シカゴ・ブラックホークスのオフシーズン戦略を分析する【前編】

NHLチーム紹介

はじめに

 昨年と比べ、やや盛り上がりに欠けると言われている今年のNHLドラフト。あっと言わせるような指名をするチームが現れるのか、それとも各チームが冒険をすることなく、それぞれの弱点を補う堅実路線で終わるのか。

 昨年のドラフトの超目玉、「NHLの未来」コナー・ベダードを見事釣り上げたのが、シカゴ・ブラックホークスGM、カイル・デビッドソン。今シーズンもパッとしない成績に終わったシカゴ、しかし、ドラフトとなると、急にイキイキするのが、最近のこのチームの特技でして。

 またもくじ運の強さを発揮して、シカゴが全体1位指名確実とされるマックリン・セレブリーニを射止めるかどうか。そんな「ドラフトの主役」シカゴの内情を2回にわたって解説していきます。

讃岐猫
讃岐猫

引用元:The Athletic.com「What to know about Blackhawks’ offseason: NHL Draft, cap space, free agency」。

35歳のGM、このオフ・シーズンはどう出るか?

 カイル・デビッドソン1は、シカゴ・ブラックホークスのゼネラルマネージャーとして、3度目のオフシーズンを迎えようとしています。

 最初のオフシーズン(2022年)、デビッドソンは再建計画をさらに実行し始めました。彼はアレックス・デブリンキャット(オタワ・セネターズへ)とカービー・ダッハ(モントリオール・カナディアンズへ)をトレードし、ドラフト指名権(いずれも第1巡目指名権)を獲得しています。

 彼はまたキャップ・スペースを武器にして、ドラフト指名権(第1巡目指名権)とトロント・メープルリーフスからペトル・ムラシェクと彼の契約を引き受けました。その年のドラフトで、デビッドソンは1巡目から2巡目までの5人の選手を含む合計11人の選手を指名しています。

 2回目のオフシーズン2(2023年)、デビッドソンは幸運に恵まれ、NHLドラフトの指名順抽選に当選し、コナー・ベダードを1位指名しました。彼はまた、1巡目から2巡目までの4つを含む、さらに10のドラフト指名権を持っていたのです。

 デビッドソンはキャップ・スペースを再び利用し、ニューヨーク・アイランダーズからジョシュ・ベイリーの契約を3買収して(数ヶ月後、オタワ・セネターズへ売却)、ドラフト指名権(第2巡目)を獲得しました。

 デビッドソンはまた、テイラー・ホール、4ニック・フォリーニョ(両者ともボストン・ブルーインズから)、コーリー・ペリー(タンパベイ・ライトニングから)を獲得し、NHLのロースターに実績のあるベテランを加え、(シアトル・クラーケンから)フリーエージェントとなっていたライアン・ドナートと契約しました。

 では、3回目のオフシーズンには何を期待できるのでしょうか?ここでは、何が起こるかの概要を説明します。

もしセレブリーニが加入した場合、他の選手とのバランスが…

マックリン・セレブリーニ(獲得)計画

 ブラックホークスは、5月上旬に行われるドラフト抽選でどこに着地するかがわかるまで、来シーズンの主要なロースター決定を下すつもりはありません。

 ブラックホークスが再び抽選に当たった場合(実際、オッズは昨年よりも5高くなっています)、マックリン・セレブリーニ6をドラフトで指名することは、ブラックホークスの将来の計画のすべてを形作るでしょう。

 一つには、ブラックホークスは、ベダードとセレブリーにという未来のNo.1&2のセンターを持つことになります。これは、ブラックホークスのドラフトで指名された他のセンターにも影響する可能性が高いとされています。

 そのうちの何人かはまだセンターで起用される可能性がありますが、期待されているほどの選手でないのは確かです。フランク・ナザール7、オリバー・ムーア(ミネソタ大)、ライアン・グリーン、マーティン・ミシアック、ポール・ルドウィンスキー(両者ともOHLやAHLのチームで活躍中)らが候補に挙がっています。

 ちなみに、グリーンはジュニア・シーズンのためにボストン大学に戻ります。

 来シーズン、セレブリーニはNHLに加入する可能性が高く、そうなれば、現在のロースター構成や、このオフシーズン、デビッドソンがどのようにアプローチするかを変えるでしょう。

 ブラックホークスが来シーズンにベダード、(既にNHLデビューを果たしている)ナザール、セレブリーニをラインナップに入れるなら、デビッドソンはおそらく、彼らをサポートする実績のあるウイングを何人か獲得する気になるでしょう。

 ジェイソン・ディキンソン(2022年10月、2024年ドラフト第2巡目指名権とともに、ダラス・スターズから移籍)を第4ラインのセンターに起用することも、彼らの助けになるはずです。

讃岐猫
讃岐猫

今年のドラフトはやや不作。指名できなかった場合、不安な面も…

マックリン・セレブリーニ以外のプラン

 さて、ブラックホークスが再び抽選に当たらなければ、今シーズンを31位でフィニッシュしたことにより、ドラフト上位4位以内の指名権獲得を保証される可能性が高くなります。

 今年のドラフトは、昨年の上位指名ほど豊作ではないと思われています。1年前、ベダードは大当たりの選手でしたが、他にもアダム・ファンティリ、レオ・カールソン、ウィル・スミス、マトヴェイ・ミチコフもエリート選手候補と考えられていました。

 今年は、セレブリーニと、それ以外の選手達とのレベルの落差が大きいとされています。

 とはいえ、ブラックホークスが2番目、3番目、または4番目の指名権獲得で終わった場合、将来インパクトのある選手を獲得できると確信しています。もし彼らが守備を完成させる可能性を考えているのなら、2月に記事にしたアルチョム・レフシュノフ8が選択肢になるでしょう。

 チームがベダードにランニングメイトを与えようとしているなら、ウィンガーのイワン・デミドフ9は興味深い選択肢になるかもしれません。最近、デミドフについても記事にしました。他にもトップ10入りが期待されているディフェンスマンがたくさんいます。

 他のフォワードに関しては、より大きなセンターを必要とする場合はケイデン・リンドストローム10が、純粋に得点力のあるウイングが必要な場合はコール・アイザーマン11が、それぞれ候補に挙がる可能性があります。

 セレブリーニを除けば、ドラフト対象選手で、来シーズンのNHLに出場できそうな選手はいません。すでに肉体的に成熟しているレフシュノフには、NHL以外でチャンスがあります。

 チームは、プロレベルでのプレーに適応するために、チームは少なくともシーズンの一部をAHLでプレーさせることもできるでしょう。レフシュノフが大学で2度目のシーズンを迎えることを、ミシガン州立大学は期待しています。

ライトニングからもらった「もう一つの第1巡目指名権」

トップ4以外のドラフト指名権

 トップ4の指名権に加えて、ブラックホークスにはタンパベイ・ライトニングから譲り受けた第1巡目指名権、3つの第2巡目指名権、2つの第3巡目指名権、1つの第5巡目指名権、1つの第6巡目指名権もあります。

 ブラックホークスのアマチュアスカウト・ディレクター、マイク・ドネギーは再び多くの仕事をこなすことになるでしょう。

 もちろん、ブラックホークスは、ライトニングのプレーオフ早期敗退を12望んでいます。もしブラックホークスが20位前後で指名できれば、ハッピーと言えるでしょう。

 コーリー・プロンマン(スポーツ情報サイトThe AthleticのNHL若手選手情報に強いライター)とスコット・ウィーラー(The AthleticのNHLドラフト情報に強いライター)のランキングをもっと詳しく見て、誰がブラックホークスに当てはまるかを見極めることができます。

 彼らの報道を読んだ後、イゴール・チェルヌイショフ13やマイケル・ヘイジ14のような選手が、ブラックホークスに興味を持つかもしれないと思います。

 ブラックホークスはまた、早い段階での第2巡目指名権を持っています。他の2つの2巡目指名権はプレーオフ・チームから獲得したもの(ロスアンゼルス・キングスとバンクーバー・カナックス。現時点で全体54位と62位と予想)なので、少し遅い指名順になるかもしれません。

 しかし、2巡目までで合計5人の指名権を獲得しているブラックホークスは、再建計画の一部となる選手を多く獲得するはずです。

讃岐猫
讃岐猫

誰を放出するか、若手であろうが容赦しない!

フリーエージェントの決定

 ブラックホークスは、既に無制限のフリーエージェントになる予定だったムラゼック、ディッキンソン、フォリーニョと再契約を結んでいます。彼ら以外、ブラックホークスが他のUFA(無制限のフリーエージェント)選手と再契約する可能性は低いと思われます。

 ブラックホークスは、制限付きフリーエージェント(RFA)選手を多数再獲得する見込みです。アレックス・ヴラシッチ(ディフェンス、22歳。今シーズンは76試合、2ゴール・14アシスト)がメインになるでしょうし、彼の契約については後ほど詳しく説明するつもりです。

 ブラックホークスと再契約する可能性の高い他の制限付きフリーエージェント(RFA)は、ルーカス・ライシェル(左ウィング、21歳。65試合、5ゴール・11アシスト)、ジョーイ・アンダーソン(右ウィング、25歳。55試合、5ゴール・12アシスト)、コール・ガットマン(センター、25歳。27試合、4ゴール・4アシスト)、アイザック・フィリップス(ディフェンス、22歳。33試合、0ゴール・6アシスト)、ルイス・クレビエ(ディフェンス、22歳。24試合、0ゴール・3アシスト)です。

 ブラックホークスは、その他の制限付きフリーエージェント(RFA)について、彼らから手を引くか(契約しない)、あるいは潜在的能力を持つNHL第3・第4ライン候補のプレーヤー、またはAHLにいる何人かのベテラン選手と再契約する可能性があります。

 その他のRFAには、リース・ジョンソン(センター、25歳。42試合、2ゴール・3アシスト)、マッケンジー・エントウィッスル(右ウィング、24歳。67試合、5ゴール・6アシスト)、テイラー・ラディッシュ(右ウィング、26歳。73試合、5ゴール・9アシスト)、フィリップ・ルース(ディフェンス、25歳。4試合、0ゴール・0アシスト)、ミハル・テプリ(右/左ウィング、22歳。AHL)、ジャクソン・スタウバー(ゴールテンダー、24歳。AHL)が含まれます。

まとめ

 切られるかもしれないRFAの選手をざっと見てみると、20代半ばの中堅選手で、試合数はそれなりに出ていても、貢献度はイマイチかな…という選手が多いみたいです。ドラフトの指名順が決まった時点で、まず数名切る予感はします。デビッドソンは、そういうGMですから。

 NHL草創期から存在するチームですから、ここ数年、スタンレーカップ決勝など夢のまた夢、プレーオフにすら進めないのは屈辱以外の何物でもありません。とはいえ、ドラフト上位指名権獲得のために、生え抜きの若手〜中堅の実力をろくに吟味もせず、使い捨てなのはいかがなものか。

 後編では、デビッドソンがどういう目で「シカゴ・ブラックホークス」というチームを見ているのか、各ポジションの選手をどう考えているのかを、より具体的な例を挙げて説明していきます。

讃岐猫
讃岐猫

【註釈】

  1. 彼のプロフィールと昨年のドラフトについては、以前、このブログでも触れている。詳細はこちら→
    ↩︎
  2. 批評家からは、デビッドソンによる有望選手のトレード、それに伴うドラフト上位指名権の獲得、あるいはベテラン選手の契約を引き取る(すぐにリリース)代わりに、ドラフト上位指名権を要求するやり方について、否定的なコメントをされている。

     特にコナー・ベダード獲得の際、下位チームの方が上位指名権を得やすいため、わざと2022-23レギュラー・シーズンで負けたのではないか、との声もある。他チームで余剰戦力となっているベテラン獲得や、得点力のあるシカゴの主力選手放出が根拠となっている。
    ↩︎
  3. 2023年6月29日、当時在籍していたアイランダーズのサラリーキャップが上限間近だったため、より多くのキャップ・スペースを持つチームに、ベイリーの契約は譲渡されることとなる。そこで手を挙げたのがシカゴである。

     2026年の第2巡目ドラフト指名権とともにトレードが成立。シカゴはベイリーを無条件FA選手とし、約2ヶ月後の9月14日、ベイリーはオタワ・セネターズとプロのトライアウト(PTO)契約に署名。しかし、10月8日、オタワはPTO契約を終了させ、ベイリーは無所属となり現在に至る。
    ↩︎
  4. ホール、フォリーニョ、ドナートは現在もシカゴ在籍中であるが、ペリーは2023年11月にチームの規律違反のため契約終了となっている。本件については、以前、このブログでも触れている。詳細はこちら→

     2024年1月22日、ペリーはエドモントン・オイラーズと1年契約を締結。
    ↩︎
  5. 様々な予想サイトが存在するため、どれが正確なデータであるかは判別できないが、昨年5月時点でのシカゴ1位指名権獲得確率は概ね11.5%前後であり、今年4月時点で言われている確率13.5%より低い。
    ↩︎
  6. 彼については、以前、このブログでも触れている。詳細はこちら→。ちなみに、サンノゼ・シャークスの1位指名権獲得確率は18.5%となっている。
    ↩︎
  7. 2022年のNHLドラフトで、シカゴから総合13位指名される。ミシガン大学でプレー後、2024年4月13日、シカゴと3年間のエントリーレベルの契約を締結。翌日、レギュラーシーズンのシカゴの最後のホームゲームでNHLデビュー。ゴールも決めている。
    ↩︎
  8. ベラルーシ出身、18歳のディフェンスマン。現在ミシガン州立大学アイスホッケー部に在籍。2022年、デンマークで行われた世界ジュニア選手権で、ベラルーシ代表として活躍。多くはアナハイム・ダックスが3位指名すると予想している。
    ↩︎
  9. ロシア出身、18歳の右ウィンガー。センターもできる。KHLのSKAサンクトペテルブルク傘下チームに所属しており、トップ・チームへのデビューも果たしている。予想サイトでは、シカゴの本命は彼ではないかとも言われている。
    ↩︎
  10. カナダ出身、18歳でありながら、前線のどのポジションもこなす。WHLのメディスン・ハット・タイガースに所属し、32試合出場、27ゴール・19アシストを記録。193センチ・98キロの体格を誇る。
    ↩︎
  11. 米国出身、17歳の左ウィンガー。予想サイトでは、モントリオール・カナディアンズが5位指名するとされているが、本人がボストン大学でのプレーを希望しており、指名されても、NHLデビューはしばらく先になりそう。
    ↩︎
  12. 条件付き指名権トレードの場合、ライトニングのプレーオフの成績次第、指名順が下がる可能性あり。

     つまり、プレーオフ進出チームの最終順位は確定していないため、例えばライトニングが優勝カップを掲げた場合、最終順位1位となり、逆に指名順は32番目となる。ライトニングの1巡目指名権を持っているのはシカゴなので、シカゴの指名順も自動的に32番目となる。
    ↩︎
  13. ロシア出身、18歳の左ウィンガー。昨シーズンまではKHLのディナモ・モスクワの傘下チームでプレーしていたが、今シーズンからトップ・チームに定着。予想では、ワシントン・キャピタルズが17位指名するとされている。
    ↩︎
  14. カナダ出身、18歳のセンター。USHLのシカゴ・スティールで54試合出場、33ゴール・42アシストと無双状態。予想では、ベガス・ゴールデンナイツが19位指名するとされている。彼もミシガン大学進学を希望している。 ↩︎
タイトルとURLをコピーしました