はじめに
まだNHLプレーオフ出場チームが確定していない内から、NHL情報サイトでは、6月末に行われるドラフト予想記事もチラホラ見かけます。プレーオフ出場の夢を断たれたチームが、ドラフト指名順の早い方を獲得するのがほぼ決定していることも影響しているのでしょう。
同時に、過去のドラフト指名検証記事も出てきています。今回、2021年のドラフト1巡目指名を予想されていながら、まさかの2巡目指名だったローガン・スタンコベンを取り上げます。
スタンコベンは最近AHLからダラス・スターズに昇格後、15試合出場、6ゴール・11ポイントと、トップのレベルにすっかり順応しています。意中のチームではなかったようですが、幼い頃からの知り合いが関わるチームに指名されたことに、彼は満足しているようです。
今年のドラフト、1巡目・全体1位指名権は、現在のところ、
サンノゼ・シャークスの手元にあるにゃ。
ダントツの白星供給チームとなっているサンノゼが、即戦力欲しさに、
それを手放すとは思えないが、何が起こるか分からないのがドラフトでして…。
引用元:The Sherwood Park News.com「Kamloops connection: Stars rookie Stankoven brings out cheering section for first game in Vancouver」
NHLドラフト、一瞬の判断ミスが命取り…
バンクーバー・カナックスは、2021年のNHLドラフトで1ローガン・スタンコベンを取り逃してしまったようです。その点について、多くの賛同者がいます。
スタンコベンは(AHL出場)47試合で24ゴールと57ポイントを記録し、(NHL)昇格時にはAHLのポイント王でした。
ドラフト前は1巡目指名確実!と言われていたのに…
スタンコベンは地元カムループス・ブレイザーズ2でジュニア時代にスター選手として活躍しており、2021年のNHLドラフト1巡目指名の可能性についてはドラフト指名の当日まで話題になっていました。
例えば、TSN (TSN=カナダのスポーツ専門チャンネル公式サイト内にある移籍情報サイト)のボブ・マッケンジー3は、ドラフトに先立って、彼を将来有望選手の中で27位と評価し、『エリート・プロスペクツ』(世界最大のホッケーデータベース)は彼を26位としています。
スタンコベンはスピーディーで高度なスキルを備えていますが、身長5フィート8(約173センチ)、体重178ポンド(約81キロ)であるため、その体格については常に疑問がありました。彼は第2ラウンド(2巡目指名)に滑り込み、最終的に全体47位でスターズに行くことになるのです。
スターズはたまたまバンクーバーの実業家で、ブレイザーズのオーナーでもあるトム・ガグラディ4がオーナーを務めています。
スタンコベンの直前に指名された選手の中には、カナックスに全体41位で指名されたウインガー、ダニラ・クリモビッチ5もいました。
今シーズン、バンクーバーのAHLアボッツフォード・カナックス(ウェスタン・カンファレンス内パシフィック・ディビジョン7位〈3月29日現在、残り10試合〉。21年までユティカ・コメッツ。移転のため改名)で、彼は怪我やプレーの不安定さと闘っていました。
体格で判断したバンクーバーが間違っていたとは、なかなか言えないにゃ。
スタンコベンを指名したい!とチーム関係者数名が思っても、
その時のチーム事情が優先される場合もありますから。
ビビッと「直感」が働いたのかもしれないし。
1巡目指名はみんなの夢
スタンコベンは、2021年のドラフトで、1巡目指名すべきところを取り逃してしまった選手の一人として、早くから注目されていました。
3月28日(木曜日)、スターズの午前中のスケートで、スタンコベンは「若い子たちは皆、第1巡目指名されたいと思っているよ」と語っています。「それが僕の目標だったしね」。
「第1巡目で呼ばれなくて悔しい日だったけど、振り返ってみると、第1巡目には何の意味もないのさ。だって、まだ(トップ・チームとの)契約を勝ち取らなきゃいけないからね。それこそが僕のやろうとしてきたことだし」。
「僕の体のサイズだと、多分、そうなるだろうなぁというのはなんとなくわかっていたよ。それは、僕のコントロールの及ばないことさ。僕はただ(試合や練習の)現場に出て、みんな(の判断)が間違っていることを証明しようとしているだけ。すべては努力の賜物だね」。
ダラスの空に、新星輝く!
家族、友人、ブレイザーズ・ファン総勢150人が、スターズvs.カナックスを観戦するために、カムループスからわざわざ遠征してきているという話題が出ていました。
スタンコベン(の名前)と彼の背番号11が背中に描かれた25枚のスターズのジャージが、試合で着用するために発送されたと言われています。
そして、スタンコベンは、チケットの一部を自分で購入したことを認めました。
「できる限り貢献しようと努めたんだ」とスタンコベンは言います。「たくさんの人に助けられて、今の自分に至っていると思う。そういった人たちに恩返しをしたり、感謝したりするのは素晴らしいことだろ」。
「来る人全員を正確に知っているわけじゃないよ。家族が結構来てくれているのはわかっているかな」。
スタンコベンは幼い頃からカナックスのファンで、いつかロジャース・アリーナでNHLの試合をすることを夢見ていました。
「僕が子供のころに見ていたプレーオフでは、素晴らしいプレーがたくさんあったよ。一度でもこのアリーナや氷の上にいられるのは嬉しいことだ」と彼は言っています。
海外でも選手個人の応援団が一斉に声援を送ることがあるんだ、日本だけだと思ったにゃ。
選手が自分でチケット購入・準備したなんて、驚く前に微笑ましい。
みんなに恩返ししたいという気持ちも、素直で好印象だ。
ダラスには昔からの知り合いが多い
スタンコベンによると、ドラフト当日、ダラスのゼネラルマネージャー、ジム・ニル6からスターズへの歓迎の電話があり、その電話を最初に受けたのがガグラディだったということです。
スタンコベンは、ジュニア時代と同じチーム・オーナーの下で、プロとしてプレーすることに違和感を感じていません。実際、彼はマイナーホッケーやスプリングホッケーでガグラルディの息子たちと対戦して育ちました。
「僕はあの家族を5、6歳の頃から知っているんだ。僕らの関係はずっと昔から続いているものさ」とスタンコベンは語っています。
スタンコベンは、レギュラーシーズン59試合で45ゴールと104ポイント、その後プレーオフ17試合で17ゴールと31ポイントを積み上げ、2021-22シーズンのCHL7(カナダ・ホッケーリーグ)年間最優秀選手賞を獲得しました。
OHL(オンタリオ・ホッケーリーグ)のウィンザー・スピットファイアズ(23-24シーズン、ウェスタン・カンファレンス内ウェスト・ディビジョン5位。昨シーズンと一昨シーズンはディビジョン1位)のワイアット・ジョンソン(センター、20歳)がこの賞の最終選考に残っていたのです。
ジョンソンは2021年にスターズの第1巡目指名(全体23位)となり、ベテランのジェイミー・ベン(左ウィング、34歳)とともに最近のスタンコベンのラインメイトとなっています。
スタンコベンは、2022-23シーズンのWHLにおいて、最も優れた人道主義的活動をした選手として(カナダ血液サービスとカムループスのロイヤル・インランド病院のために5万ドル以上を集めた功績から)、ダグ・ウィッケンハイザー(元モントリオール・カナディアンズ等でプレーした選手。1999年1月、ガンのため38歳で死去)記念トロフィーを受賞しました。
スタンコベンはカムループスでの5年間でレギュラーシーズン179試合に出場し、ゴール数(115)でブレイザーズ史上13位、ポイント(260)で12位につけています。
まとめ
記事を読んでいると、スタンコベンはダラスに入るべくして入ったという感じがします。ジュニア・ホッケー時代の既知のオーナーやライバル選手と、今度は一緒にプレーできているのは、偶然というより「運命」が引き寄せたのではないでしょうか。
そもそもダラスGMからドラフト指名電話を、同チームのオーナーが受けるなんて、なかなか無い光景ですよ。スタンコベン意中のチーム、バンクーバーは事前にかなりの数の指名権を手放していたのが、「運命」を手繰り寄せられなかった原因となってしまったのです。
今年も6月末に開催されるドラフトで、同様のドラマが起きるのかどうか。日本では(日本語実況付き)生中継を見られませんが、終了後、数日経過してから YouTubeでクリアな映像が見られます。海外ドラフト情報サイトを見てから、映像に進まれることをお勧めします。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- 当時のバンクーバーは、1、3、4巡目指名権をトレードで手放しており、逆に5、6巡目でそれぞれ2つの指名権を所有していた(7巡目も1つ)。
5巡目の一人はアク・コシュケンヴオ(全体137位。ゴールテンダー、21歳)で、現在ハーバード大学でプレー中。
もう一人はジョナサン・マイレンバーグ(全体140位。ディフェンス、21歳)で、2022年10月にバンクーバーからボストンにトレードされ、現在、スウェーデンのクラブ・チームでプレー中。
↩︎ - ウェスタン・ホッケーリーグ(WHL)、ウェスタン・カンファレンスのBCディビジョン所属。ブリティッシュコロンビア州カムループスがホーム(アリーナはサンドマン・センター)。
23-24シーズンはディビジョン5位で、プレーオフ進出とならなかったが、19-20シーズンから22-23シーズンまで4季連続ディビジョン1位だった。
↩︎ - 本名はロバート・マルコムソン・マッケンジー。67歳。1986年にTSNに入社して以来ホッケー一筋。TSNホッケー・インサイダーおよびTSNのドラフト専門家として、TSNテレビ放送でNHLの分析を行っている。
↩︎ - ブリティッシュコロンビア州バンクーバーにあり、主にホテルとレストランを運営するノースランド・プロパティ・コーポレーション社長。56歳。
NHLチーム買収に熱心で、かつてはバンクーバー、アトランタ・スラッシャーズ(現ウィニペグ・ジェッツ)等にもコンタクトを取ろうとしたが、いずれも失敗。2011年11月、やっとダラスの買収に成功したが、2年近くの歳月を費やしている。
↩︎ - ベラルーシ出身の21歳。ドラフト前、全体19位の評価を受けており、パワー(188センチ、92キロの体格)もスキルも兼ね備えた選手として、彼自身も1巡目指名されておかしくなかった。
23-24シーズン、怪我などもあって、ここまで24試合しか出場できていないが、チームもまだプレーオフを狙える位置にあるため、巻き返しが期待される。
↩︎ - カナダの元アイスホッケー選手であり、1980年代、 NHL セントルイス・ブルースを皮切りに、バンクーバー・カナックス、ボストン・ブルーインズ、ウィニペグ・ジェッツ、デトロイト・レッドウィングスでプレー。1990年に引退。
NHLデビュー前に、1980年冬季オリンピックでもプレー。1994年、デトロイトを皮切りに、オタワ・セネターズ、ダラスのフロントで働いている。2022-23シーズン、ゼネラル・マネージャー・オブ・ザ・イヤー賞を受賞者でもある。
↩︎ - カナダのジュニア・ホッケーの最高レベルとして3つのリーグの総称。内訳はウェスタン・ホッケーリーグ、オンタリオ・ホッケーリーグとケベック・マリタイム・ジュニア・ホッケーリーグのこと。 ↩︎