はじめに
いよいよトレード・デッドライン、3月8日を迎えようとしています。以前、カルガリー・フレームズ→ダラス・スターズへトレードされたクリス・タネフや、NHLからAHLに配置転換されたワシントン・キャピタルズのエフゲニー・クズネツォフの例を挙げました。
どちらもあまり元いたチームとしっくりいっていない感じもしましたし、クズネツォフはまだどうなるか不透明な部分もあります。ベテラン選手である2人は、ある意味、若返り策や完全FA資格を得る前に出された訳でもあり、サラリーキャップがある以上、仕方ないのです。
さて、今回のアレクサンダー・ナイランダー(左ウィング、26歳)は、彼らと違い、ドラフト一巡目指名であるにもかかわらず才能開花の点で今ひとつなため、「より自分のプレースタイルに合ったチーム探し」のためのトレードと言えるでしょう。どうやら彼は居場所を見つけたようです。
NHLに限らず、北米四大スポーツにおける「ドラフト一巡目指名」は、
相当なステータスを持っているんだにゃ。
指名順は一生付いて回るし、それが能力評価の重要な物差しにもなる。
トレードの際、指名権が選手以上の価値を示すんだから、当然と言えば当然か。
引用元:NHL.com「Nylander finding the right fit early in his CBJ tenure」
1st Ohio Battery.com「COLUMBUS BLUE JACKETS FORWARD ALEXANDER NYLANDER WILL BE GIVEN EVERY OPPORUNITY TO MAKE A NAME FOR HIMSELF」
ドラフト一巡目選手、安住の地を見つけたか?
土曜日、シカゴでブルージャケッツが勝利した後、コール・シリンジャー(センター、20歳)は、新加入のアレックス・ナイランダーと、ラインメイトのアレクサンドル・テクシエ(センター、24歳)との相性の今の様子について質問されました。
シリンジャーは、ナイランダーについて、ある程度のスキルを備えた賢いホッケー選手だが、ラインメイトとして集まってからまだ4試合しか経っていない1、と指摘しています。
シリンジャーとテクシエと一緒にプレーすることは、右利きのナイランダーにマッチしている(2人ともシュートは左打ち)。ディフェンス・ゾーンにおいて、このトリオがシフト中に相手パックを奪い、数的優位の状況を作り出せる能力を示していると、コーチング・スタッフは信頼を置いている。
4試合の平均出場タイムは15分23秒と、それまでのキャリア平均の12分24秒を3分上回っている上に、ベガス戦前までで3ポイント(1ゴール・2アシスト)の成績を残している。
ナイランダーはリーグ最低額に近い77万5,000ドル(日本円で約1億1千万円)の年俸で契約しており、今季終了後には仲裁資格のあるRFA(制限付きフリーエージェント)となる。今後の22試合において、ブルージャケッツはこのウインガーのトライアウトを行い、その後コロンバスでの彼の将来がどうなるかを決めることができる。
「僕らはこのまま続けないといけないね」とシリンジャーは語りました。
月曜の夜、彼らはラインメイトとなっていなかっただろうか(いや、充分すぎるくらいなっていた)。
昨シーズンのチャンピオンを撃破!
ブルージャケッツでの選手生活を始めてわずか5試合目で、ナイランダーはキャリア初のハットトリックを達成し、ディフェンディング・チャンピオンのベガス・ゴールデンナイツ相手に、チームを6-3で勝利させました。
第3ピリオド序盤、シリンジャーからのパスを受けた後、左サークルからラッシュをかけて得点し、CBJはリードを4-2としました。そして、そのスピードを活かして、同じピリオド、エンプティ・ネットにゴールを決めて、ジャケッツの勝利を決定づけています。
「マジで信じられないよ」とナイランダーはハットトリックについて語りました。「僕らのラインは順調で、素晴らしい成果を上げている。僕らはそこで素晴らしい相性・連携を見つけたみたいだ。僕らはエネルギーに満ちあふれていて、毎晩同じように進み続けるだけさ」。
賢さ、スピード、スキル、そして優れたショット-ナイランダーはピッツバーグとのトレードで2月下旬に獲得したため、それもあって新チーム加入後の序盤戦で目を引くのです。
環境変化に比例して、大幅にプレースタイルまで素晴らしいものになった、
典型的なパターンだにゃ。まだ20代半ばだし、成長の途中にあるのは間違いない。
故障離脱者の多いチームを救っていけば、さらに評価が上がると思う。
コロンバスの監督も絶賛!
「彼は1巡目で指名されたんだよね?」ヘッドコーチのパスカル・ヴィンセントはこう語りました。「そして、それにはちゃんとした理由があるね。ナイランダーが素晴らしいスピードと優れたスキルを持っていることは分かっていたよ。
僕は過去に何回か見たことがあってね、皆さんも同じように見たり感じたりしたと思うけど、彼の素晴らしさがしっくり来るまで、チームに合うか・合わないかが出てくるものなんだ。
ナイランダーはコロンバスに来ることを本当に楽しみにしていた。我々は彼に良いプレーの機会を与えると伝え、彼はそれを早速利用したって訳だ」。
「ナイランダーは賢いホッケー選手だ。我々が目にしているのは彼のスピードとスキルだね。もちろん、今夜、彼は3ゴールを決めて、それは彼にとって本当に良かったことなんだけど、それ以上に私は彼の頭脳と彼のプレー仕方が気に入っている。
彼にとっても、我々にとっても良いスタートを切れた」。
ナイランダーの過去と現在
ナイランダー・ウィズ・ザ・ジャケッツにとって、チーム加入序盤の活躍がいかに魔法のようなものだったかを示す数字は数多くあります。
彼と新ラインメイトはここ3試合で7ゴール(ナイランダーが4ゴール、シリンジャーが2ゴール、テクシエが1ゴール)を挙げており、そのうち6ゴールは、アイスリンク上の敵味方の人数が互角の時に記録されたものでした。
そして兄弟コンビはどうなったのか――2月23日、コロンバスにおけるナイランダーの初戦以来、今まで挙げた彼の4ゴールはNHL8位タイであり、兄のウィリアム(トロント・メープルリーフス所属、右ウィング、27歳。彼も弟同様、ドラフト全体8位指名)の8ゴールはリーグ7位タイとなっています。
父親のマイケル・ナイランダー2(アレックスがブルージャケッツで着用している背番号92を長らく着けていた元NHL選手)はどこかで微笑んでいるに違いありません。
「彼ら(家族)は本当に喜んでいるだろうね」とアレックスは家族について語りました。「コロンバスは私にとって本当に良い場所さ。チームは私にここで素晴らしい機会を与えてくれて、本当に幸せだよ。
ここでより快適に過ごせるように手伝ってくれる、素晴らしい人たちがいるんだ。ここにいる間は、毎日一生懸命頑張るだけさ」。
2016年のドラフトで全体8位で指名された25歳のナイランダーは、プロとしてのキャリアが始まって以来3、バッファロー、シカゴ、ピッツバーグ(皮肉なことに今夜のジャケッツの相手チーム)と渡り歩いてきました。
ナイランダーはAHLレベルでは4信頼できるスコアラーでした。NHLで適切なポジションを見つけるのに苦労していましたが、おそらくヴィンセントが言ったように、最終的にコロンバスが本当に良い場所となる5でしょう。
「このチームは僕にプレーをさせてくれて、できる限り最高のプレーができるように助けてくれている」とナイランダーは語りました。
「ここにいるのは、素晴らしい仲間たちによるチームだ。ラインメイトが本当に助けてくれていて、それは素晴らしかったよ。チームに来て素晴らしい最初の週だったから、ここでのすべての試合をただ楽しみにしているよ」。
NHL情報サイトの中には、まだナイランダーの能力に疑問符を付けているものもあるにゃ。
現在、サード・ラインに定着しつつあるけど、
今シーズン終了までは与えられた場で頑張って、とにかく長期契約を勝ち取るのが先決。
【付記】
今回参考にしたサイト「1st Ohio Battery」では、コロンバス移籍後のナイランダーのプレーを映像付きで分析している(カロライナ・ハリケーンズ戦、シカゴ・ブラックホークス戦)。
分析結果としては、相手にインターセプトされそうなギリギリのラインで創造的なパスを出せる選手であると同時に、味方がパワープレーの際、ブルーライン付近まで下り、そこから瞬時にスペースへ効果的なパスを散らせる、と好意的に評価されている。
一方で、不利な体勢からトリッキーなパスを出そうとするあまり、パックのコントロールが上手く行かずに背後を取られていて、シカゴ戦ではコナー・ベダードにターンオーバーされ、得点を許しているマズいプレーの指摘もあった。
NaturalStatTrick(チームや個々の選手の成績を分析するサイト。標準値を出して、プラス・マイナスを判定)によると、ナイランダーを含むラインは、オフェンスゾーンよりもディフェンスゾーンでより多くのプレーをしているが、シュートやゴール数、ゴール期待値、パックポゼッション等で標準以上の数値を出しており、今後、継続していけるかが鍵となる。
現時点で、ラインメイトをはじめ、チーム内の信頼度は高くなってきているが、連携がさらに深まるまで、リスキーなプレーを控えた方が良いかもしれないと感じた。上記引用元に映像があるので、そちらも見ていただきたい。
まとめ
最新の試合結果によると、3月6日のピッツバーグ戦は3-5で敗戦…。第2ピリオド、3-3のタイに持ち込んだまでは良かったのですが、故障者多数によるスタミナ切れか、第3ピリオドに突き放されてしまいました。ナイランダーはゴール、アシスト共に無く、やや消えていたかも。
しかし、8日のエドモントン・オイラーズ戦は4-2で勝利!第1ピリオド、怒涛の連続3得点でエドモントンの出鼻を挫いたのが功を奏しました。ナイランダーは第1ピリオドの2点目をゲット、前の試合の消極的なプレーを反省したのかもしれません。
連勝街道を突っ走っていたエドモントンから早い時間帯に得点し、勝利の一因になったのは、今後の契約を勝ち取る上で大きなプラスになると思います。ナイランダーは年俸調停権を持っていますから、尚更です。さあ、彼の反撃はこれからです!
ここまで読んでくれて、サンキュー、じゃあね!
【註釈】
- パトリック・レイン、アダム・ファンティリ、ケント・ジョンソンといったブルー・ジャケッツのフォワードの負傷欠場により、カナダ出身のスウェーデン人・ナイランダーのためのラインナップ・スポットが空いたこととなる。
4試合を通じて、ナイランダーは主にコール・シリンジャー、そして最近ではアレクサンドル・テクシエと共にサードラインを形成し、その能力はかなり良いと評価されている。
↩︎ - スウェーデン、ストックホルム出身、51歳。現役時のポジションはセンター。NHL入りはハートフォード・ホエラーズ(1992)で、以後6チームでプレーしている。全盛期は2005-06シーズン、ニューヨーク・レンジャーズ在籍時だろう。
右ウイングのヤロミール・ヤーガーとラインを組み、チーム勝ち点100超えに大きく貢献している。ワシントン・キャピタルズ時代、2度ほど契約や移籍問題で、世間を賑わせてもいる。2009年、ワシントン退団後、母国リーグを中心に2014-15シーズンまで現役でプレー。
↩︎ - ピッツバーグでの2シーズン、14試合出場して2ポイント(1ゴール・1アシスト)、ドラフト指名され、キャリア最初のチームであるバッファロー・セイバーズの3シーズン、19試合出場して6ポイント(3ゴール・3アシスト)だった。
特にピッツバーグ時代、ナイランダーは2度もウェイバー・リストに入れられた経験を持つ。ドラフト上位指名という鳴り物入りでNHLにやって来たが、NHLの他チームに対し、真剣に彼の能力に合ったチームへの移籍を考えてもらうまでに至らなかった。
キャリア・ハイは、シカゴ・ブラックホークスに在籍していた2019-20シーズで、65試合出場、26ポイント(10ゴール・16アシスト)と才能の片鱗を見せた。が、この21歳のシーズンでの実績を生かすことはできなかったのである。
↩︎ - ロチェスター・アメリカンズ、ロックフォード・アイスホッグスでもプレーしているが、何と言ってもウィルクス・バール/スクラントン・ペンギンズ時代の働きに特筆すべきものがある。
3シーズン(2021-24)で56ゴール・56アシストを決め、2022年のプレーオフでは6試合出場で3ゴール・3アシストの記録を残している。
↩︎ - 来シーズン、ナイランダーがこのチームのメンバーになるかどうかは楽観的でないとの見方もある。
コロンバスにはアダム・ファンティリのような若くて実績のある選手がたくさんいて、それら若手と比べると、ナイランダーはボトム・シックス(サード&フォース・ライン)以内に常時入れるくらいの特徴的なスキルを持っていないというのが理由の一つ。
一方で、彼がドラフト上位指名を受けたのには理由があるはずで、今後、コロンバスが彼の可能性を引き出す場合も考えられる。よって、これからの22試合、ナイランダーはマイナス面の少ないプレーを提供しなければならない。 ↩︎