はじめに
NHLの古豪シカゴ・ブラックホークスが取り組む、オフ・シーズンにおける「チーム強化戦略」を分析する記事の「後編」です。前編はこちら→☆。サンノゼ・シャークスが早々とリーグ全体順位の最下位に定着したとはいえ、今シーズンのシカゴ「も」全く冴えませんでした。
GM、カイル・デビッドソンがやり手で抜け目ない人物であるのはよく分かるのですが、とにかくドラフト指名権獲得に懸命なあまり、「何か」が抜けているような気がしてなりません。今回、そんな彼がどうチーム事情を見ているのかが明確に出ている記事です。
つまり、今いる若手を鍛えようとしているのか、それとも数名の若手を残して、後は全部切り捨てようとしているのか。彼のマネーゲーム、いや指名権獲得ゲームは、どうやら後者を示しているようです。それよりも、現場スタッフの大幅な見直しが必要なんじゃないかと…。
試合を見ていても、一人ひとりは個性豊かで、能力も平均以上なんだけどにゃ。
守備の詰めの甘ささえクリアすれば、もっと強くなるような予感をさせるチーム。
守備重視の監督さんを連れてくれば、ガラッとチームが変わるよ、GM!
引用元:The Athletic.com「What to know about Blackhawks’ offseason: NHL Draft, cap space, free agency」
ゴールキーパー陣の人材は豊富だが…
チーム内に4人目のゴールキーパー
ブラックホークスのチーム内において、ゴールキーパーの状況がこのように展開するとは、おそらく想像していなかったでしょう。彼らは、アルヴィド・セーデルブロム(24歳)がAHLからNHLに活躍の場を変え、今シーズンNo.1のゴールキーパーになることを期待していました。
それどころか、セーデルブロムはNHL最初のシーズンで苦戦し1、ペトル・ムラゼク(32歳)は予想以上に良いプレーをし、彼は頼りになる男となりました。
ムラゼクとセーデルブロムが来シーズンに向けて契約を結んだことで、ブラックホークスは同じタンデムで戦えるでしょう。たぶん、セーデルブロムなら何とかしてくれるかもしれません。
しかし、セーデルブロムがそうしないとなると、ブラックホークスは再び彼に2番手(ゴールテンダー)の座を渡したくないかもしれません。
ブラックホークスはまた、ここ数年、最もフィジカル面での調子も良く、安定していたムラゼクに負担をかけすぎないように注意し続けたいと考えています。
21歳のドリュー・コメッソが2NHLの将来を担うことを、ブラックホークスは期待していますが、チームは彼のAHLからNHLへの昇格を急がせたくありません。少なくとももう1シーズン、アイスホッグスで育成シーズンを与えたいと思っているはずです。
現在24歳の(ジャクソン・)シュタウバーは3シーズン序盤に苦戦しましたが、最近は調子を上げています。彼はここ数週間で最高のプロホッケーをプレーしており、ブラックホークスを少しは躊躇させるかもしれません。
ブラックホークスはロックフォード(・アイスホッグス)のタンデム(セーデルブロムとコメッソ)を(シーズン中に)再び実行し、必要であればセーデルブロムの代役にシュタウバーを考えているのでしょうか?
あるいは、ブラックホークスはシュタウバーを放出し、必要であればAHLとNHLを行き来できる、より実績のあるゴールキーパーを探すこともできるのでしょうか?デビッドソンはいくつかの決断を下さなければなりません。
未来のディフェンス・リーダーを確保せよ
アレックス・ヴラシッチの契約
ヴラシッチとの契約は、デビッドソンにとって、ゼネラル・マネージャーとして長期的な強化プランに合致する選手との最初の大きな交渉です。
これはデビッドソンが任期中にやろうとする最初の大型交渉であり、まず将来のチーム内の(サラリー)キャップ上限に収まるよう、彼は(他の選手の)キャップを正しく設定しようとします。
このオフ・シーズン、(ルーカス・)ライヒェル(左ウィング、21歳)はヴラシッチと同じ立場に立つことになるだろうと思われていましたが、彼はクオリファイング・オファー4と来夏の高額契約を獲得するチャンスを手にしたようです。
その代わり、ヴラシッチはより良いシーズンを過ごし、大幅な年俸アップを自らに課しました。
2月、ヴラシッチの契約がどのようなものになるのか、を当サイトでは深く掘り下げてみました。しかし、手短に言うと、短期契約か長期契約かにもよりますが、サラリーキャップ上限の4〜6%の金額を手にすることになるでしょう。
ヴラシッチはブリッジ契約(短期契約のこと)で約350万ドル(約5億4千万円)、または長期契約で525万ドル(約8億1千万円)に近づく可能性があります。
ブラックホークス側の視点から見ると、ヴラシッチは攻撃力が高く、すでにエリート・ディフェンダーとしての兆しを見せているため、ヴラシッチを長期契約でつなぎとめ、予想よりもさらに多くを支払いたいと思っているかもしれません。
ヴラシッチ側の視点から見ると、彼はサイコロを転がし、まず短期契約で自分自身のプレーの向上に賭け、(いい成績を残したら)将来的により多くの収入を得ることについて検討できるようにするはずです。
他の多くのRFAは、ブラックホークスにとってそれほど大きな負担にはならないでしょう。ブラックホークスは(ジョーイ・)アンダーソン(右ウィング、25歳)に、今季、ジャレッド・ティノルディ(ディフェンス、32歳)と同様の報酬を与えるかもしれません。
アンダーソンには100万ドル(約1億5千万円)以上の1年か2年契約が与えられると予想されています(ティノルディの報酬は125万ドル=約1億9千万円)。
ブラックホークスとしては、制限付きFAの選手で、「うーん、来シーズン、
使えないかも」と思ったら、あまり引き止めるつもりはなさそうだにゃ。
ヴラシッチを核とするディフェンス陣の構築は分かるが、
相棒となる選手の目処は立っているのかな?
シカゴのサラリー・キャップ、「まあまあ余裕あり」だが…
キャップ・フロアをどうすべきか
今シーズンのキャップ上限は8350万ドル(約129億円)、キャップ・フロア(出来高払いを抜いた基本給の合計)上限は6170万ドル(約95億円)でした。
来シーズンの上限は約400万ドル(約6億2千万円)の引き上げが見込まれるため、キャップ・フロア上限額は約6500万ドル(約101億円)になります。
今のところ、これは来シーズンの予定ロースターです。
フォワード(10):テイラー・ホール(600万ドルのキャップヒット)、フォリーニョ(450万ドル)、ディキンソン(425万ドル)、アンドレアス・アタナシウ(425万ドル)、フィリップ・クラシェフ(225万ドル)、ライアン・ドナート(200万ドル)、ジョーイ・アンダーソン(推定1.25万ドル)、ベダード(950,000ドル)、ナザール(950,000ドル)、ライシェル(推定832,500ドル)。
ディフェンスマン(5):セス・ジョーンズ(950万ドル)、ヴラシック(推定500万ドル)、コナー・マーフィー(440万ドル)、ケビン・コーチンスキー(918,333ドル)、ワイアット・カイザー(916,667ドル)
ゴールキーパー(2):ムラゼク(425万ドル)とセーデルブロム(962,500ドル)。
キャップ・フレンドリー(NHL各チーム、各選手のサラリーを計算するサイト)のカスタム・ロースター・シミュレーターを使用して、これら17人の選手のロースターを元に作成したものです。
ブラックホークスはまだベイリーのバイアウト5で1,166,667ドル(約1億8千万円)を負い、まだジェイク・マッケイブとの契約でサラリーの支払いが200万ドル(約3億円)残っており、(これらを合わせると)ブラックホークスは56,346,667ドル(約87億円)のキャップヒット(選手の平均年俸)となります。
よって、チームは基本給合計の上限より約900万ドル(約14億円)下回っています(それだけサラリーに余裕がある)。
キャップの余裕をどう使うか
ブラックホークスは、このグループにさらに3人のフォワードと2人のディフェンスマンを追加する可能性があります。
若い選手で1、2枠を埋めることができ、(ロックフォードの)ディフェンスマンのイーサン・デル・マストロとフォワードの(ノートルダム大学の)ランドン・スラガートと(ロックフォードの)コルトン・ダッハ(3人共21歳)は、キャンプに顔を出すと思われます。
もちろん、セレブリーニをドラフトで指名すれば、これらもすべて変わるはずです。
しかし、セレブリーニであれ、他の若手選手であれ、ブラックホークスはエントリーレベルの契約のため、キャップ・ルーム(サラリーの余裕分)の多くを費やすことはできません。
デビッドソンには、ロースターの作成を完了し、少なくともキャップ・フロア(の上限)にたどり着くためのさまざまなオプションがあります。彼は昨年のベイリーと同様のトレードを行う可能性があります。
ブラックホークスはベイリーとのトレードの際に第2巡目指名権を受け取り、彼を買い取りました。デビッドソンはまた不要なベテランを引き受け、その選手を(リリースするのではなく)引き留めることもできます。それはムラゼクと(ジェイソン・)ディキンソンでうまくいきました。
デビッドソンはまた何人かのベテランと契約するかもしれません。最後の選択肢を探りましょう。
「何人かのベテランと契約するかも」とあるけど、ベテラン探しの点で、
シカゴはあまり上手じゃないんだにゃ。
ムラゼクとディキンソンにしても、「たまたま活躍できた」という感じだし。
ドラフトに入れ上げている分、トレード方面はややお留守なのか。
フリーエージェントの選手獲得については、やや消極的?
フリーエージェンシー
推測では、このオフシーズン、デビッドソンは少なくとも1人の注目すべきフォワードと1人の注目すべきディフェンダーと契約すると思います。若い選手たちをよりよくサポートするために、デビッドソンは、この2つのポジションをアップグレードするでしょう。
最近、デビッドソンに、ベダードのためになるような若手選手を加えるか、それとも若手有望株でロースター枠をふさがないようにするか、その2つを天秤にかけるかについて質問しました。
「常にバランスを取りながら、どうすればよいかを考えなければならないね」とデビッドソンは言います。「そして、それは確かに検討しているものであり、これまでも検討してきたし、今後も検討を続けていくだろうし、どのように行うのが最善かを考えていくつもりさ。
例えば、複数の目的を同時に満たす可能性のあるさまざまな方法がある。でも、それは簡単じゃない。これを満たす選手を手に入れるのはとてもとても難しいし、見合ったタイプの選手を見つけるのも非常に難しいので、すべてを達成すると言うのは難しい。
しかし、それは間違いなく我々が常に検討しているものであり、短期的および長期的な目標なんだ」。
前に書いたように、ブラックホークスが今年の夏にハイエンドのフリーエージェントを追求すると期待しないでください。サム・ラインハート(センター/右ウィング、28歳。フロリダ・パンサーズ)のような選手がフリーエージェントになった場合、チームは彼を追うつもりはありません。
ブラックホークスは市場価値以上の支払いを厭いませんが、それでも短期契約にとどめたいと考えています。ほとんどの契約で示されているように、彼らの理想とする長さは2年ですが、このオフシーズン、選手によるものの、ブラックホークスはもう少し契約期間を伸ばせると思います。
ここ数ヶ月、フリーエージェントの可能性のいくつかを見てきました。ここでは、12のフォワードの可能性を示しました。そして、7つのディフェンスマンの可能性もありました。
ブラックホークスは他の選択肢を模索することもできましたが、それらの選手が最も理にかなっているようでした。
期待の若手はたっぷり、将来は明るい…ように見える
今後の計画を立てる
ブラックホークスがこのオフシーズンに何をするにしても、デビッドソンの焦点は今から数シーズン先にあることを忘れてはいけません。
キャップの観点から、ベダード、(ケビン・)コルチンスキー(ディフェンス、19歳)、(フランク・)ナザールが2025-26シーズン後に制限付きフリーエージェントになるため、その準備を意味します。
間違いなく2026-27シーズンに向けて、ブラックホークスはより大きなキャップに対する責任を持つことになるでしょう。
ナザールは今年プロに転向しました。来年は、(オリバー・)ムーア(ミネソタ大学)、(ライアン・)グリーン(ボストン大学)、サム・リンゼル(ミネソタ大学)が大学のシーズン終了後に彼と同じ道をたどる可能性が高いです。
ブラックホークスに2024年のドラフトで最初に指名された選手は、2024-25または2025-26シーズンのいずれかに契約すると仮定できます。
(ポール・)ルドウィンスキー(OHL キングストン・フロンテナックス。シーズン終盤、アイスホッグスでもプレー)、ギャビン・ヘイズ(OHL フリント・ファイヤーバーズ、スー・マリーグレイハウンズ)、サミュエル・サヴォア(QMJHL ルーイン・ノランダ・ハスキーズ)は2024-25シーズンにロックフォードに加わる予定です。
ニック・ラーディス(OHL ブランドフォード・ブルドッグス。昨シーズン、アイスホッグスでプレー経験あり)とマーティン・ミシアック(OHL エリー・オッターズ。今シーズン、1試合のみアイスホッグスでプレー)は次のシーズンにチームへやって来ると思われます。
ロマン・カンツェロフ(KHL メタルルグ・マグニトゴルスク)は2026-27シーズンにロシアから到着する予定です。
ブラックホークスは今後数シーズンでプレーオフに進出できるでしょうか?ベダードや他の選手たちが大きな一歩を踏み出せば、不可能なことは何もありません。若い選手の成長にとって、この夏は大きな意味を持つはずです。
しかし、フロントオフィスは、あと数年、プレーオフの話題にブラックホークスが上ると思っていません。彼らはまだ忍耐強いアプローチを取っています。
まとめ
彼らが全員戦力になれば、シカゴの将来は明るい…って、どのチームも同じくらいの若手を抱えてはいます。シカゴの場合、ベダードという「宝石」を既に手に入れているので、問題は彼をより輝かせる選手が誰なのか、これを命題にしてチーム造りをすべきでしょう。
シーズン前、「線が細い、使えないかも」と言われていたベダードは、フタを開けてみると、そんな声の存在をかき消すほどの大活躍でした。プレーオフという、彼の能力がさらに発揮できる場所で、そのプレーを見たいのはすべてのホッケーファンの願いです。
その願望の強さに比して、シカゴのフロントの動向はやや遅いように感じます。彼がRFAの権利を手にした時、「確実に勝てるチーム」にしておかないと、彼のメンタル面で「このチーム、大丈夫かな」って思いが芽生えるかもしれません。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- セーデルブロムの今シーズンの成績は、32試合出場、5勝22敗、平均セーブ率.880、平均失点3.89。ムラゼクは56試合出場、18勝31敗、平均セーブ率.908、平均失点3.03。
↩︎ - 今シーズン、NHL出場歴は無し。AHLロックフォード・アイスホッグスで、38試合出場、18勝16敗、平均セーブ率.906、平均失点2.65。
↩︎ - 今シーズン、NHL出場歴は無し。AHLロックフォードで、31試合出場、18勝8敗、平均セーブ率.902、平均失点2.85。
↩︎ - リーグ全体の戦力バランスを図る制度であり、フリーエージェントの権利を得る選手に対し、所属チームがその年のトッププレーヤーの給料を平均した金額で提示できる1年契約のオファーのこと。
このオファーを受けられるのは、今まで一度も受けたことがなく,その年の全シーズンに渡り、チームのロスターに名を連ねていた選手にのみ権利が与えられる。
↩︎ - シカゴはアイランダーズからベイリーの契約を引き受け、その後、オタワ・セネターズへ放出した際、サラリーの何割かは支払い続けるバイアウト契約になっていると思われる。
通常、26歳以上の選手の場合、バイアウトは契約上の残りのサラリーの2/3。26歳未満の選手の場合、バイアウトは残りの年俸の1/3となる。ベイリーは前者に相当する。 ↩︎