キャピタルズ、NHLプレーオフ敗退!スヴェチニコフの劇的決勝弾

アイスホッケー名勝負

はじめに

 NHLを初めて知ったという方でも、この試合のドラマはきっと心に残るはずです。

 アメリカの首都・ワシントンD.C.にある「キャピタル・ワン・アリーナ」で、地元チーム・ワシントン・キャピタルズと、カロライナ・ハリケーンズがスタンレーカップ・プレーオフの大一番を戦いました。

参照記事:Washington Post「In a blink, deafening goes to silent ― and the Capitals’ season ends

🏒静まり返るアリーナ、その瞬間に何が起きた?

 プレーオフ敗退が懸かった試合で、満員のアリーナが揺れるような大歓声を上げていた中、それは起きました。まるで時間が止まったかのような静寂。それは、ほんの数分前までメタリカを大声で歌い、耳をつんざくような大歓声を上げていた何千人もの存在を裏切るような静けさでした。

 試合終了まで残りわずか2分、カロライナのアンドレイ・スヴェチニコフが、右フェイスオフ・サークル付近でパックを受け取りました。予想外の角度からキャピタルズのゴールに向けてシュートを放ち決めたのです。

 シーズン中はキャピタルズの守護神として活躍したローガン・トンプソン1でしたが、このプレーオフでは人間らしい姿を見せており、今回は止められませんでした。スヴェチニコフの腕が天に向かって伸びた時、アリーナに沈黙が広がった訳です。

 これが勝ち越し点となり、ハリケーンズが3対1で勝利。シリーズを4勝1敗で制し、イースタン・カンファレンスの決勝へと駒を進めました。

 それと同時に、キャピタルズのシーズンが終わりました。しかも、チームは夏を迎えるだけでなく、象徴ともいえるアレックス・オベチキンにとって、これがNHL最後のシーズンになるかもしれないという切なさを伴って。

この試合のハイライト映像です!正直、こんなにあっさり決着するとは思いませんでした。

🧊コーチの言葉が表す、悔しさと誇り

 アリーナを包んだ静けさは、その後、ホームチームのロッカールームにも続きました。試合後、キャピタルズ監督であるスペンサー・カーベリーは、こう語りました。

 「本当に辛い。選手たちにもそう伝えた。辛いよ。なぜなら、このチームには何か特別なことができる力があると思っていた。スタンレーカップ決勝まで行って一泡吹かせる力があると信じていたから。…順調に進むとは思っていなかったけど、信じていた」。

 そして彼らは、ファンを信じさせることに成功していました。今シーズンが、たった5試合で終わるようなものになるとは、誰も感じていなかったはずです。シーズンを通して、キャピタルズは予想外の快進撃を見せてきました。

 主力メンバーの入れ替えがうまくハマり、イースタン・カンファレンス首位(51勝22敗9分)でプレーオフに進出。しかも、モントリオール・カナディアンズを相手に、シリーズを5試合で制する快勝。キャピタルズにとって7年ぶりとなるシリーズ勝利、チームの勢いは本物でした。

 ベテランのオベチキンは、足を骨折して16試合を欠場しながらも、今季42ゴールを挙げてウェイン・グレツキーの通算得点記録に挑み続け、キャリア通算を897得点まで伸ばしています。

オベチキンの偉大な新記録達成は、もちろんブログでも取り上げています!

 だが、第1戦の開始のフェイスオフから、ハリケーンズは明らかに格上でした。そして、5月15日・木曜夜のスヴェチニコフのゴールを含め、ノースカロライナ州ローリーでの2試合(0-4、2-5)、そしてシリーズ開幕戦(1-2)といった、肝心な場面では常にハリケーンズの方が上回っていたのです。

 ハリケーンズのスタイルは、見た目に美しいものではありません。だがこのポストシーズンでは、それが勝利に繋がっています――2シリーズで10試合中8勝という成績ですから。フロリダがトロントを倒すにせよ、メープルリーフスがパンサーズ相手に逆転するにせよ、カロライナはイースタン・カンファレンス決勝で容易に敗れる相手ではありません。

🔄未来への切り替え、それでも前を向く理由

 「正直、悔しいよ。本当に辛い」と話したのは、キャピタルズの若手センター、ディラン・ストローム。「僕たち、いろんなチームにはうまく対応できると思ってたんだけど、明らかにカロライナはその中には入ってなかった。あのプレースタイル2じゃ、ほとんど何もできなかったよ」。シュートも、チャンスも、ポゼッションも。

 ただ、キャピタルズの選手たちは、この敗戦から学び、次に進もうとしています。そういう意味では、キャピタルズにとって今回の敗退は恥ではありません。

 今後の夏とそれ以降に待っているのは、変革の最終段階です。2025–26シーズンのキャピタルズは、オベチキンを中心に回る最後のシーズンになるでしょう――もし彼が契約最終年を放棄して、通算21シーズン目の開幕前に突然引退でもしない限りは。

 「私の理解では、彼は契約下にある」とカーベリーは笑みを浮かべながら言いました。「だから来年も戻ってくるよ」。

 だからこそ、オベチキンと共にもう一度戦う最後の機会について考えるべきです。彼は来季開始前に40歳を迎えるが、それでも自身の歴史的な得点記録にさらなる上積みを狙います。

 そして、プレーオフ前の期待ではなく、シーズン開始時点での予想を思い出してほしい。ギリギリで2024年のプレーオフに滑り込んだこのチームは、その直後(第1ラウンド)にスイープ敗退(4連敗)を喫していましたし、そして半分近くが新加入選手で構成されていたこともあり、予想は控えめなものでした。

 ESPNは32チーム中20位、USAトゥデイ3は19位と評価。TSNのアナリスト20人のうち、ひとりとしてキャピタルズがメトロポリタン・ディビジョンを制するとは予想しませんでした。プレーオフ進出さえ危ういと見られていたのです。

 「このチームのことを、シーズン最初の段階でここまで来ると思っていた人は、ほとんどいなかった」とストロームは語りました。「でも僕たちは、大きな目標を持っていたし、こんな形で終わるのは本当に悔しい」。

第3ピリオド・ラスト4分間の攻防だけの映像。キャピタルズのベンチ、ファンの落胆した表情…。

 それでも彼らは、メトロポリタン・ディビジョンの頂点に立ち、プレーオフ1回戦も突破しました。これは、まぐれではありません。しっかりとしたチーム力があった証拠です。

 シーズンを通して起きた出来事は、オベチキン時代終焉後の未来が、苦しみではなく希望に満ちていることを示しています。「今季の経験は、確実に未来に繋がると思う」とオベチキンもコメント。年齢を重ねてもなお、彼の視線は前を向いています。

讃岐猫
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🧱チームの土台と、もう一度の挑戦へ

 ジョン・カールソン――36歳のベテランDFで、今回のシリーズでは年齢を感じさせる場面もありましたが――もオベチキン同様、来季が契約最終年です。しかし、キャピタルズには、未来に向けた希望の材料が揃っています。

 次期キャプテン候補のトム・ウィルソン、堅実な守備を担うヤコブ・チクランとマット・ロイ。さらに、トップ2センターとして期待されるピエール=リュック・デュボアとストロームは、今後の中心的存在です。

 さらに可能性を秘めた好成績の若手では、コナー・マクマイケルやアリクセイ・プロタスが成長を見せており、ルーキーのライアン・レナードも経験を積んでいます✨

 「唯一の救いと言えるのは、将来に対してワクワクできることかな」とウィルソンは語りました。「この時期は、どのチームも良いホッケーをしていて、それでも敗退することがある。僕たちはこのシリーズで試されたし、そこから学んで、前に進むしかない。…このチームには素晴らしい土台がある。でも、この同じメンバーではもう戻ってこないんだと思うと、寂しいね」。

 それがプロスポーツというものです――安定ではなく変化によって定義される世界。そして、もう一つの柱はすでに存在しています。監督のカーベリーも、この変化の時期にふさわしい人物4。落ち着いた判断力と若手育成への情熱で、チームを新たな時代へと導こうとしています。

 彼は、オベチキン、カールソン、ウィルソンといった、スタンレーカップ優勝時代の中心選手たちとの信頼関係を築き上げ、他のすべての選手たちの育成にも執念を燃やしています。彼の落ち着きは異常なほどで、その存在感は確かなものがあります。NHLの監督は寿命が短い職業ですが、43歳でまだ就任2年目の彼には、賞味期限など遠い先の話のように感じられます。

 「私は楽観的です」と話すカーベリーの言葉には、チームの未来への自信がにじんでいました。とはいえ、彼の言葉は未来への話です。木曜の夜は、ただただ悔しさだけが残りました。

🥶まとめ~夏の始まりと、もう一度信じたい気持ち

 2018年のスタンレーカップ制覇は今でも心の支えであり、ワシントンにとっては歴史的なスポーツの瞬間として記憶されています。だが、その年を除けば、オベチキン率いるキャピタルズがプレーオフで2回戦を突破したことは一度もありません。でも、その1回の優勝が、いまのファンにも希望を与えているのです。

 試合後のアリーナに満ちた静寂。それはただの敗北ではなく、「このチームでいられるのは、もう最後かもしれない」という、切なさを含んだものだったのかもしれません。

 それでも、5か月後にはまた新しい挑戦が始まります。だがそれまでは、スヴェチニコフが生み出した静けさがキャピタル・ワン・アリーナを満たし、夏があまりにも早く始まるだけなのです💫

讃岐猫
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【註釈】

  1. レギュラー・シーズンの成績は42試合先発出場して31勝6敗、平均失点2.49、セーブ率.910。プレーオフの成績は10試合に出場して5勝5敗、平均失点2.41、セーブ率.917。しかし、ここ3試合のうち2試合でのセーブ率は9割を下回っており、3連敗していた。
    ↩︎
  2. アグレッシブなフォアチェックで相手にプレッシャーをかけ、ターンオーバーを誘発していく。ディフェンスは強固で、こちらはパック・ポゼッションを重視。全体として、粘り強いプレースタイルが特徴のチーム。
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  3. 1982年創刊のアメリカ合衆国の全国紙であり、ガネット社が発行している。平易な文章と豊富なビジュアル、カラフルな紙面が特徴で、政治、経済、スポーツなど幅広いニュースを読者本位の視点で提供する。アメリカ初の全国的な一般紙として多くの読者を持ち、デジタル化も推進している。分かりやすい情報提供が評価される一方、詳細な分析には課題もあるとされる。
    ↩︎
  4. スペンサー・カーベリーは、監督として非常に高く評価されている。コミュニケーション能力、戦術的な柔軟性、スペシャルチームの改善、そしてチームの成績向上によって、コーチ・オブ・ザ・イヤーを獲得してもおかしくないとの声も多い。AHLやECHLでも成功を収めており、今後の活躍が期待される。 ↩︎
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