウムは、ホッケー・ワイルダネス1のトッププロスペクト・ランキングに「クールエイドマン2」として名を連ね、リストの3位に初登場しました。
「クールエイドマン」、いかにも米国らしいキャラです…。
ブイウムが予想以上にドラフト・ボードで下位に滑り込んでくれたことが、ワイルドにとって幸運でした。一時期、ディフェンスの才能ある若手選手がワイルドに豊富にいましたが、その中の誰もトップペアになる可能性を示すほどに成長していませんでした。
しかし、ブイウムはそのような可能性に満ちています。
28番の選手です。彼の活躍をダイジェスト版でどうぞ。
過去の攻撃的ディフェンダー達
彼は、2003年の悪名高いドラフト3でブレント・バーンズ(現在、カロライナ・ハリケーンズ所属)を1巡目で指名して以来、ワイルドが備えていなかったブルーラインからの攻撃力を持っています。
しかし、バーンズはより素質のある選手であり、彼がフォワードになるのかディフェンスになるのか、ワイルドとしては確信を持てませんでした。それでも、彼はサンノゼ・シャークスにトレードされた後、ディフェンスに固定されてから殿堂入り級のキャリアを送っています。
(ディフェンダーでありながら)マット・ダンバ(現在、ダラス・スターズ所属)はワイルドの次の攻撃的有望株であり、ゲームを変えるディフェンスマンに成長することを多くの人が望んでいました。彼は時折閃光を放ちました。
しかし、ワイルドが彼を(全体で7位、2012年)ドラフトした時期も、リーグ全体のコンセンサスが「ディフェンスマンが攻撃面で4最も影響を与える方法は、ポイントからの強力なシュートである」とされていた時期でした。
大きな肩の怪我(2018年12月15日、ウィニペグ・ジェッツ戦。肩の脱臼や肩の靭帯損傷)と新しい時代のダイナミックなディフェンスマンの登場により、ダンバのワイルド史上最高の攻撃的ディフェンスマンになる能力(の成長)は阻まれました。
ディフェンスの進化と期待
おそらく、過去10年間のアイスホッケー界において、5リーグの全選手達の中で、最も重視されるものが何を意味するかについて、ディフェンスマンほど大きく変化を見せたポジションはないかもしれません。この変化が、ブイウムに対する大きな期待を生んでいます。
10年前、ジェームズ・ノリス・メモリアル・トロフィーの得票数でトップに立ったのは、ズデノ・チャラ(206センチ、113キロ。ボストン・ブルーインズなど)、シェイ・ウェバー(193センチ、104キロ。ナッシュビル・プレデターズ)、
ライアン・スーター(185センチ、92キロ。ミネソタ・ワイルドなど)、アレックス・ピエトランジェロ(190センチ、97キロ。セントルイス・ブルースなど)などの大きくて身体的に威圧感のあるディフェンスマンたちでした。
このルールの唯一の例外は2014年の受賞者ダンカン・キース(シカゴ・ブラックホークスなど)でした。しかし、彼も6フィート1インチ(185センチ)、196ポンド(89キロ)で、決して小柄なブルーライナーではありませんでした。
全員が攻撃的なタッチを持つ多才なディフェンスマンでありましたが、ほとんどの人は彼らのスキルセットがディフェンス重視であると考えていました。
それから10年が経ち、今年のノリス賞の投票結果は全く異なる様相を呈しています。
クイン・ヒューズ(178センチ、81キロ。バンクーバー・カナックス)、ローマン・ヨシ(185センチ、91キロ。ナッシュビル・プレデターズ)、ケール・マカール(180センチ、84キロ。コロラド・アバランチ)、アダム・フォックス(180センチ、82キロ。ニューヨーク・レンジャーズ)、
エバン・ブシャール(190センチ、87キロ。エドモントン・オイラーズ)がトップ5の投票者でした。
5人のうち3人は身長が6フィート未満で、ヨシだけが195ポンド以上の体重です。
共通のテーマは? 5人全員が、ポイント(ブルーライン)から攻撃を生み出すゲームチェンジャーであることです。
これらノリス賞最終選考に残った選手のほとんどが、ディフェンス・ゾーンに閉じ込められると、せいぜい平均的なプレーしかできなかったと主張する人もいますが、それはもはや重要ではありません。
もしブルーラインからフォワード並みの生産性を提供でき、かつ守備面で完全に穴が開いていないのであれば、今日のゲームでは最高のディフェンスマンの一人として評価されます。
ダンカン・キースが2014年にノリス・トロフィーを獲得したとき、彼は61ポイントを記録しました。今年のノリス・トロフィーを受賞したヒューズは、キースよりも多くのアシスト(75)を記録し、合計92ポイントで終了しました。うん… ゲームは少し変わったと思います。
今は組織的に守れるかどうか、そのチームの約束事に順応できるかどうかで、選手のポジションが決まるからにゃ。ディフェンダー=身長高くて、ごっつい選手専門というイメージはほとんどない。それがあれば、より有利なんだろうけど、そうでなくても全然オッケー、門戸開放って感じ。
ブイウムのキャリアと将来
ブイウムがワイルドに加入することにより、チームは近い将来スタンレーカップ争いに加わることを望んでいます。ブイウムは、現在のチームや若手有望株達の中で、誰も持っていない攻撃的な可能性をディフェンス陣にもたらします。
新入生として、ブイウムはデンバー大学パイオニアーズを全国選手権優勝(通算10回目)に導きました。42試合で50ポイントを記録し、その結果、ドラフトで着実に頭角を現すことにつながりました。
シーズン中、マックリン・セレブリーニが全体1位指名候補として長々と話題に上る中、ブイウムは1月の世界ジュニア選手権で米国代表として金メダルを獲得し、セレブリーニとカナダ代表は無冠に終わりました。
3月、はるかに戦力的に劣るデンバー大学パイオニアーズを、ブイウムは再び全国タイトルに導き、セレブリーニ率いる充実した戦力を持つボストン大学テリアーズを破りました(スコアは2-0)。しかし、ブイウムの強みは攻撃面だけではありません。
ハイライトをどうぞ。
この試合で過小評価されている部分、そして彼がワイルドのファンを興奮させているのは、相手チームのスタートを封じる能力にあります。
ブイウムのボストン大学に対するフローズン・フォー(米国の大学アイスホッケーの最高峰の大会で、シーズン終了後に行われる4チームによる決勝トーナメント)での勝利は非常に印象的で、最終的にホビー・ベイカー賞を受賞したセレブリーニも彼のプレイを絶賛しました。
「彼が氷上で一番の選手だったと思うね」とセレブリーニは言いました。「彼は毎回出場するたびにプレーのテンポをコントロールしており、彼が氷上にいるときはあまり何も起こらなかった」。
最も良いニュースは、この二刀流の才能がチームに到着するまで、ワイルドのファンが長く待つ必要がないことです。
ブイウムはシーズン終了前にセントポール(ミネソタ州の州都、ワイルドのホーム「Xcel Energy Center」がある)に到着する可能性があり、その際に観客が彼の初めてのパック回収に期待して立ち上がることでしょう。
彼がその動きを見せるのは、チームの歴史の中で、どの若手ディフェンスマンも成し遂げられなかった方法となるはずです。
ゼーブ・ブイウムが私たちのランキングでトップ3に名を連ねていることに、疑いの余地はありません。
まとめ
ゼーブ・ブイウムの登場は、ミネソタ・ワイルドにとって大きな転機となるでしょう。攻撃面での貢献と守備のバランスを兼ね備えた彼のプレースタイルは、今後のディフェンスマンの基準をさらに押し上げることが期待されています。
ドラフト前のフィジカル・テストでも、ブイウムは確か高数値を挙げていたはずです。その身体能力をトップ・チームのレベルまで引き上げるのに、多少の時間はかかるかもしれませんが、24-25シーズンの後半には、少しずつトップの試合を経験するようになるはずですし、また、ぜひそうあって欲しいです。
いずれにせよ、ブイウムがワイルドの未来を切り開く存在となることに疑いの余地はありません。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- ミネソタ・ワイルドのニュース、試合の分析、選手のパフォーマンス評価などを中心にしたファンサイト。ブログ形式で様々な記事が掲載され、ファンの意見や見解が共有されている。
チームのパフォーマンスや戦術、試合の戦略についての詳細な分析や評論が行われており、ファン同士が交流できるコメントセクションやフォーラムもある。ポッドキャストやビデオコンテンツも豊富。
↩︎ - Kool-Aid Manのこと。アメリカの飲料「Kool-Aid」のキャラクターで、大きなピッチャーの形をしていて、壁を破って登場する。「Oh yeah!」と言いながら「壁をぶち破る」アクションが、このキャラクターの特徴。
それが転じて、何かが破られる、または突破されるという意味で使われることが多い。
↩︎ - 多くの才能ある選手が指名された一方、一部のチームが非常に高く評価された選手を指名しなかったことが後に問題視された。
例えば、アトランタ・スラッシャーズに1位指名さえれたアレクシー・カリーニンが顕著で、ドラフト後にNHLに移籍する予定だったが、KHLでの契約や移籍の問題、また体調不良などが影響し、NHLキャリアが実現しなかった。
それ以外に指名された選手(例えば、シドニー・クロスビーやアレクサンダー・オベチキンなど)が大成功を収めたため、チーム間のバランスが非常に悪く、ドラフト全体の評価が分かれた。
↩︎ - ディフェンスマンがポイント(ブルーライン)から強力なシュートを放つことが、攻撃面での重要な貢献と見なされていた。
パワープレイの際、ディフェンスマンがポイントからのシュート(力強いスラップショット)を放つことで、ディフェンスが圧力をかけ、得点機会を生むことを期待されていた時代だったのである。
ただし、オフェンシブ・ディフェンダーも少しずつ出てきていたが、強力な攻撃力を持つディフェンスマンであっても、少しでも守備を疎かにすると、守備力や体力が欠けていると評価の下がることの方が多かった。
↩︎ - 現代のディフェンスマンは、単なる守備だけでなく、攻撃を阻止するためのゾーンディフェンスやプレッシャーをかける役割も担っている。つまり、多機能性と柔軟性が求められ、ディフェンスマンの戦術的な理解やゲームの読みが重要視されてきている。
これは、各チームがより多くのデータとアナリティクスを利用するようになったこともあり、選手の貢献度を数値で把握し、戦略に反映させることができるようになったため、ディフェンスマンの戦術理解度も大切である。 ↩︎