はじめに
プレーオフの話題で持ちきりなのは、NBAだけでなく(ティンバーウルブズ、すごいな)、NHLもですよ!それと同時並行でドラフトの話題、そして今シーズンの選手や監督、チームの功績を称える各賞の発表も順次行われています。
最優秀選手賞や最多ゴール賞、コナー・ベダードがすんなり獲得するかどうかの最優秀新人賞も気になりますが、苦境を乗り越え、勇敢にアイスリンクへ戻ってきた選手や、チームを支えてくれる地域社会に恩返しをする選手も表彰を受けることになっています。
NHL選手組合は絶大な力を持っていて、過去に待遇改善を求め、ストライキを行ったこと(シーズン無し!)があります。その半面、肉体的・精神的に苦しんでいる選手達に手を差し伸べ、リンクへ戻ってこれるようケアに務めます。今回はそのお話から。
例外もあるけど、まず各賞の候補者3名が発表されるんだにゃ。
最終発表まで、ファンに「誰が受賞するんだろ」ってドキドキ感を持たせるあたりが、
北米スポーツのエンターテインメントのなせる技かな。
今年はベガスでアワード開催なんで、かなり盛り上がるだろう。
引用元:NHL.com「Ingram wins Masterton Trophy for perseverance, sportsmanship, dedication」
ビル・マスタートン記念トロフィーとは?
水曜日(5月22日)、コナー・イングラムはビル・マスタートン記念トロフィー1を獲得しました。
この賞は、プロ・ホッケー・ライター協会2(Professional Hockey Writers Association、略称PWHA)のメンバーによって投票された、忍耐力、スポーツマンシップ、ホッケーへの献身の資質を最もよく体現したNHL選手に毎年贈られます。
コヨーテズのゴールキーパーが受賞
今シーズン、アリゾナ・コヨーテズのゴールキーパーであるイングラムは、2021年1月15日、NHL/NHLPA(選手組合)プレーヤー支援プログラム3に助けを求める前、強迫性障害と長引くうつ病のために引退寸前でした。
「この仕事(プロのアイスホッケー・プレーヤー)は多くの人ができないものだろうし、私は人生の22年間をかけて、このまま続けた方がいいと思ったんだ」とイングラムは水曜日に言っています。
「幸運なことに、ナッシュビルで一矢報いることができ、アリゾナでも一矢報いることができた。私にそれを乗り越えさせてくれた、ホッケーとホッケー界に一生感謝します」。
イングラムは、2021-22シーズン、ナッシュビル・プレデターズでNHLデビューする前、ECHL、アメリカンホッケーリーグ、スウェーデンで、キャリア初期の7シーズン4をプレーしました。
2022年10月10日、(プレデターズから権利放棄後、)コヨーテズにウェーバーで獲得された27歳は、今シーズン(23-24)、50試合(48先発)で23勝21敗3延長負け、失点率2.91、セーブ率.907、NHLトップタイの6完封の成績を残しています。
コヨーテズのゴールキーパーとしては12年ぶりとなる、12月3日に終わる週のNHLのファーストスター(週間最優秀選手)に選出されました。
過去スタンレーカップ優勝経験のある4チームとの対戦5で、アリゾナが4連勝した時、彼は3勝0敗、失点率1.63、セーブ率.947を記録しています。
年齢の割に、イングラムは豊富なキャリアを持っているんだにゃ。
ECHL、AHL、WHLのチームでそれぞれプレーしている選手はいそうで、なかなかいない。
そして、23-24シーズンのコヨーテズの善戦を支えたのは、
イングラムのゴールテンディングであるのは間違いない。
イングラムの談話
初めてファイナリストとなったイングラムは、他の人を助けることを期待して、NHL.comのスタッフライター、アマリー・ベンジャミンと自分の物語を共有しました6。
「気分を良くするためには努力をしなければならない」とイングラムは今シーズン初めにNHL.comに語っています。「何が自分を苛立たせるのか、何が自分を落ち着かせるのか、それが何であれ、知っているはずさ。それは中毒のようなものだよ。
そこに近づけば、問題が起きることは分かっているはずだ。だから、発作が起きたり、不安になったりするようなものは避けるようにしているんだ。ただ仕事に打ち込み、セラピーに通い、自分をケアするだけだよ」。
「それは、しつこいケガみたいなもんだ。手入れをしないと、悪化するだろう。残りの人生は、週に一度、見知らぬ人の椅子に座り、自分の問題を彼らに伝えるのさ。それが僕の人生の事実だ」。
他の候補者や受賞者の社会貢献について
PHWAの地方支部は、レギュラーシーズン終了時、マスタートン・トロフィーのノミネートを提出し、
イングラム、カロライナ・ハリケーンズのゴールキーパー、フレデリック・アンダーセン7、カルガリー・フレームズのディフェンスマン、オリバー・キリントン8が獲得票数上位3名となり、最終候補に残りました。
PHWAからの2,500ドル(約40万円)の助成金は、マスタートン・トロフィー受賞者の名前で、ミネソタ州ブルーミントンに拠点を置くビル・マスタートン奨学金基金に毎年授与されます。
註釈で、候補に挙がった他の2人の略歴も見てほしいにゃ。
すごいプレッシャーの中でプレーしている選手達は身体の異変に気づいていても、
なかなか申告するのは難しい。場合によっては、解雇されてしまうかもしれない。
NHLの救済システムは本当にありがたい。
各賞発表・授与の仕方
マスタートン・トロフィーは、このポストシーズンに授与される2番目の賞でした。火曜日(5月21日)、ニューヨーク・レンジャーズのディフェンスマン、ジェイコブ・トルーバはマーク・メシエNHLリーダーシップ賞9を受賞しています。5月にはさらに4つの賞が授与され、
6月27日(米国東部時間午後7時、日本時間翌28日・午前9時)、ファウンテンブルー・ラスベガス(ベガスで一番高い超高層カジノホテル、2023年12月オープン)で開催されるNHLアワード(放送はESPN、SN)で発表される5つの賞を含む、9つの賞が6月に授与されます。
受賞者は、全米の(放送)権利所有者であるESPN、Sportsnet、TVA Sportsによって、スタンレーカップ・プレーオフの試合前番組、NHLアワード、および6月28日、ラスベガスで開催される2024アッパーデッキ(トレカ販売会社)NHLドラフトで発表されます。
ESPNの発表は、試合中継に先立ち番組『ザ・ポイント10』で行われます。
※以下は、2023-24年度マーク・メシエNHLリーダーシップ賞を受賞したジェイコブ・トルバの記事です。
引用元:NHL.com内レンジャーズ公式「Jacob Trouba Wins 2023-24 Mark Messier Leadership Award」
マーク・メシエNHLリーダーシップ賞とは
ニューヨーク・レンジャーズのキャプテン、ジェイコブ・トルーバは、マーク・メシエNHLリーダーシップ賞の2023-24年度受賞者に選ばれました。
この賞は「レギュラー・シーズン中、氷の上でも外でもチームに対して優れたリーダーシップの資質を発揮し、地域社会でホッケーゲームの発展に主導的な役割を果たした選手」に贈られます。
2007年春、シーズンごとに同賞が授与されるようになって以来、トルーバはレンジャーズの選手として初めてマーク・メシエ・リーダーシップ賞を受賞しました。
2019-20シーズン開幕前に入団して以来、30歳のディフェンスマンは、ブルーシャツ(レンジャーズのユニフォームから)を氷上で成功に導き、地域社会でクラブを代表することに誇りを持っています。
日本のプロ選手も地域社会貢献活動をしているけど、もっとみんなに知ってもらいたいにゃ。
選手達の頑張りはみんなの励みになるし、
そこから新しく活動の輪が拡がっていくかもしれない。
ファンも選手達にやすらぎを届けよう!
チームと共に地域社会貢献
これまでの夏、彼はレンジャーズ・ユース・ホッケー・キャンプ11に参加し、キャンプに参加する子供たちにサインをしたり、一緒に過ごしたりしました。
2022年8月9日、チーム・キャプテンに就任して2年目を迎えたトルーバは、ホームゲーム後、ガーデン・オブ・ドリームス財団12の子供たちと頻繁に交流会を開催し、子供たちと時間を過ごし、時にはロッカールームのツアーにも参加しています。
2023-24シーズンを通して、トルーバと妻のケリーは、主にジェイコブのアートの販売を通じて、ガーデン・オブ・ドリームス財団とてんかん財団13のために16万ドル(約2,500万円)以上を集めました。
トルーバは芸術家、作品も社会貢献
(昨年の)秋から2つの慈善団体を支援するため、彼は自分のアートのプリントをオンラインで販売し始め、クリスマスまでに10万ドル(約1,600万円)の寄付を集めたのです。
また、レンジャーズの毎年恒例のカジノナイト募金活動14で、競売にかけられるようにと彼のオリジナル作品を寄付し、そこで25,000ドル(約400万円)が集まり、オークションで最も成功した商品となりました。
氷上でのトルーバは、レギュラー・シーズン69試合で3ゴール・19アシスト、22ポイントを記録しています。ミシガン州ロチェスター出身の彼は、ブロックショット数(183)でレンジャーズの全選手中トップとなり、ヒット数(191)で2位にランクされました。
まとめ
トルーバはそれほど目立つ選手じゃないのですが、「あっ、ヤバい!点取られる!」という瞬間、ここぞって場面に顔を出して、危険を防いでくれる選手です。レンジャーズがペナルティ取られて、人数少なくても安定した守りに入れるのは、彼の存在があるからでしょう。
今後も、NHLは今シーズンに最高の成績を残した選手を順次発表していきますが、今回のイングラムやトルーバのように、プレー以外の面でも、プロ選手として、人間として誇りを持って活動している選手達に光を与えていることにも注目すべきです。
それにしても、週に3つもNHL関連番組を見られるなんて、北米のファンが何とも羨ましい。北米4大スポーツの中で下り坂なんて声も聞かれますが、プレーオフの盛り上がり方は凄まじいですし、関連報道もかなり熱を帯びてますから、やはり文化として根付いているのです!
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- この賞の名前は、NHL史上、試合中に受けた怪我が直接の原因で死亡した唯一の選手、ビル・マスタートンにちなんで名付けられたものである。
各チームが1人の選手を指名した後、プロ・ホッケー・ライター協会の投票によって最優秀者が選出される。この賞は、キャリアから復帰した選手、あるいは生命を脅かす病気や怪我から復帰した選手に授与されることが多い。
↩︎ - 新聞、雑誌、ウェブサイト等に書いているアイスホッケー・ジャーナリストのための北米の専門協会。
↩︎ - 1996年創設。NHLと選手組合の共同事業であり、選手たちが怪我や薬物中毒の治療、メンタル面で不安を抱えた際に支援することを目的としている。
↩︎ - 2011-12シーズンからキャリア開始。NHLデビューまでに合計11チームを渡り歩いている。最も出場試合数が多いのは、WHLのカムループ・ブレイザーズで、4シーズンで211試合。
↩︎ - 2023年11月25日~12月3日の週、ベガス・ゴールデンナイツ、タンパベイ・ライトニング、コロラド・アバランチ(オーバータイム)、セントルイス・ブルース戦のこと。
なお、12月4日のワシントン・キャピトルズ戦も勝利しており、実際は5連勝となる。
↩︎ - 2024年1月9日付NHL.com内記事「Ingram finds footing as Coyotes goalie after confronting mental health issues」のこと。執筆者はベンジャミンである。
↩︎ - 34歳。シーズンを4勝1敗でスタートしたが、医師から血液凝固に関する問題を指摘され、2023年11月4日~2024年3月7日まで50試合を欠場した。復帰後の成績は9勝1敗。10試合で平均1.30失点、セーブ率.951、3完封。
もしアンダーセンが受賞した場合、ハリケーンズ/前身のハートフォード・ホエラーズで、この賞を受賞した2人目の選手となっていた(1人目はダグ・ジャービス、1986-87)。
↩︎ - 26歳。精神面での健康に不安を抱えていたため、2022-23シーズンを全休するなど、18か月以上の離脱を経て、2024年1月25日、カルガリー・フレームズのラインナップに復帰。
ホッケーを続けられないと不安な日々を送っていたが、遠征中にフレームズのスタッフと協力し、33試合で8ポイント(3ゴール、5アシスト)を記録し、出場時間は平均17分14秒を記録した。
キリントンが受賞した場合、フレームズでは3人目の選手となり、1995-96シーズンのゲイリー・ロバーツ以来となる。
↩︎ - メシエは、現時点で、キャプテンとして2つの別々のフランチャイズをスタンレーカップに導いた唯一の人物(1990年にオイラーズ、1994年、レンジャーズ)。メシエの功績を称えた賞で、候補者の人選も彼自身が行っている。
↩︎ - NHL関連のスタジオ番組で、現在ESPN2で火曜日と木曜日午後5時(東部時間、日本時間では午前7時)に放送中。ESPN、ABC、ESPN+では特別版を放送。この番組の他に、『イン・ザ・クリース』や『ザ・ドロップ』等、北米では平日放送のNHL関連スタジオ番組がある。
内容は、NHLのプレゲーム・ショーと考えればよい。
↩︎ - 月曜日から金曜日の午前8時から午後5時まで(1週間、午前9時から午後5時までの場合も)、チームが指定した場所で行われ、選手によるオンアイス・クリニック、オフアイスでの懇親会などが主な内容。
6歳から14歳までの青少年ホッケー選手たちが対象。
↩︎ - MSGエンターテインメントおよびMSGスポーツと協力し、教育、インスピレーション、助成金、喜びを通じて、恵まれない若者たちに人生を変える機会を提供する財団。
2023-24シーズンを通して、トルーバと妻のケリーは、主にジェイコブのアートの販売を通じて、ガーデン・オブ・ドリームス財団とてんかん財団のために16万ドル(約2,500万円)以上を集めました。
↩︎ - Epilepsy Foundation of Americaとも。メリーランド州ボウイに本部を置く非営利の全国財団。てんかん及び発作障害を持つ人々の福祉に専念。1968年設立。
↩︎ - ガーデン・オブ・ドリームス財団を支援するのが目的の活動。レンジャーズの全選手、コーチング・スタッフ、そしてOB達が参加し、カジノ・タイプのゲームに興じるのがメイン。その他、ライヴやオークションをやり、親睦を深める。 ↩︎