はじめに
このブログでもお伝えした、大物DFエリック・カールソンのピッツバーグ・ペンギンズ移籍は、今後のNHLトレード戦線に大きな影響を与えそうです。それは新たな移籍劇を生むだけでなく、カールソン移籍に巻き込まれた選手達の将来にも関わっているのです。
※カールソン移籍についてはこちら→☆。
今回、その当事者である、ベテランDFジェフ・ペトリーの身辺について取り上げます。彼もカールソンに負けないくらいの攻撃的センスを持っており、決して侮れない選手の1人です。とはいえ、移籍先のカナディアンズで再出発!と言っても、35歳の年齢がどう作用するか。
なお、今回は、カナダのスポーツ専門テレビ局であるTSNの記事を引用元としています。
年齢から来る能力の衰えもさることながら、
確かケガ持ちじゃなかったかにゃ。
それと相談しながら要所要所でプレーしていくのか、
スタートが遅くなってもいいから、しっかり治して現場復帰するか。
難しいところ。
引用元:TSN「Petry can be a meaningful contributor for a contender」。
ペトリーはさらにトレードすべきなのか
ベテランディフェンスマン、ジェフ・ペトリー(35歳)のトレード市場はどうなっているのですか?
モントリオール・カナディアンズが、エリック・カールソンとの大型契約でベテランのブルーライナーを再獲得したことにより、確実に考えている疑問点です。現在35歳で、1,000試合出場の大台に迫っているペトリーは、再建中のフランチャイズには不格好な存在です。
ペトリーが8年間を過ごした場所に戻ってくるという物語は魅力的ですが、ビジネスの観点から、トレードの方がより現実的な選択肢に思えます。
ペトリーの履歴書がそれを物語っていますが、ペトリーとの取引に応じる可能性のある企業(チーム)は、2つの重要な質問に答えなければなりません。
1つ目は、利害関係者(カナディアンズ以外のチーム)にとって、もう1人のディフェンダーを求めるライバルチームは、おそらく妥協せざるを得ないのです。
つまり、今後2シーズン、彼らは(ペトリーに付いた)470万ドル(日本円で約6億8千万円)の値札要求を飲むことができるでしょうか。
そうでない場合、ある程度の給与保持を伴うトレードになりますが、それはどのようなものになるでしょうか。
※ある程度の給与保持を伴うトレード=カナディアンズが、ペトリーの保有権を何割か負担する(サラリーの何割かを払う)ことが条件となる。その保有権が大きければ大きいほど、カナディアンズは相手チームから有利な条件を引き出しやすくなる。
ペトリーの能力を分析
まず、ペトリーがイーブン・ストレングスで出場したチームの成績、5対5で出場した場合、そして、彼のようなツーウェイプレーヤー(攻撃も守備も両方こなせる選手)が、歴史的に意味のある成績を残した状況について見てみましょう。
※イーブン・ストレングス=両チームが同時に同じ人数のプレーヤーを氷上に配置するが、どちらのチームもフルパワーではない。つまり、チームは5対5だけでなく、4対4でも3対3でもプレーできる状態のこと。
以下のグラフは、ペトリーのチームが、彼とどのように氷上で攻撃的・守備的に(実際のゴールと予想されるゴールの両方で)活躍したかを示しています。
※以下のグラフは、…=上記、引用元のグラフを参照のこと。
グラフにあるGFとは「Goals For」、GAとは「Goals Against」、xGFとは「Expected Goals For(total expected goal value of all Fenwick shots)」、xGAとは「Expected Goals Against(total expected goal value of all Fenwick shots)」のことである。
グラフを見ると、攻撃でも守備でも、ペトリーは期待値以上の数値を出している上に、上昇していることが分かる。
なお、Fenwick shotsとは、5対5のプレー中にゴールに入ったシュート、ポストに当たったシュート、ネットを外れたシュートをカウントする。フェンウィックにはブロックされたシュートが含まれない。
ペトリーのキャリアには2つの重要な瞬間があったと主張します。1つ目は2015年に行われたトレードで、エドモントンでの滞在中、ペトリーはずっと惨めな思いをしていましたが、2巡目指名権と引き換えにモントリオールに移籍しました。
※エドモントンでの滞在中=2010-11〜2014-15シーズンの途中まで在籍。この間のゴール数で最多は7(2013-14)で、1度も2桁ゴールを記録していない。アシストも23が最多(2011-12)で、他のシーズンは2桁に乗せるのがやっとという状態であった。
(カナディアンズでの)ペトリーははるかに手ごわいラインナップでプレーしていましたが、すぐにアイスリンクの両端で(攻撃面でも守備面でも)生産性の向上を見ました。2つ目はより最近のもので、リーグ全体のより広範な変化に関するものです。
※2つ目はより最近のもので、…=2022-2023シーズン、ペンギンズへ。ブルーラインの攻撃パフォーマンス改善を期待されていたが、ケガの影響とリーグ全体の能力向上もあって、思うように力を発揮できず。カナディアンズへトレード、つまり、古巣へ逆戻りしたのである。
カールソンほど注目されてこなかったが、
確実に仕事をしてくれる縁の下の力持ちタイプかにゃ。
今でもゴールを計算できる選手であることは、データで証明されているし、
年齢さえ目をつむれば、まだイケる選手。
今のNHLで、ツーウェイプレーヤーは貴重
過去3シーズン、NHLが経験した攻撃のルネッサンスについて、多くの時間を費やして説明してきましたが、これらの(昔と比べて)増加したゴール数の水面下には、プレーするラインアップ全体のスキルとスケート能力の大幅な向上があります。
ゼネラルマネージャーが両方向で有能にプレーできるディフェンダーを探しているブルーライン(ディフェンスの守備位置)において、その変化は明白です。
ペトリーはその3シーズンよりも数年早く出てきた選手かもしれませんが、この変化は彼のキャリア後期の追い風になったと思います。ペトリーの氷上での攻撃的な得点生産能力は近年爆発的に増えており、それは彼の個人成績にも当てはまります。
過去6シーズン、ペトリーは82試合平均45ポイントを記録し、氷上プレイ時間で調整すると、ダラスのミロ・ハイスカネン(ディフェンス、24歳)、ウィニペグのジョシュ・モリッシー(ディフェンス、28歳)と肩を並べています。それらは素晴らしい総合力と言えます。
ペトリーの弱点・衰えた部分
少しの間、悪魔の代弁者を演じてみましょう。ペトリーの活躍が陰りを見せ始めているのは、氷上の守備面なのです。リーグ全体の傾向で説明できる部分もありますが、過去2シーズン、ペトリーによる実際のゴール数と期待されるゴール数は上昇しているのです。
※実際のゴール数と期待されるゴール数=前述のグラフを参照のこと。
HockeyViz(ホッケーを理解するため、チームの戦術や選手のプレーの傾向をグラフ等で視覚化し、それから今後どうなるかを予測するサイト)のショットプロファイルを活用すると、この防御ゾーンの劣化を長年にわたって観察することができます。
ペトリーは、平均を大きく上回るディフェンダーから平均的な結果を残すディフェンダーになってしまいました。パフォーマンス自体は悪くないのです。むしろ、より懸念されるのはトレンド(と年齢/走行距離)であると主張します。
※トレンド=現在のNHLは攻撃的センスの高い選手を好む傾向にあり、多少守備がお粗末でも起用する。「取られたら、倍返ししてやれ!」がトレンドと言える。しかし、組織的ディフェンスで早めに攻撃の芽を摘み、少ない得点で勝利する戦術も面白いのだが…。
まず、前の2年間(2019-21シーズン):…
※上記引用元に図解あり。
次に、後の2年間(2021-23シーズン):…
※上記引用元に図解あり。ペトリーのディフェンス・ゾーン(青の部分)が減少している、つまり守備範囲が狭くなっていることが分かる。
以上のことから、来シーズン、信頼できるツーウェイ・ディフェンダーを必要としているライバルチームにとって、ペトリーは有力なオプションになりそうだということです。
今シーズンのサラリーキャップの伸び(サラリー上限が予想よりアップしなかった)を考えると、彼の契約をどう帳尻を合わせるかが頭痛の種となりそうですし、そしてそれは–この夏すでに何度か目にしたように–第3のチームを巻き込むことになるかもしれません。
いっそのこと、ディフェンスを諦めて、
フォワードのポジションに専念してはどうかにゃ。
長年の経験を活かして、アイスタイムは短くても、
ここぞという時に得点できる選手になれるのでは?
結論:ペトリーはまだイケる!
氷上でのパフォーマンスに関して、ペトリーのプレーにはまだ余力が残っていると思います。
何年か前のように、オフパック(パックを持っていない時のプレー)でのディフェンスに特筆すべきものがあるわけではないでしょうし、また、相手の最高のアタッカーに対して長時間重要なプレーをすることを、彼に期待するのは無理があるように思えます。
しかし、常に氷上の3つのゾーンで快適なプレーをしてきたペトリーのような選手にとって、より有意義なオフェンシブ・リーグ(=今の攻撃的なNHL)がどのような意味を持つか、軽視してはいけません。
得失点差で勝敗を決めるスポーツであり、ペトリーが真の攻撃的価値を付加しているのであれば、彼の存在はまだ意味のあることに変わりはありません。
まとめ
ここまで書いておきながら、誠に恐縮なのですが、つい先日8月15日に、ペトリーのデトロイト・レッドウィングスへのトレードが発表されました。1年前に「いらない」と放出した選手が帰ってきたのですから、カナディアンズからまた出されるのは仕方なしか。
それはともかく、記事や引用元のグラフにあるように、味方がパックを持っていない時間帯、ペトリーの守備のポジショニングが遅れているようでは、今の攻撃的リーグでのプレーは苦しくなります。
実は、カールソンも同じ傾向を持っている選手です。競争相手の多いペンギンズで、シャークスの時と同じようなプレーをしていたら、シーズンの終盤でベンチを温める存在になりかねません。
ツーウェイの選手はいわば諸刃の剣、両方バランス良くプレーできないと、チームを混乱させてしまうのです。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!