エジプト初の女子ホッケーチーム、誕生〜アフリカの氷上で咲く希望

アイスホッケー各国代表情報

はじめに

 間もなくイタリア冬季五輪のアイスホッケー予選が始まります。我らが日本代表も当然参加していますが、残念ながら地上波放送は無し…。しかし、TBSのバックアップもあり、YouTubeで生配信されますので、みんなで応援しましょう!

 さて、今回取り上げるのは、エジプトのアイスホッケーシーンに差し込んだ新たな光についてです。若いダンナ・ラマダンがアイスホッケーのユニフォームを着た少女を見た瞬間、彼女の中での意識が変わり、エジプト初の女子ホッケーチームが誕生するきっかけとなった、というお話。

 このチームは、女子アイスホッケーの未来に向けた新しい道を切り開き、今やエジプトの女子ホッケーチームは国際的な舞台での活躍を果たし、世界中の選手たちとの交流を通じてその存在感を強めています。日本も負けていられませんね。

讃岐猫
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引用元:nhl.com(NHL公式)「Egypt women’s team using LATAM Cup as ‘great way to connect’ with homeland

エジプト初の女子ホッケーチーム

 ダンナ・ラマダンは若い頃、フィギュアスケートのキャンプに向かっている途中、アイスホッケーのユニフォームを着た少女に気づきました。

 「ホットピンクのユニフォームを着たその女の子を見たとき、私は『え、待って、何なの?女の子もプレーするの?』って思いました」とダンナ・ラマダンは語りました。「それが私にとっての目覚めの瞬間でした」。

 ダンナと彼女の妹マラクは、エジプト初の女子ホッケーチームのメンバーとして注目を集め、歴史に名を刻んでいます。

 彼女たちは今週(8月21〜25日)、コーラルスプリングスのフロリダ・パンサーズ・アイスデン1と、2024年のスタンレー・カップ・チャンピオンの練習施設であるフォートローダーデールのバプティスト・ヘルス・アイスプレックス2で開催されるアメリゴル・LATAMカップ3に出場しています。

カップ戦への参加と意義

 4月、チームは、ニュージャージー州イースト・ラザフォードのアメリカン・ドリーム4にあるリンクで開催された、新興ホッケー国のためのトーナメントである初のドリーム・ネイションズ・カップ5でデビューしました。エジプトはそのトーナメントで3位に終わりました。

 ラマダン姉妹はLATAMカップに馴染みがあります。彼女たちはこれまでエジプトの男子チームとの一員として、このトーナメントに出場してきました。しかし、今年、全員女子のチームでプレーすることが特別な意味を持つと彼女たちは語っています。

 今年のLATAMカップには、総勢52チームとなる男子、女子、ユースチームが参加し、アルジェリア、アルゼンチン、アルメニア、ブラジル、チリ、コロンビア、ギリシャ、イスラエル、レバノン、メキシコ、プエルトリコ、ベネズエラなど17か国から1,100人以上の選手が参加しています。

LATAMカップのダイジェスト。NHL公式です。
ドリーム・ネイションズ・カップのニュース映像。分かりづらいかな。
讃岐猫
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姉妹の感動!

 「言葉では表現しきれないほど素晴らしいです」とニュージャージー州出身の17歳のゴーリー、ダンナは言いました。「自分と同じ背景や伝統を持つ女の子たちを見られるのが、ただただ感動的です。

 成長する中で、エジプト人プレーヤーは私と彼女(妹のマラク)だけだと自分で思っていたけど、ロッカールームがエジプト人でいっぱいなのを見るのは本当に最高です」。

 15歳のフォワード、マラクも姉の感想に共感しました。

 「素晴らしい経験でした」と彼女は言いました。「エリート・プロスペクツやいろいろなアプリを使ってエジプトのプレーヤーの名前を探していたのですが、見つけるのは本当に稀でした。

 なぜなら、自分のホッケーのプロフィールに、誰もエジプト人であることを識別できる情報を載せていなかったからです。それが、これだけの選手がいるチームを持てるなんて本当に驚きです」。

サメー・ラマダン監督の誇り

 アメリカでエジプトアイスホッケーのマネージングメンバーであり、エジプト男子チームのフォワードでもあるサメー・ラマダン6監督にとって、女子チームの結成に貢献したことは文化的および親としての誇りの源でした。

6年前の映像ですが、エジプトのアイスホッケーの様子が分かります。

 「この地域を見てみると、アラブ首長国連邦、クウェート、サウジアラビア、バーレーン、レバノン、チュニジア、アルジェリア、ケニアなどで、ホッケーが発展しています。男子だけでなく、女子やユースのホッケーも同様です」とサメー・ラマダンは言いました。

 「中東全体で地元のアフリカカップ7やアラブカップを開催し始めました。そして、毎年、成人女性のトレーニングキャンプ、若い女の子のキャンプが増えています」と彼は続けました。

 「だから、(他国より)遅れを取りたくないんだ。我々はカイロを含む世界中で、おそらく10歳以下の選手をたくさん発掘してきました、そして、そのホッケーはどんどん成長しています」。

エジプト・アイスホッケーの国内活動

 エジプトの男女ホッケー選手の多くはアメリカ、カナダ、ヨーロッパに拠点を置いています。小さなアイスリンク(エジプト最大の都市カイロでも、NHL基準のリンクの約20%の大きさのものが3つ)しかありませんが、エジプト国内にも強い存在感を示しています。

 エジプトのアイスホッケーは、毎年カイロで「エジプトアイスホッケーケアーズ」というイベントを開催しています。
※エジプトアイスホッケーケアーズについては、こちら

 2024年7月5日には、カイロのサンシティモール(ショッピング、エンターテイメント、飲食などが楽しめる大型施設。中心部にあるためアクセスも良い)のリンクで、200人以上の孤児や地域紛争で避難している子どもたち、そして多くの若者たちのためにスケート、フェイスペインティング、その他の催し物が開催されしました。

 「正直なところ、同じくらいの年齢の子どもたちがホッケーやスケートを学ぼうとしているのを見ることができただけでも、素晴らしい経験です」とマラクは言いました。「それは自分の故郷とつながる素晴らしい方法です」。

 エジプト・アイスホッケーの男女チームは、エジプト国立オリンピック委員会によって認識されており、これによりオリンピックのリングをジャージに着けることが許可されています。

 「彼らはこのチームとスポーツの成長にとって重要な存在です」とマサチューセッツ州ウェストボロ出身のエジプトのフォワード、マリウム・ラバック(前述のドリーム・ネイションズ・カップに出場、5試合で1ゴールを挙げている)は言いました。

 「ジャージにオリンピックのリングを着けることができるのは、私が望んでいた以上のことです。名誉以上の何ものでもありません」。

まとめ

 エジプトの女子アイスホッケーチームの登場は、単なるスポーツの枠を超え、文化的な壁を打破し、新たな可能性を示す象徴となっています。この開拓者精神を、日本は大いに見習うべきでしょう。視点を変えれば、いくらでも可能性は広がっているように思うんですがね。

 ダンナ・ラマダンと彼女の妹マラクは、自らの情熱と努力を通じて、多くの若い女性たちに夢を与え、女子アイスホッケーの発展に貢献しています。エジプト国内外での活動を通じて、彼女たちは新たな世代の選手たちに刺激を与え、アイスホッケーというスポーツの魅力を広め続けています。

 これからも彼女たちの挑戦は続き、エジプトのアイスホッケーはさらなる高みへと進化していくでしょう。将来、すべての大陸から国別のアイスホッケー代表が参加する、真の意味でのアイスホッケー・ワールドカップが開催されるといいですね。

讃岐猫
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【註釈】

  1. コーラルスプリングスはフロリダ州ブロワード郡にある都市で、マイアミ都市圏に含まれる。アイスデンはチーム専用アイスリンク施設。

     練習だけでなく、地元のアイスホッケーリーグやジュニアホッケーのイベント、スケート教室などにも使用され、地元住民やアイスホッケーファンが利用できる公開スケートセッションなども開催される。
    ↩︎
  2. フォートローダーデールは、フロリダ州南東部に位置する都市で、ブロワード郡の郡庁所在地。マイアミ北部に位置し、大西洋沿岸に面した美しいビーチや運河で知られるリゾート地。

     バプティスト・ヘルスは、フロリダ州を拠点にした大規模な医療ネットワークで、地域における包括的な医療サービスを提供。主にフロリダ州南部に複数の病院や医療施設を展開しており、高品質な医療ケアと先進的な治療を提供することを目指す。

     アイスプレックスは、同ネットワークの運営するアイスリンク施設。この施設は、アイスホッケーやフィギュアスケート、その他のアイススポーツの活動支援を目的とする。
    ↩︎
  3. 2018年に創設され、NHL、NHL選手協会もスポンサーに名を連ねている。「世界中の人々、誰もがホッケーをプレーできることを知ってほしい」の主旨の元、今後、ホッケー強化に力を入れようとする多くの国が参加を表明している。

     チームは男子のディビジョンI、II、III、女子部門、U12、U14、U16グループの7つの部門に分かれ、それぞれトーナメントで優勝国や地域を決定する。女子部門は、カリブ海地域の女子チームがアルゼンチンを降し、大会連覇となっている。

     大会に出場した国や地域のほとんどは、世界の舞台でホッケーをプレーすることを望んでいるが、IIHFの規定を満たすリンクや適切なアイス施設を持っていないため、公認トーナメントに出場したり、オリンピックに出場したりできない。

     大会での勝利や出場による知名度によって、これらの国や地域のスポーツ連盟、オリンピック委員会、あるいは民間投資家に、主にリンク建設を通じてアイスホッケー支援の促進を期待している。
    ↩︎
  4. 正式名称は「Rink at American Dream」。ニュージャージー州の「American Dream Mall」内にあるアイススケートリンク。American Dream Mallは、広大なエンターテイメント複合施設であり、ショッピングモール、アミューズメントパーク、レストラン、アトラクションなどが集まっている。
    ↩︎
  5. ホッケー用品メーカーのCCMが主催するトーナメントで、2024年が初開催。来年5月、ニューヨーク開催も決定している。

     新興のアイスホッケー国や地域がより高いレベルの競技に挑戦できる場を提供し、アイスホッケー界に新しい伝統や大会の習慣を作ることを目指す。男子はアルジェリア、女子はオランダがそれぞれ優勝している。
    ↩︎
  6. エジプトアイスホッケーのゼネラルマネージャー兼共同キャプテン。41歳の現役プレーヤー。ちなみに、エジプト代表チームは「ファラオ」呼ばれている。エジプトはまだIIHFへ加盟申請中であり、ラマダンはそれに向けて活動をしている。
    ↩︎
  7. アフリカアイスホッケー連盟(African Ice Hockey Federation, AIHF)主催のアフリカアイスホッケー選手権のこと。また地域別にトーナメントが開催されることもある。参加チームはまだ限られており、主に南アフリカ、モロッコ、エジプトなどの国々が主となっている。

     主にアイススケートリンクが整備されている都市で開催され、例えば、南アフリカのヨハネスブルグやケープタウンが代表的である。現時点ではアイスホッケーの認知度向上と競技の普及が目的であり、若い選手の発掘や育成、国内リーグの充実、アフリカ内での国際交流促進を目指している。 ↩︎
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