はじめに
NHLにおける「エンプティ・ネット・ゴール」の増加は、近年の試合戦略や選手評価、さらにはフリーエージェント市場にも大きな影響を与えています。
かつては試合終了間際の「おまけ」として扱われていたこのゴールが、今ではゲームの重要な一部として位置づけられるようになりました。選手たちはこの得点機会を積極的に狙い、チーム戦術や個々のパフォーマンスにも大きな変化をもたらしています。
本記事では、エンプティ・ネット・ゴールの増加がもたらす影響について詳しく探っていきます。
サッカーを見慣れてる人には、試合終盤、キーパーも上がって総攻撃!というシーンを思い浮かべてもらうといいにゃ。最初、ホッケー見始めた頃、違和感なく受け止めていたけど、最近のNHLの場合、結構頻繁に見られるから、あれ?って感じになる時あるなぁ。
引用元:dailyfaceoff.com(DailyFaceoff1)「The rise of empty net goals is changing the NHL」
「エンプティ・ネット・ゴール」の増加とその影響
ゴーリーを引っ込めるという戦術が、あまり重要視されていなかった時代がつい最近までありました。試合終了まで1分を切ったころ、コーチがゴーリー交代の合図を送ります。ゴーリーは急いでベンチに向かい、追加のフォワードとともに短いが混沌としたムードの中で攻撃が展開されます。
その時間帯に得点を決めるチームはあまり多くありませんでしたし、リードしているチームもエンプティ・ゴールに試合を決定づけるような得点を決めることは少なかったのです。
近年、NHLにおける「エンプティ・ネット・ゴール」の数が急増しており、この現象は単なる得点機会の増加だけでなく、ゲームの戦略や選手の評価、選手たちの自尊心、コーチングの決定、ベッティング市場、さらにはフリーエージェント市場にまで影響を及ぼすようになっています。
最終的には、選手のパフォーマンスに対する私たちの認識にも影響を与えるようになっています。今回は、「エンプティ・ネット・ゴール」がNHLに与える影響の増大について探っていきます。
実際に数字で増加傾向を見る
最近、「エンプティ・ネット・ゴール」が記録的なペースで決まっているように感じませんか?それは本当にその通りです。先週末までのデータでは、1試合あたり0.42ゴールがそれでした。
「エンプティ・ネット・ゴール」は、もともと試合終了直前の僅かな時間に発生する「おまけの得点」として認識されていました。かつては、試合の終盤でリードしているチームがゴールキーパーを引き、点差を保つために一時的に行う戦術でしたが、近年はその実施タイミングが早まり、頻度も増加しています。
例えば、2005-06シーズン(サラリーキャップ導入初年度)では、「エンプティ・ネット・ゴール」は全体の2.4%に過ぎませんでしたが(約42回に1回。この年、5点がリーグトップ)、2024-25シーズン、最初の四分の一を終えた時点で、その割合は7.0%に達し、「エンプティ・ネット・ゴール」の数は飛躍的に増えて、14回に1回のゴールが「エンプティ・ネット・ゴール」です。
実際、ネイサン・マキノン(センター、29歳。コロラド・アバランチ)はすでに、シドニー・クロスビー(センター、37歳。ピッツバーグ・ペンギンズ)のルーキーイヤー時代の記録を超えて、「エンプティ・ネット・ゴール」で6点を上げています。これにより、このゴールはもはや試合の最後の数分の出来事ではなく、戦術的に重要な役割2を果たすものとなりつつあります。
エンプティ・ネット・ゴールの詰め合わせをどうぞ。
「エンプティ・ネット・ゴール」の戦術的役割
エンプティが増加する背景には、試合終了間際でリードを守るための戦術の変化があります。
以前は試合終盤でリードを保つために、ディフェンシブな選手を中心にプレーが展開されることが多かったのですが、現在では得点力のある選手がエンプティでのゴールを狙う場面が増えています。
特に、攻撃的な選手にとっては、空のネットゴールを得ることで自分の成績を押し上げ、チームの勝利にも貢献できるため、積極的に狙うようになります。このような戦術の変化により、選手の使用方法やチーム戦略が変わりつつあるのです。
「エンプティ・ネット・ゴール」と選手評価
「エンプティ・ネット・ゴール」は、選手の成績や評価にも大きな影響を与えています。特に、攻撃的なスキルを持つ選手たちにとっては、「おいしい」得点機会となり、スタッツ(成績)を大きく押し上げる要因となります。
確かに、クロスビーやレオン・ドライサイトル(センター/左ウィング、29歳。エドモントン・オイラーズ)は優れたフェイスオフの専門家でありますが、別な見方をすれば、ベテランのスーパースターたちは、自身のスタッツを膨らませるための「低カロリーなポイント」を得ていることになります。
ペナルティキラーやシュートブロッカーのように、試合時間の58分で守備の責任を担っている選手たちではありません。
NHL.comから、ここ3シーズン(2021-22〜2023-24)の「エンプティ・ネット・ゴール」の上位選手を見ると、リストのトップ50の中で、伝統的なボトム6(試合時間が16分未満の役割)のフォワードは、ブランドン・タネフ(左ウィング、32歳。シアトル・クラーケン)とマイケル・ラスムッセン(センター、25歳。デトロイト・レッドウィングス)の2人だけです。
例えば、2023-24シーズンでは、ニキータ・クチェロフ(右ウィング、31歳。タンパベイ・ライトニング)が「エンプティ・ネット・ゴール」14点を記録し、過去の記録3を塗り替えました。このゴールがなければ、クチェロフはマキノンに差をつけられていた可能性もありますが、このゴールによって、アート・ロス・トロフィー(最多ポイント選手賞)を獲得することができました。
昨年4月、7-4でモントリオールに勝った試合で、クチェロフが3分11秒にわたってエンプティを狙うシーンを見ました。そのうち2分12秒は氷上に出続けてのプレイです。これはチームのために試合を決定づける最良の選択肢でも、プレイオフ進出を助ける目的でもありませんでした。
マキノンにアート・ロスを譲らないために、ただ「フリーなポイント」を得るためのプレイでした。メジャーな賞を手にするチャンスがいつ来るかはわからないですし、ゴーリーがいる状態で、誰もマキノンがクチェロフを上回っていたことなど記憶に残しません。
エンプティでのポイントは、今やスター選手が報われる当たり前の方法の一部となっています。選手がエリートであろうと、そこそこの実力を持つ選手であろうと、またはディフェンス面に問題のある選手であろうと関係ないのです。ゴーリー交代が早い段階で行われる現代ホッケーで、もはや長いシーズン中の「おまけポイント」ではありません。
「エンプティ・ネット・ゴール」リーダーの中で、ペナルティキルを行っているのは(守備でも働いているのは)ブランドン・ハーゲル(左ウィング、26歳。タンパベイ・ライトニング)だけで、1試合あたり35秒以上です。
カロライナ・ハリケーンズのマーティン・ネチャス(センター、25歳)は、ついにNHL.comの主要なスタッツページに顔を載せることができました。彼は他の選手たちを大きく上回るパフォーマンスを見せています。ネチャスはエンプティでのポイントを1つも獲得していません。
シーズン開始早々のライバルであるマキノン(6点)、キリル・カプリゾフ(左ウィング、27歳。ミネソタ・ワイルド。5点)、ミッコ・ランタネン(右ウィング、28歳。コロラド・アバランチ。5点)は、ゴーリー不在で有利な配置でプレーしています。一方、ネチャスはエンプティの状態で氷上にいたのは合計27秒に過ぎません。
カロライナは、主に守備を担うジョーダン・スタール(センター、36歳)やジョーダン・マーティヌーク(左ウィング、32歳)といった選手をエンプティの時間帯に配置しています。それは理にかなっています。
しかし、タンパベイやコロラドでは、こうした時間帯にはスタープレイヤーが配置され、スタッツを膨らませることが一般的です。守備を担当する選手たちではなく、攻撃的な選手がそのチャンスを得ているのです。
攻撃的な本能が強い選手は、ゲームを決定づけるために「エンプティ・ネット・ゴール」に向けてシュートを打つスキル(または反撃を受けない自信)を持っていると考えられます。
しかし、「エンプティ・ネット・ゴール」リーダーを見ていくと、試合終了間際、ある程度得点でリードしている選手たちがほとんどであり、監督がディフェンシブな状況で使うことを避ける選手たちばかりなのです。
「エンプティ・ネット・ゴール」がFA市場に与える影響
このゴールは、フリーエージェント市場にも影響を与えています。ゼネラルマネージャーというものは、チームの選手補強がオーナーやファンの期待に応えるためだと言ったり、選手がその年の任意の基準を達成したからと説明したりすることはありません。
しかし、フリーエージェンシーはロッカールームやアリーナの熱気を高めるための営業活動であり、短期的な成果を上げるための手段でもあります。もし運が良ければ、短期間で結果を出すことができるかもしれません。
選手の成績において、このがどれだけ重要であるかは一見分かりにくいものの、これが選手の評価を高める要因となっているのは事実です。
例えば、ジェイク・ゲンツェル(左ウィング、30歳。タンパベイ・ライトニング)は、30ゴール・77ポイントという成績を収め、そのうち12点はエンプティによるゴールでした。これはNHL史上2番目に多い数字です。
守備的な数字ではリーグでも最も不安定なフォワードの一人と評価されていますが、クロスビーのラインメイトとしてエンプティでポイントを積み重ねています。もしそのゴールがなければ? ゲンツェルは昨シーズン、23ゴール・65ポイントにとどまったでしょう。
この成績によって、ゲンツェルがフリーエージェント市場で注目される大きな要因となったと考えられます。エンプティによるゴールで成績が膨らむと、選手の価値が上がるため、契約交渉においても有利に働くことがあります。
ジョナサン・マーシェソー(左ウィング、33歳。ナッシュビル・プレデターズ): 42ゴールを挙げた23-24シーズンであれば、簡単に市場で自分を売り込めますが、マーシェソーはそれまで30ゴールを超えたことがなく、その爆発的な得点力に対しては疑念を抱かれていました。
詳しく見ると、7回のエンプティを記録しており、これはリーグ最多タイの数字です。35ゴール、62ポイントのシーズンであっても、42ゴールには及びません。
スティーブン・スタムコス(センター、34歳。ナッシュビル・プレデターズ): 大型契約が6ポイント差で決まることはないと考えるべきですが、スタムコスはエンプティによってポイントの増加を見せています。40ゴールを挙げるスコアラーであり、1試合1ポイントのペースを維持していました。
もしエンプティのゴールがなければ、スタムコスは37ゴール、75ポイントにとどまっていたでしょう。
これらの選手たちは、すでに高い評価を受けており、契約を結ぶ準備ができていた選手たちですが、それでもエンプティ利用したスタッツの膨張が契約において好まれる場合もあります。
もちろん、エンプティがどれほど彼らに利益をもたらしたかは正確にはわかりませんが、数字が大きくなることで、(契約の)追加年数や金額が「数値を見れば納得できる」形でより説得力を持つことは確かです。
プロ野球の契約更改で、ホームランたくさん打っても、試合の流れに関係ないところで打ったのが多ければ、その選手の能力に?を付けた方がいい、という記事なんだにゃ。うーん、最大6人の相手をかわして、ゴールするってのもそれなりに技術ないとできないはずだが。
「エンプティでのポイント」も他のポイントと同じか?
エンプティでのゴールは、ホッケーにおける重要な要素になりつつあります。「ポイントはポイントだ」と考える人々に対して、確かにパワープレーの機会やラインメイト、アイスタイム、競争相手などが得点に影響を与える事実がまずあることを認識してもらいたいです。
しかし、ゴーリーがいない状態で氷上に立つことはそれとは異なります。「ゴーリーがいない」、つまりこれらはフリーな状態で簡単に取れるポイントです。そして、このような時間帯にプレーするフォワードの多くは、守備的には大きな問題を抱えている選手たちです。
エンプティは、選手のパフォーマンスに対する認識を変えつつあります。この重要なゲームの場面は、選手の起用法、統計、評判、賞、そしてフリーエージェンシーにも影響を与えています。
ホッケー界に様々なトレンドが増えている今、エンプティは長い間孤立した存在であり続けたのですが、今こそその重要性に注目する時が来たと言えるでしょう。
まとめ
「エンプティ・ネット・ゴール」は、単なる得点の機会以上の意味を持つようになっています。選手の評価やチーム戦略、フリーエージェント市場にまで影響を及ぼし、選手たちがこのチャンスをどう活用するかが、今後のキャリアに重要な要素となることは間違いありません。
ゴーリーがいない状況での得点は、いわば「おいしいポイント」として、選手たちのスタッツや価値に直接的な影響を与えています。ホッケー界の新たなトレンドとして、エンプティ・ネット・ゴールが注目を集めている今、その重要性を改めて認識する必要があるでしょう。
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- NHLの最新情報や戦術、ファンタジーホッケーに特化したウェブサイト。主に、各チームのライン予測や選手のパフォーマンスデータ、怪我情報を提供しており、ファンタジーホッケーをプレイする人々にとって貴重なリソースとなっている。
また、試合前のラインコンボや選手評価、トレード情報なども掲載されており、ファンやプレイヤーが試合に向けて最適な決定を下す手助けをしている。特にファンタジーホッケーのアドバイスや週ごとのランキングが充実しており、プレイヤーの成績向上に役立つ情報が多く提供されている。
↩︎ - 現代のNHLの監督は、1シーズンあたり平均14回の「エンプティ・ネット・ゴール」を決める機会があることとなる。そして、それらの機会はスター選手に与えられる。
2023-24シーズン、各チームは平均13.8回の「エンプティ・ネット・ゴール」を決めている。ウィニペグは24回で、2015-16シーズン以来、ダラスが保持していた記録に並んでいる。以下、タンパベイ(23回)とフロリダ(21回)が続いている。
一方、最も少なかったのはシャークスで、わずか4回にとどまった。
↩︎ - それまでは、ブレイク・ウィーラー(右ウィング、38歳。現在フリー・エージェント。2018-19シーズンの12点)が最高。 ↩︎